天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週も悲しいニュースが届けられました。ウェイラーズの共同創設者である偉大なレゲエ・シンガー、バニー・ウェイラーが3月2日に逝去。73歳でした」

田中亮太「これでウェイラーズのオリジナル・メンバーは全員鬼籍に入ってしまいましたね。これを受けて、Mikikiは追悼記事を掲載する予定です。そのほかのニュースでは、週明けにSpotifyから多くのK-Pop楽曲がいきなり削除される、という衝撃的な出来事がありました」

天野「ついに韓国進出を果たしたSpotifyと、韓国の大手配信元であるKakaoMとの契約が更新されなかったようですね。KakaoMが自身のストリーミング・サーヴイス〈MelOn〉のシェアの独占を崩させないために強硬策に出たのでは……とも噂されています。竹田ダニエルさんが『日経COMEMO』に寄稿したコラム〈SpotifyからなぜK-popの曲が大量に消えたのか〉がわかりやすいので必読です」

田中「必ずしもすべての音楽がストリーミング・サーヴイスで聴ける必要はないと思いますが、こういったリスナーやユーザーを無視して利権を守ろうとする保身的な態度は、ちょっと気持ちよくないですよね。一刻も早く改善してほしいものです。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

girl in red “serotonin”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はガール・イン・レッドの“serotonin”です! ガール・イン・レッドことマリー・ウルヴェン(Marie Ulven)はノルウェーのシンガー・ソングライターで、〈PSN〉でずっと推している新星ですね。〈Z世代のクィア・アイコン〉なんて呼ばれています」

田中「今回、これまでとはまったくちがうサウンドだったので驚きました。いままではリヴァーブの効いた音像のドリーミーなベッドルーム・ポップ、インディー・ロック・サウンドだったのですが、今回はなんとビリー・アイリッシュのお兄さんであるフィニアス(FINNEAS)がプロデュース。ヘヴィーなロックとエレクトロニック・ミュージックが混ざり合った、劇的なプロダクションですよね。ラップ調のヴォーカルも新鮮です」

天野「一皮むけたな、と思いました。曲名の〈serotonin(セロトニン)〉は、不足するとメンタル・ヘルスの不調、特にうつ病を引き起こす神経伝達物質のこと。〈私はセロトニン不足〉という歌い出しからして、まさにガール・イン・レッドらしいメンタル・ヘルスを主題にした一曲です。4月30日(金)に彼女がリリースする待望のファースト・アルバム『if i could make it quiet』、待ちきれません」

 

No Rome feat. Charli XCX & The 1975 “Spinning”

天野「大物3組のコラボレーション・ソングが届けられました。ノー・ロームがチャーリー・XCXとThe 1975をフィーチャーした“Spinning”。チャーリーが彼らとスーパーグループを結成したとツイートしたことで、数日前から話題になっていましたね」

田中「ノー・ロームはフィリピン・マニラ出身で、英ロンドンを拠点に活動するSSW。The 1975とのコラボで有名なので、彼とチャーリー、The 1975が共演するのはそれほど不思議ではないのですが、〈そうくるんだ!〉という話題性はものすごく高いですよね」

天野「この曲は、ヴォーカルのエディットやエフェクトなどがちょっとハイパーポップっぽくて、でも過剰すぎないダンス・ポップ・サウンドなのがツボです。7インチ・シングルにA. G.・クック(A. G. Cook)のリミックスも収録される、というのは納得。あと、サイケデリック&キュートなヴィジュアル・イメージはアート・ディレクター/デザイナーの田中秀幸によるものだったので、びっくりしました。このコラボ、今後も続いていくのでしょうか?」

 

St. Vincent “Pay Your Way In Pain”

田中「3曲目はセイント・ヴィンセントの“Pay Your Way In Pain”。彼女が5月14日(金)にリリースする新作『Daddy’s Home』からの、最初のリード・シングルです。オリジナル・アルバムとしては『Masseduction』(2017年)以来ということで、“Pay Your Way In Pain”は約4年ぶりの新曲。昨年もリミックス・アルバム『Nina Kraviz Presents Masseduction Rewired』を発表していたり、YOSHIKIとのコラボがあったりと、あんまりひさしぶりな感じはしないのですが……」

天野「この曲は、『Masseduction』から引き続きジャック・アントノフ(Jack Antonoff)との共作/共同プロデュースなんですが、前作とはかなり印象がちがいますね。ダンス・ポップ的な要素が強かった前作と比較して、この曲はかなりストレンジなエレクトロニック・ミーツ・ロック&ファンクなサウンドになっています。『Actor』(2009年)や『Strange Mercy』(2011年)の頃のセイント・ヴィンセントを思い出しますね。とはいえ、タイトなドラムの響きやエディットはモダンに更新されています」

田中「個人的には、ベックの『Midnite Vultures』(99年)をアップデートしたような印象を受けました。セイント・ヴィンセントことアニー・クラークはガーディアンのインタビューで、『Daddy’s Home』にインスピレーションを与えた音楽として70年代のスライ&ザ・ファミリー・ストーンやスティーリー・ダンを挙げています。彼女が選曲したSpotifyプレイリスト〈Daddy’s Home Inspiration〉を聴くと、アルバムのムードを想像できるのではないでしょうか。アルバムでは、2019年に刑務所から釈放されたクラークのお父さんのことがメイン・テーマとして歌われているそうです」

 

Lil Baby feat. EST Gee “Real As It Gets”

