前作『極彩色の祝祭』(2020年)を発表して以降、厳しい状況のなかで、精力的にライブやイベント、それらの配信など様々な活動を展開してきたROTH BART BARON。彼らはこの困難な時代を、音楽を通じてサバイブしてきた。そんななかでリリースされた新作『無限のHAKU』は、パンデミックで大きく変わった社会に目を向けた再生のアルバムだ。極彩色から白(HAKU)へ。イメージもサウンドも対照的だが、兄弟のような結びつきも感じさせる新作について三船雅也に話を訊いた。

ROTH BART BARON 『無限のHAKU』 SPACE SHOWER(2021)

 

枯山水の世界をポップミュージックで描く

――ROTH BART BARONは緊急事態宣言下で様々な活動を行なってきましたが、新作にも取り掛かっていたというのが驚きです。

「去年の12月の(めぐろ)パーシモンホールでのライブが終わった頃から、ぼんやりと新作のことを考えていたんです。曲は常に作っていて、あぶくみたいにポツポツ出てくるもののなかから綺麗な石を見つけるようにして、引っかかったアイデアをひとまず引き出しのなかにしまっておく。そして、アルバムを作るときにそれを取り出して仕上げていくんです」

――アルバムの方向が見えてから曲を仕上げていく?

「今の自分の気分とか、自分のまわりの人たちの気持ちとか、普段生活してる町のムードみたいなのを感じながら、〈次の世界ではどんな音が鳴ってるのかな?〉とか〈俺は何を鳴らしたいのかな?〉みたいなことをいつも考えていて。〈次はこうなんじゃないか?〉みたいなものが見えてきてから、メンバーを集めてセッションを始めるんです」

――今回のアルバムに取り掛かるときに見えてきたのは、どんなものだったのでしょう。

「枯山水の世界でした。前作は極彩色でしたが、今回は白のレイヤーを重ねていく感じ。そこにはいろんな白が、感情が渦巻いている。それに白って一見綺麗だけど、どこか緊張感があるじゃないですか。死装束は白だし、白は汚れを一切排除するような強い意思も感じさせる」

――白=〈HAKU〉、ということ?

「それもあります。でも、〈HAKU(はく)〉は〈吐く〉でもあり、〈迫〉とか〈拍〉とか、いろんな意味に取れる。たった2文字の言葉なのに、そこにはいろんな意味があって、綺麗な言葉にも汚い言葉にもなるんです。それが白のレイヤーを作りたい、という感覚になっていったんですよね。今の世の中って白と黒だけで、グレイな領域がなくなってしまった。みんな絶対的な正義みたいな純白を信じていて、その白さにがんじがらめになっている気がするんです。白のなかにも複雑なレイヤーがあるはずなのに」

――白の複雑なレイヤーをサウンドで表現するのは難しそうですね。

「最初は極めてシンプルにして、音の素材の美しさを際立たせたものにしようと思っていました。もっと地味でシンプルなアルバムになるはずだったんです」

――前作がエネルギーに溢れていたのに対して。

『極彩色の祝祭』は生命の危機本能が作らせたアルバムで、未知なるウイルスとの闘いに向けたものだったんです」

――「もののけ姫」じゃないけれど〈生きろ!〉っていう(笑)。

「あるいは、〈死んでしまえばいいのに〉とは言えない感じというか(笑)」

――パンデミックな状況のなかで「エヴァンゲリオン」的な気分にはなれなかったわけですね。

「90年代って、大人たちは〈死ぬ〉ってことばかり言ってきた気がするんです。僕はそんななかで幼少期を過ごしてきたんですけど、『シン・エヴァンゲリオン』を観ると、庵野さんなりに〈生きろ〉って言ってる気がしました」

――確かに。やっぱり現実に死が迫ってくると、そう簡単に〈死ぬ〉とは言えない。生存本能が起動するんでしょうね。

「そう。前作が闘いに向けたアルバムだったとしたら。新作は人間がコロナという転換期を迎えたなかで、ゆっくりと生まれ変わる準備をしている感じというか。シンプルで小さな空間のなかで、お茶を飲んで何かを感じているような作品にしようと思いました。その空間をしっかりとデザインしたい。ゆるやかでありながら緊張感もある空間にしたかったんです。そういう、ある意味アンビエントな空間を、ポップミュージックというフォーマットで作りたいと思っていました」

