弱ってる人への目線
ただ、〈共感に重きを置かない〉という曲作りの裏で、彼は記憶を辿りながら弱さや不遇、カッコ悪さを語っていくことも忘れない。そのラップは、いま同じような境遇や何らかの苦難、迷いにある人々の背中を押すものでもある。〈生きてるんじゃねぇ死んでないだけ/笑ってるんじゃねぇただ怖いだけ〉と語りはじめる“いつかのヒーロー”、ノスタルジックなビートで〈俺は大丈夫いまだ迷子だが/どうにかこうにか生きてるよ〉とリスナーに歌いかける“ありのまま行こう”も、そんなアルバムの一面を映すものだ。
「過去の経験とか記憶を書いてくと、おのずと弱ってる人が背中を押してくれたって感じてくれることも多いし、自分がそういう経験したからこそ、弱ってる人に目線を向けた曲は多いかもですね。“いつかのヒーロー”で〈死ぬつもりなら飯でん食おうぜ〉って言ってるのもそうだし、“ありのままに行こう”もそう。“ありのままに行こう”では最初に〈元気にしてるかい? そっちの方は/どこ見てる? なぁお前に聞いてんだ〉って聴いてる人に歌って、そっからどんどん歌詞が進んでいくんですけど、そこで歌われてるのは過去の俺でもあるんです」。
さらに今回のアルバムでは、彼がラップを始めるきっかけとなった般若との共演が“U love song”で実現。DJ PMXの哀愁漂うトラックに詰め込むフロウを聴かせる般若に触発され、当初ゆったりとビートに乗せていたGADOROのラップも、困難に立ち向かう意志を宿した形に落ち着いたそう。
「般若さんが昔から孤独にやってきてるのを知ってて、そこは俺と似てるから、曲にしませんか?っていうところで“U love song”は始まって。一回曲を書いたら自分の中でそのフロウが答えとして出来上がるんで、それを崩すと変になるし、それを変えられる器用さもないから、基本歌詞を書き直すことってあんまりないんです。だけどこの曲は般若さんがヤバすぎたんで、最初の自分のリリックを全部消して、また書き直してレコーディングして、それでもやっぱり般若さんに負けてると思って消して、もう一回レコーディングして〈これはいいやろ〉って一通り聴いたら、〈いや負けてるわ〉と思ってまた消して……って何回も何回もレコーディングし直したっすね」。