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新しい週末へ

 近年のウィークエンドはサントラ『Black Panther』にてケンドリック・ラマーとのコラボ“Pray For Me”を披露したほか、ニッキー・ミナージュ“Thought I Knew You”やレイ・シュリマー“Bedtime Stories”、トラブル“Come Thru”、トラヴィス・スコット“Skeletons”といったコラボもマイペースに展開、自身主宰のXOから同郷のラッパーであるナヴやベリーを送り出すなどの動きを見せる一方、本人名義の曲はしばらく途絶えていた。それだけに今回のニュー・アルバムへの前ぶれは満を持してのものだろう。

 まず“Heartless”はメトロ・ブーミンらしいトラップ・ビートを備えたイランジェロとの共同制作によるナンバー。アダム&フライスナーの効果音/ドラム・ループ集から持ってきた“Pulsar City Alarm”(マントロニクス“King Of The Beats”でもお馴染み)を遠くにあしらっているのも印象的だ。続く“Blinding Lights”はマックス・マーティンとスウェーデンのオスカー・ホルター(シグリッド、チャーリーXCX、トロイ・シヴァン他)との共同プロデュース。ウィークエンドとはたびたび手合わせしてきたマーティンだが、これはホルターのセンスが出たと思しきニューウェイヴ風味の疾走感を湛えたシンセ・ポップとなっている(メルセデス・ベンツの電気自動車・EQCのグローバル・キャンペーン・ソングに起用され、ウィークエンド本人の出演しているCMも話題となった)。

 それに続き、今年に入って届いたのが珍しく6分超の大作となったパーソナルな風情の表題曲“After Hours”だ。こちらの共同プロデュースにはダヒーラとイランジェロ、そして90~00年代R&Bのヒット請負人だったマリオ・ワイナンズも意外な名前として名を連ねていて(繊細なメロディーメイクには彼らしさが感じられなくもない)、こちらはASMR的なノイズも織り込んで聴覚を直に刺激するようなアプローチで構築されている。現時点で公開されているこれらの楽曲から推測できるのは、10年経って原点回帰したアンビエント・サウンドのその先でリスナーにリーチしようとする姿。確実にいままでと違う全体像を立ち上げてくるであろう『After Hours』には新しい週末が用意されているはずだ。

 

ウィークエンドのオリジナル・アルバム。

 

ウィークエンドの作品。