ハミルトン・ライトハウザー(よく〈リーサウザー〉と誤記されている)は米NYCのインディー・ロック・バンド、ウォークメンのフロントマンとして知られている。ボストン生まれの彼は、90年代にリコイズ(The Recoys)のメンバーとして活動したあと、2000年にジョナサン・ファイア・イーター(Jonathan Fire*Eater)のメンバーと合流してウォークメンを結成。同世代のストロークス、インターポールらとNYポスト・パンク・リヴァイヴァルの一角を担い、一本筋の通ったロック・バンドとして尊敬を集めてきた。
が、ウォークメンは2013年に無期限の活動休止を発表。2014年のライブを最後に沈黙してしまう。それと同時にハミルトンはソロ活動をスタートさせ、これまでに『Black Hours』(2014年)、ウォークメンのギタリストであるポール・マルーン(Paul Maroon)との共作『Dear God』(2015年)、そして『I Had A Dream That You Were Mine』(2016年)という3作を発表している。特に、元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムとのコラボレーション・アルバムである『I Had A Dream That You Were Mine』は、高い評価を得た。
ウォークメンは代表曲の“The Rat”(2004年)で聴けるように、ドライで刺々しいポスト・パンク・サウンドとハミルトンの振り絞るようなヴォーカルがトレードマークだった。と同時に退廃的でゴシック、サイケデリックだけれどロマンティックなロックンロール・バンドでもあった。ハミルトンがソロで書く曲、歌う歌は、どちらかといえば後者の性格(退廃、ゴス、サイケ、ロマン)が強調されている。それゆえ彼の音楽は、どこか40年代や50年代のオールディーズをロックンロール・バンドが歌っているようにも聴こえるし、レナード・コーエンや初期のウォーカー・ブラザーズ/スコット・ウォーカーの曲をガレージで演奏しているようにも聴こえる(その意味でハミルトンは、ディアハンターのブラッド・フォードコックスやキング・クルールの先輩である、のかもしれない)。
そういったハミルトンのロマンティックで退廃的な音楽性は、4年ぶりの新作『The Loves Of Your Life』でも、それほど変わっていない。職人的な、甘くノスタルジックなソングライティング。それに比して、ガレージ・ロック・バンド然とした演奏とアレンジメント、乾いた音像。そしてもちろん、ハミルトンのソウルフルで力強いヴォーカル。前作に続いて、本作も実にすばらしい。今回大きくちがうのは、ハミルトンのホーム・スタジオ〈The Struggle Hut〉で(幼い娘たちやその先生をコーラスに迎えながら)ほとんどすべての楽器を自身で演奏し、プロダクションからミックスまで、すべての過程をみずから手掛けた、というところだろうか。
ちなみに、映画のワンシーンを引用したような印象的なカヴァー・アートは、ハミルトンが何か月もアートワークの候補を探すなかで、ニュージャージーのアート・ギャラリーで見つけたものだという。ジャーナリストのポール・ストークス(Paul Stokes)はハミルトンとの対話のなかで「(映画の)『甘い生活』(60年)みたいだ」と言っているが、実際は2001年にローマで撮影された写真で、ハミルトンは「40年代の少女のように見えるけれど、よく見ると携帯電話で話していところがおもしろいんだ」と語っている。
本作のおもしろい点は、収録されている11の曲が1曲につき1人、実在の人物をモデルに書かれているということだ。なかにはハミルトンの友人もいれば、NYCの街中で見かけた知らない人もいる。〈清掃作業員〉〈イザベラ〉〈変人ジャック〉と、曲名も人物を表すものが多い。
例えば、サイモン&ガーファンクル風のイントロで幕を開ける“Here They Come”。〈この曲は、つい問題から目を背ける友人についての歌だ〉とハミルトンは言う。〈彼はいつも映画館に逃げ込んでいるんだ。映画館で(上映が終わって)照明が点く。すると、人生のあらゆる問題にフォーカスが合う――これは、そんな瞬間についての歌だ〉。“Here They Come”のサビの歌詞はこうである。〈私は馬鹿だった/私は盲目だった/いつも目を閉じて/すべての光が/ひとつひとつ/さあ、やってくるぞ〉。
で、“Here They Come”が誰のことを歌っているのかというと……なんとこの曲は、俳優のイーサン・ホークについてのものなんだとか! ハミルトンが本人にこの曲を聴かせて、激怒したイーサン・ホークがハミルトンをぶちのめす動画があるので、ぜひ観てほしい(もちろん、演技だろうけれど……)。
ちなみに、ハミルトンが友人たちに新曲を聴かせる動画は他にも公開されていて、シンガー・ソングライターのマギー・ロジャーズ(Maggie Rogers)に髪を切ってもらいながら言葉を交わすうちに涙してしまうもの(マギーは「あなたの曲って、本当にひとりぼっちで書いてる感じだよね」と言ってハミルトンを泣かせてしまう)、モデル/女優のシエナ・ミラーがハミルトンの頭にグラスを叩きつける短いもの、といまのところ3つある。どれもハミルトンの人柄やキャラクターが出ていて、とてもおもしろい。
アルバムの話に戻ると、マギーに聴かせていた“Isabella”は、マンハッタンに住む少女の歌であるとか。彼女の両親は家賃を払ってやる代わりに、彼女の成長や自立を阻んでいる。〈「夜明けまでロックしよう」/イザベラは歌う/「私たちの夢や理想がしぼんでしまったら」/「やっておいてよかったって思う」〉。スティール・ギターの響きが穏やかな前半から、厚いコーラスがゴスペル的な高揚感を生む後半へと曲は展開していくが、空騒ぎをしたってイザベラの鬱屈とした感情は消え去らない。……という具合に、歌詞は本作の大きな聴きどころになっている。
先にレナード・コーエンの名前を引き合いに出したように、ハミルトンのソングライティングはよくレナード・コーエンと比較される。吟遊詩人のような物語の語り部であり、巧みな詩人であり、美しいメロディーを紡ぐ職人であり、カリズマティックなヴォーカリストであるハミルトンは、まさしく現代の、インディー・ロックの時代のレナード・コーエンだろう。
どこかデカダンなムードとは裏腹に、ハミルトンが人々に向ける視線は人間愛にあふれている。アルバム・タイトルが語るように、まさに〈人生における愛〉が彼の音楽にはあるのだ(Pitchforkのレビューで本作は、〈コミュニティーの祝福〉と評されている)。娘たちと自宅で歌う姿も、かっこいいったらありゃしない。〈ダンディー〉という形容は時代錯誤かもしれないからやめるとして、ハミルトンの音楽には人を惹きつけてやまないエレガンスとロマンスがある。とにかく私は、そんな彼が生み出す曲、彼が歌う歌が大好きなのだ。