©Nick Rutter

忘れられない夏がもうすぐやって来る。
久石譲指揮の3つのコンサートを聴き逃さないように

 日本の音楽ファン――クラシック、ポップス、ジャズを問わず、すべての音楽ファンにとってこれほど待ち望んだコンサートは無かったのではないだろうか? 久石譲とロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団による〈スタジオジブリ フィルムコンサート ツアーファイナル〉@東京ドーム。おそらく多くの人が、ロンドンのウェンブリー・アリーナ、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにおけるこのコンサートの熱狂的な成功のニュースに関心を持っていたはずだし、実際に現地に出かけて体験したというファンもいると思う。東京ドームでのコンサートは当初、7月16、17日の2日間(19時開演)のみだったが、あまりの人気に17日13時開演のコンサートが追加された。おそらく海外からやって来たオーケストラの単年での日本動員記録更新となるだろう。

 その内容もすでにご存知の方も多いと思うが、あえて書いておくと、久石譲が手がけた「風の谷のナウシカ」(1984年公開)から「風立ちぬ」までの宮崎駿監督作品の中から選び抜かれた音楽であり、すでに『A Symphonic Celebration - Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki』としてドイツ・グラモフォン・レーベルからリリースされた2枚組CDですでに体験した方も多いだろう。もちろん映像付きでのコンサートである。例えば1984年に小学6年生で「ナウシカ」を観たという方ならば、現在は50代なかばになっているだろうし、宮崎ファンの両親に連れられて観たという方もたくさんいらっしゃるはず。そして、「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」あたりからジブリ作品を見始めたという若い世代も多いだろうし、最近初めてジブリ作品を観たという小さなお子さんたちも多いだろう。そうした意味で、日本のあらゆる世代の心に訴える内容を持った音楽が、日本だけでなく、世界中で人々の心をとらえているという事実には、やはり驚きと感慨を隠せない。

 さて、この夏のコンサート情報はそれに止まらない。まず、東京ドーム公演の終わった後、7月24、25日の両日、久石指揮のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団はサントリーホールに登場。ここでは宮崎&久石のコンビによる最新作「君たちはどう生きるか」から、“The Boy and Heron for Piano and Orchestra”(日本初演)が演奏され、ロサンゼルス・フィルハーモニックによりウォルト・ディズニー・コンサートホールで世界初演された“ハープ協奏曲”(2024年11月14日)も日本初演される。この作品について、少し追加しておくと、この“ハープ協奏曲”は世界初演を担当したロサンゼルス・フィルハーモニックをはじめ、ボルドー国立オペラ、フィルハーモニー・ド・パリ、シンガポール交響楽団の共同委嘱作品であり、ロサンゼルス・フィルハーモニックのハープ奏者であるエマニュエル・セイソンがソリストを務める。もちろんサントリーホール公演でもセイソンが演奏する。

 そして久石の“Metaphysica(交響曲第3番)”がそれに加わる。この交響曲は新日本フィルハーモニー交響楽団の創立50周年を記念して書かれた(2021年)作品で、コンサートでマーラーの“交響曲第1番”と一緒に演奏されることを前提に書かれたと、久石自身がコメントしている。タイトルは日本語に訳すと〈形而上学〉という意味だが、〈僕の場合は音の運動性のみで構成される楽曲を目指した〉とこれも久石がコメントしている。

 この3曲でのコンサートはおそらく初めての組み合わせということになると思うので、久石という作曲家がどんな音楽を目指し、また様々な関わりの中で、どんな表現スタイルを模索して来たかということも見えて来る、そんなコンサートになりそうな気がしている。