――それはとてもデリケートな作業ですね。

「すごく難しい作業でした。曲自体はシンプルで力強いけど、音は繊細に作り込んでいく。『極彩色の祝祭』はメンバーみんなで大きな筆を一緒に持って、荒々しい書体で一筆描きしたような肉体的なアルバムだったんです。今回は指先に神経を集中させて、和紙を一枚一枚貼っていくように音を重ねていきました。でも、作り込みすぎて聴き手に息苦しさを感じさせてしまうとダメで。曲を聴いた人が、この部屋なら入ってみたいな、と思えるような空間を目指しました」

 

エスケーピズムには行かないで、前を向く

――アルバムのオープニングナンバー“U b u g o e”から、そんな感じですね。音を削ぎ落としたトラックのなかで、研ぎ澄まされたビートがメロウなグルーヴを生み出していく。

「この曲はビートとアコースティックギターで作っていたんですけど、どんどんギターが溶けていったんです。エフェクティブな使われ方をするようになった。まるで自分のアイデンティティーが瓦解していくような感じでした。ブレイクビーツとかチョップしてビートを作っていくのは『HEX』(2018年)ぐらいからやってきたんですけど、それが自分の血肉になったというか、すごく自然なかたちで曲に取り入れられるようになった。バンドにベースが入ったことも大きいですね。ベーシストのマーティ(・ホロベック)が持っているグルーヴ感と僕の歌のリズムを擦り合わせながら作っていったんです」

『無限のHAKU』収録曲“U b u g o e”
 

――途中で入ってくる、黄昏れたトランペットが効果的ですね。

「〈主人公は今、幸せじゃないんだろうな〉と思いながら曲を作っていました。この曲の気怠さや悲しさは今年の年明けに感じたことからきていて。虚無感のなかで1年が終わって年が明けたとき、誰も外に出ないし実家にも帰らない正月を迎えた。そのときに思ったんです。今年はオリンピックも始まるし、これからはウイルスとの闘いじゃなく、人間の恨みや恐怖と闘わなくちゃいけないんだろうなって。自分はそういうものに参加したくないし、そういうことに苦しんでいる人たちに向けた音楽を作らなければいけない。空っぽの東京のフォークミュージックを作ろうって」

――その気怠さって、日本だけではないですね。最近のUSインディーのサイケデリックなサウンドって、どこか感覚を麻痺させているようなところがあって。

「わかります。アメリカやヨーロッパの音楽シーンは日本よりも大変ですもんね。亡くなっている人の数も日本とは桁違いだし、リリースされる海外の音源を聴きながら〈元気ないな〉って思ってました。そこで、僕たちはエスケーピズムには行かないで、前を向けるような作品にしたかった。だから音の一つ一つはヘルシーにしたいし、みんな健康的なマインドで演奏して、病んだ空気を出さないようにしていました。インターネットに触れると毒されるんで、その辺もコントロールして自分の内面に集中するようにしていたんです」

――ネットやメディアも、ある意味、ウイルス的なところがありましたね。不安や分断を煽るような情報を無責任に流して。

「そうですね。みんな過敏になっているから、その影響でへこまなくていいところでへこんでしまう。それを僕なりに励まして、シリアスなときはシリアスだけど常にポジティブでいようとしていました」

――だからといって、そのポジティブさを押し付けようとはしていない。サウンドの佇まいは穏やかなクール。そんななかで、ストリングスが重要な役割を担っているように思いました。

「今回はがっつり(徳澤)青弦さんと共作させてもらったんです。ロックにおけるストリングスサウンドを、新しいステージに上げるつもりで青弦さんに声をかけました。海外では、ニコ・ミューリーとかヨハン・ヨハンソンとか、クラシックや現代音楽をやっていた人たちがロックに関わるようになってジャンルの垣根がどんどんなくなってきている。ナショナルやレディオヘッドみたいに、クラシックを学んだメンバーがいるバンドは新しいサウンドを生み出しているじゃないですか。そういう動きが日本のロックシーンには見当たらず、それを自分たちがやりたいと思ったんです」

――コロナの最中に大人数のストリングスを撮るのは大変だったのでは?

