今年の6月にリリースされたセカンドアルバム『Changephobia』が好評なロスタムこと、元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バトマングリ。〈変化への恐れ〉を意味するタイトルとは裏腹に、その恐れを乗り越えるために、アルバムではあえて自分が慣れ親しんだクラシックの手法を離れ、新たにジャズの要素を取り入れていた。そんな彼が次に挑んだのは、自分の曲を他人の手に委ねて変化させる、リミックスという試みだった。
この度配信されたリミックス集『Changephobia Remixes』では、ハイパーポップの中枢であるロンドンの人気レーベル、PCミュージックの首謀者で、チャーリーXCXから宇多田ヒカルまでを手掛けるA.G.クック(A. G. Cook)や、ジェイ・ポールの兄弟であるA.K.ポール(A. K. Paul)といった新進気鋭のプロデューサーたち、さらには日本のROTH BART BARONといった、ロスタムならではの審美眼で選び抜かれたメンツをリミキサーに起用。
そこからの抜粋や、クラッシュとルシンダ・ウィリアムスのカバー曲をボーナストラックに加えた『Changephobia (Special Edition)』の日本リリースを記念して行われた今回のインタビュー。ハイムやクレイロを手掛ける売れっ子プロデューサーでもある彼が、他のミュージシャンとコラボレートするうえでの心得や、フランク・オーシャンと共作した名曲“Ivy”(2016年)の制作秘話などを教えてくれた。
多種多様なリミックスが生まれた経緯
──今回のインタビューはアルバム『Changephobia』のリミックス第1集&第2集、そして〈Special Edition〉のリリースを踏まえてのものです。 リミックス集では、“Kinney”、 “These Kids We Knew”、 “From The Back Of A Cab”の3曲をそれぞれ2組がリミックスした形になっています。このリミキサーと楽曲のセレクトは、どのように進められたのでしょう?
「まず“From The Back Of A Cab”について話すと、オリジナルの曲がリリースされる前にビリー・レモス(Billy Lemos)にデモを送ったんだ。一年前くらいに彼の音楽を見つけて、すぐに気に入ってしまってね。“These Kids We Knew”は、ジャパニーズ・ウォールペーパー(Japanese Wallpaper)だったらきっとすごくいいものを作ってくれるだろうなと思って、すぐに曲を送ったんだよ。
A.K.ポールは自分がリミックスしたい曲として “These Kids We Knew”を選んでくれたんだ。“4Runner”は、イージーファン(EASYFUN)ことフィン(・キーン)にアルバムを丸々聴かせたら、彼がその曲をリミックスしたいと言ってくれた。ベン・ベーマー(Ben Böhmer)は彼が “From The Back Of A Cab”をリミックスしたいと連絡をくれて、彼の音楽を聴いたことはなかったんだけど、“From The Back Of A Cab”をダンスバージョンにするというアイデアが、すごくいいと思ったんだよね」
──全部のリミックスについて訊きたいところではあるのですが、時間が足りなくなってしまうと思うので、特に日本のリスナーからも人気の高いA. G. クックと、A. K. ポールが手がけたものについて教えてください。彼らの2つのリミックスにはどんな感想を持たれましたか?
「A.G.クックは、今回のリミックスで彼の世界観とハイパーポップサウンドを僕の音楽に取り入れてくれたから、すごく気に入っているよ。彼の世界観と僕の音楽はどこかで繋がりがあると思うんだけど、まったくかけ離れたものでもあるよね。それをうまくミックスしてくれたと思うんだ。A.K.ポールのリミックスを初めて聴いたときは、雨の音とか自然界の音を取り入れて、地球温暖化や世界の変化について歌った歌詞をとてもかっこよく表現してくれたなと思った」
ROTH BART BARONにもっとストリングスを入れてやれ
──日本でのレーベルメイトになったROTH BART BARONが“Kinney”のリミックスを担当していますが、もしこの曲をリミックスするなら原曲のドラムンベース風のリズムトラックを変えてみてほしいと思っていたので、まさにその通りになっていて驚きました。さらにメンバーの三船雅也によるコーラスも加えられた〈リメイク〉とも言える異色のリミックスになっていましたが、実際に聴いてみていかがでしたか?
「最初に聴いたときに、合唱団みたいにたくさんの人が一斉に歌ったような祝祭感のあるボーカルが使われていてびっくりした。まるで全員がひとつになって歌っている観客の中に、一人で立っているような感覚になったんだ」
──もちろん原曲の“Kinney”も好きなのですが、そもそもこの曲にドラムンベース風のビートを入れようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
「“Kinney”は、制作した全てのバージョンがドラムンベース風になっていたんだ。ドラムンベースっていうのはある意味すごく数学的な要素があるジャンルだと思っていて……ブレイクビーツを正確に2倍速にしていくっていうね」
──反対にROTH BART BARONの新作に収録された“霓と虹”をあなたがリミックスしていますが、自分はあなたが手掛けたキャス・マコームスの“Windfall”(2007年)という曲のライブバージョンのストリングスアレンジが好きなので、ストリングスを強調した今回のリミックスもとても気に入りました。この選曲、およびリミックスはどのように進められたのでしょう?
「ROTH BART BARONのリミックスは、彼らがオリジナル曲を完成させる前に取り掛かったものなんだ。彼らがすでにストリングスが入った曲を送ってきてくれて、それを聴いていてすぐに思いついたのが……もっとストリングスを加えることだった(笑)。彼らが作っていたものがすでに好きだったし、直感的にもっとストリングスを入れようって思った。逆にすべてのストリングスを取り除いちゃうこともできたんだけど、もっとストリングスを入れるほうが、僕にはおもしろく思えたんだよね。
キャス・マコームスの“Windfall”は……ワオ、よくその曲を知ってるね(笑)。インターネットで探してもあんまり出てこないのに。僕はその曲がとにかく好きで、ストリングスアレンジもなるべく原曲に忠実に行ったよ。僕の頭のなかでは、モーツァルトやベートーヴェンがよく使っていたような技法でストリングスがハーモニーを奏でているのが聴こえていたから、それを曲が始まるパートで取り入れてみたかったんだ」