天野「米ケンタッキー州ルイヴィル出身の新鋭、EST・ジーをリル・ベイビーがフィーチャーした“Real As It Gets”。アトランタのラッパー、リル・ベイビーは、いまや押しも押されもせぬトラップ・スターですよね。2020年12月の“On Me”以来3か月ぶりの新曲は、いつも以上にアグレッシヴな感じです」

田中「ちょっと早めなテンポのビートと言葉を詰め込むようなリル・ベイビーのフロウが、そういう印象を抱かせますね。プロデューサーはATL・ジェイコブ(ATL Jacob)とDY・クレイジー(DY Krazy)。ループするピアノのフレーズがヒプノティックです」

天野「〈ストリートで育った、少しだって立ち止まったことはない〉〈このクソのなかで生まれた、重罪人たちと成長した〉というリル・ベイビーのリリックがかっこいいと思いました。なお、この曲はリル・ベイビーのニュー・ミックステープ『Lamborghini Boys』からのシングルと見られています」

 

Remi Wolf & Dominic Fike “Photo ID”

田中「レミ・ウルフとドミニク・ファイクというZ世代のポップ・スターによる共演曲! この“Photo ID”も今週話題の一曲でしたね。それぞれを簡単に紹介しておきましょう。レミ・ウルフは、LAを拠点としているSSW。昨年11月、彼女の楽曲“Hello Hello Hello”のポロ&パンによるリミックスがiPhoneのCMに使われたことで注目を集めました」

天野「そしてドミニク・ファイクは、フロリダ出身のSSW/ラッパー。2020年にリリースしたアルバム『What Could Possibly Go Wrong』は、エモやチェンバー・ポップ、さらにドゥーワップなど、さまざまな要素を取り入れたポスト・ジャンル・ポップの傑作でした」

田中「そんなナウな2人がタッグを組んだのですから、ダサい曲になるわけがありません! 実はこの曲、原曲はウルフのEP『I’m Allerg To Dogs!』(2020年)に収録されていて、TikTokヒットになっているんです。新たな“Photo ID”は、ファイクのキャッチーなラップとラテン・ギターやホーンなどを使った華やかなアレンジによって、ポップソングとしての魅力が格段に増していますね。ウルフのパートのメロディーは、ちょっとマイケル・ジャクソンの“Love Never Felt So Good”(2014年)みたい。ディスコ・ポップの名曲と言えるでしょう!」

 

Silk Sonic “Leave The Door Open”

天野「こちらもスーパー・グループ! ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークがコラボレーションするというニュースを聞いてから、楽曲が聴けるのをめちゃくちゃ楽しみにしていたんですよ」

田中「新たなグループ〈シルク・ソニック〉として届けられたこの“Leave The Door Open”は、興奮するというよりも、うっとりと聴き惚れてしまう曲ですね。60~70年代のスウィート・ソウルをほうふつとさせる、アナログでヴィンテージな激甘サウンドが粋です」

天野「いやいや、僕は2人の優れたソウル・シンガーが歌い交わすさまに大興奮です! ブルーノ&アンダーソンの力強い歌を聴いていると、ミラクルズのスモーキー・ロビンソンやアイズレー・ブラザーズのロナルド・アイズレー、スタイリスティックスのラッセル・トンプキンス・Jr.といったレジェンドの歌声を思い出します。ビデオも最高なので、絶対に観てほしいです。ブーツィー・コリンズらが参加したシルク・ソニックのアルバム『An Evening With Silk Sonic』は、2021年後半にリリース予定!」

 

duendita “Open Eyes”

田中「NYを拠点に活動するデュエンディータの新曲“Open Eyes”。彼女は、可憐な高音からおどろおどろしさが漂う低音まで、幅広い音高を自在に行き来する歌声が魅力のシンガーです。この曲、序盤はジャジーなピアノと艶やかなリズム・アンサンブルが中心で、わりとストレートに〈R&Bの名曲〉といった雰囲気なんですが、曲が進むとどんどんエッジ―な印象に変わっていくのがおもしろいですね」

天野「ピッチが変調されたヴォイス・サンプルの挿入や逆再生のエフェクトなどが重ねられていって、エクスペリメンタルなムードを強めていきますよね。最終的には、彼女の声もめちゃくちゃにスクラッチされて、すごく過激な感じで終わっていく、という」

田中「この“Open Eyes”はレーベル、メキシカン・サマー(Mexican Summer)のデジタル・シングル・シリーズ〈Looking Glass〉の一作として発表されています。豊かな創造性を持った音楽との出会いをリスナーへともたらすために創設された〈Looking Glass〉は、とてもユニークで刺激的な楽曲をカタログに揃えています。毎回アートワークも素晴らしいので、この機会にぜひチェックしてみてください!」

 

Charmaine “WOO!”

天野「最後に、注目の新人の楽曲をご紹介。シャーメインの“WOO!”です。シャーメインは、ジンバブウェ生まれでカナダのトロントを拠点に活動しているラッパー。2月にワーナー・ミュージック・カナダが〈黒人歴史月間〉にリリースしたコンピレーションEP『BLACK ALLIANCE, Vol. 1』に参加したことで注目を集めたニューカマーです」

田中「バウンシーでファットなビートと、低音から高音までを歌い分けるシャーメインのラップが絡み合っていて素晴らしいですね。マイアミ・ベースをほうふつとさせるトラックにアガっちゃいました。彼女のフロウも多彩で才気走っていますし、これからメーガン・ザ・スタリオンのように成功を掴むのではないでしょうか? 今年はデビューEPのリリースを予定しているそうで、期待ですね」