「今回、無謀にもストリングスを一発録りでレコーディングしたんです。北海道に芸森スタジオっていうジョージ・マーティンがデザインした広いスタジオがあって、そこでバンドもホーンもストリングスも何曲か一発録りができた。録音した音源に合わせるのと、一緒に演奏して合わせるのとは全然違うんですよ。それは音を聴いてもわかる。やり方としては古風ですけど、血が通った音楽にするためにそうしたんです」

――核になる演奏に血が通っているから、緻密に作り込んでも温度感が伝わるんでしょうね。ストリングスをフィーチャーした曲では“Helpa”が印象的でした。どこか童謡みたいなメロディーで、不思議な雰囲気がありますね。

「自分のなかでは民族音楽を西洋に翻訳化したみたいな感覚があって、伊福部昭の音楽に近いかもしれない。ピアノなんだけど和音階で、明治時代に日本人が無理矢理、背広を着ているような感じ(笑)。ちょっと純文学の香りもするし」

『無限のHAKU』収録曲“Helpa”
 

――タイプライターみたいな音が聴こえてきますが、あの音は?

「タイプライターです。ドラムの工藤(明)くんのアイデアだったんですが、早速ネットオークションで手に入れていました。それから工藤くんに〈リズムに合わせてドラムっぽく叩くんじゃなくて、居合抜きのようにやってほしい〉って指示したんです。〈1音だけ鳴らしても空間を乱すから、茶室に何を置いたら美しいのかを考えるように叩いてほしい〉とか、めちゃくちゃなことを言ってましたね(笑)」

――茶室的な音響空間、おもしろいですね。

「どの曲も最初に〈こういう景色〉っていうビジョンがあって、その景色のなかで音が鳴ってたり、主人公が歩いてたり、生活してたりする。そこに音を近づけていくんです」

――では、タイトル曲とも言える“HAKU”はどういうイメージで作られた曲ですか?

「この曲は最初、イントロの音が出来て、このイントロだったら、工藤くんならこんなドラムを叩きそうだな、とか、地響きを立てるようなベースを入れようとか、音遊びのように作っていきました。綺麗なタイルを集めてモザイクを作っていくような感じ。この曲と“U b u g o e”と“Eternal”が出来たときに、これで新作は大丈夫だ、と確信しました。この3曲が今年の音だと思ったんです」

『無限のHAKU』収録曲“HAKU”
 

――“Eternal”から“EDEN”への流れはアルバムの最深部だと思いました。アンビエントな穏やかさとロックのエモーションが溶け合ってスケールの大きな世界を生み出している。“EDEN”でついに炸裂する岡田(拓郎)くんのギターも素晴らしい。

「まさに岡田節ですよね。今回はギターソロを許すような曲があまりなかったので、〈この曲では弾きまくろう〉となったんです。岡田くんが得意技を発揮して、どんどん駆け上がっていくようなギターを弾き、そこに工藤くんが力強いドラムを叩く。一緒に演奏していて、めちゃくちゃ感動しました」

『無限のHAKU』収録曲“EDEN”

 

美しいと思うものに正面から向き合ってモノを作るだけ

――『極彩色の祝祭』は熱いアルバムでしたが、『無限のHAKU』は深いアルバムですね。新作には、元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムによるアルバム収録曲“霓と虹”のリミックスが入っています。これはどういう経緯で?

「ロスタムのチームのスタッフから僕に、ロスタムのアルバムを日本でリリースしたいから手伝ってくれないか?って連絡があったんです。〈日本のミュージシャンでロスタムを好きって言っているのは三船さんしかいないから〉って。それで驚いたんですよ。ハイムとかフランク・オーシャンをプロデュースしていて本人の作品も素晴らしいのに、誰も注目してないの?って。本人がシャイで、あまり前に出ないからかもしれないけど。それで〈ぜひ手伝わせてください〉と返事したんです。その後、ロスタムとZoomでミーティングして、お互いの曲をリミックスしあうというのはどう?ってアイデアを出したんです」

『無限のHAKU』のボーナストラック“霓と虹 (Rostam Remix)”

ロスタムの2021年のコンピ作『Changephobia Remixes: Part I & II』収録曲“Kinney (ROTH BART BARON Remix)”
 

――ロスタムに注目するようになったきっかけは?

「『HEX』を作っていたとき、スランプになってバンドの音楽が聴けなくなったことがあって。トラップとかヒップホップばかりになった世界で、ロスタムのアルバム『Half-Light』(2017年)を聴いてボロ泣きしてしまったんです。それで救われたところがあった。彼が出す音ってすごくピュアなんですよ。ああいう音を出す人は他にあまりいない。スフィアン(・スティーヴンス)もそういうところがあるけど、ある種の少年性みたいなものがあって、曲を聴いていると、切れ味のいいナイフでいきなり胸を刺されるみたいな感じを受けるんです」

――そういう少年性はロットの音楽にもありますね。きっとロスタムもそう感じて声をかけてきたんじゃないかと思います。そういえば、CDの初回盤には、アイナ・ジ・エンド、原田郁子、小西遼など様々なゲストが参加して、今年の7月に行われた単独公演〈BEAR NIGHT 2〉の模様を収録したBlu-ray Discがつく。これも大胆な試みですね。

「この新作を出す前に、これまでの集大成的なことをやりたかったんです。ロットを通じて出会った人たちみんなに参加してもらいたかった。そしたら、非常事態宣言のなかで、ゲストも含めて総勢16名が参加してくれたんです。あのフェスを乗り越えて作り上げた新作だったので、新作を聴いてくれた人にはぜひ観てほしかったんです。普通は映像作品として単独で出すものをCDにつけるなんて、まだ誰もやってないんじゃないかと思って、そうすることに決めました。配信時代にモノとして売るんだったら、買う価値のあるフォーマットにしたいと思って。このBlu-rayはライブ配信したときとは編集が違っているし、映像も音も良くてライブの熱気が伝わってくるんです」

――緊急事態宣言のなか、ロットは勢力的にライブをしてきましたね。それを配信するというシステムも自分たちで作り上げた。〈BEAR NIGHT2〉はその集大成とも言えるイベントでした。

「〈大変なときだからやめましょう〉〈大変だけど、こうすればできる〉という2つの考え方があるとしたら、僕は後者なんです。新しいアイデアを考えるのが好きなので。学校が嫌なら別のところに行けばいい。AがダメならB、BもだめならC。工夫とアイデアがあれば、そして、それを実現できる仲間と体力があれば歌い続けられる。今、みんなは自分ではコントロールできないことに苦しんでいるじゃないですか。そんなときに何ができるかって考えたら、僕の場合は自分が美しいと思うものに正面から向き合ってモノを作る以外にないんです」

――大変な時期だからこそ、本当にやらなければいけないことが、はっきり見えてくるんでしょうね。今のロットには迷いがない気がします。

「そもそも、音楽を始めた最初のきっかけは〈自分がやりたいから〉で、世の中のことは関係なかった。自分が存在する限り音楽はやりたいし、年1回のペースでアルバムを出せるぐらいクリエイティビティーが高まっていて、幸運にもそれを形にできるんだったらやめる理由がない。そこで生まれたものを、これからも仲間やお客さんと分かち合っていきたいと思っています」

 


TOUR INFORMATION
ROTH BART BARON Tour 2021-2022『無限のHAKU』

2021年12月12日(日)京都 磔磔
2021年12月15日(水)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
2022年1月29日(土)石川・金沢 ARTGUMMI
2022年1月30日(日)静岡・磐田 BARN TABLE
2022年2月5日(土)北海道・札幌 モエレ沼公園〈ガラスのピラミッド〉
2022年2月6日(日)北海道・札幌 ペニーレーン24
2022年2月11日(金)福岡 BEAT STATION
2022年2月12日(土)熊本 早川倉庫
2022年2月13日(日)鹿児島 SR Hall
2022年2月18日(金)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
2022年2月19日(土)香川・高松 DIME
2022年2月20日(日)広島 CLUB QUATTRO
2022年2月25日(金) 愛知・名古屋 THE BOTTOM LINE
2022年2月26日(土)宮城・仙台 darwin
〈Tour Final〉
2022年4月9日(土)東京 国際フォーラムホールC
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