THE NOVEMBERS『At The Beginning』さらなる高みでありスタート地点――L’Arc~en~Cielのyukihiroと作り上げた超弩級の傑作

2020.05.14

影響を受けてきた諸要素を渾然一体に溶け合わせた前作のアプローチを継承しながら、まったく別の境地に到達した感のある新作。多くの楽曲のプログラミングをyukihiro(L’Arc-en-Ciel)が手掛けており、インダストリアル~EBM的なビートがこれまで以上に際立ち、アルバムを貫通する軸として機能している。また異様に解像度の高い立体的な音像も特色で、あらゆる音がクリアすぎるが故に、どこか空虚なニュアンスも携えて耳に飛び込んでくる。ゴスを起点にエスノ~ニューエイジも採り込みながら、「AKIRA」に通じる荒廃と希望を描く本作は、2020年現在の世界に痛切に響くはず。透明感に満ちたシンセと歌が交錯するバラード“開け放たれた窓”があまりにも美しい。

 


2020年4月3日、突如届けられたのは、THE NOVEMBERSがニュー・アルバムをリリースするとの報。2019年3月にリリースされたあの傑作『ANGELS』から、まだ1年しか経っていない。なんというスピード感だろう。〈もう!?〉という驚きを覚えたのが、まず最初の感想。

さらに驚いたのは、収録される9曲中7曲でL’Arc~en~Ciel/ACID ANDROIDのyukihiroがシーケンス・サウンド・デザインとプログラミングで参加している、という事実。小林祐介(ヴォーカル/ギター)がL’Arc~en~Cielをリスペクトしていることは周知のことであるし、小林やTHE NOVEMBERSがACID ANDROIDと共演しているのも知られていること。しかし、ここにきてTHE NOVEMBERSの新作にyukihiroが深く関わっている……というニュースを聞いて、期待が高まらずにはいられなかった。

さて。そんなTHE NOVEMBERSの新作『At The Beginning』のCDが、先日ついに届いた。数回聴いた感想を一言でいおう。超弩級の傑作。前作を超え、さらなる高みへとバンドがのぼっている。それくらい、すごい。

特筆すべきは、『ANGELS』ではまだ歪さを残していたプログラミングのビート(たとえば、“Bad Dream”のハイハットやシンバルの音)やシンセサイザーのシーケンスとバンドのライブ・サウンドとの融合が、本作ではより高次元で試みられていること。EP『TODAY』(2018年)から試みられてきた実験に次ぐ実験の、最新の成果がここにある、と言えよう。

そのエレクトロニック・サウンドとライブ・サウンドとの融合においては、yukihiroという優れたメンターを得たのが大きいだろうことは、もちろん想像に難くない。アナログ・シンセにこだわりを持ち、シンセ・ポップやニューウェイヴ、インダストリアル、EBMに造詣が深いyukihiroの手腕は、本作の至るところで発揮されている。

90年代のナイン・インチ・ネイルズをほうふつとさせるヘヴィーな“理解者”では、〈インダストリアルの正調〉とでも言うべき機械音や金属音、マシーナリーなハイハット、ノイズが幾層ものレイヤーでバンド・サウンドの上に重なり合っている。“Dead Heeaven”や“Hamletmachine”にしてもそうで、ギター、ベース、ドラムスによるライブ・バンドの生々しいヘヴィネスと、冷たく反復するエレクトロニクスが協和し、調停する様をこれらの曲は伝えている。まるで建築物や彫刻のような、輪郭線とデザインとレイヤリングのパワー。

一方で、エレガントなシンセ・ポップ調の“薔薇と子供”や“New York”は、ライブ・サウンドのヘヴィネスからひたすら逃走している。その対比ゆえに、アルバムの終幕“開け放たれた窓”のかわいらしく、どこかチープで、清らかで透き通ったムードは感動的である。アポカリプスを迎えた後の、瓦礫の上に立っている清々しい感じ、というか。

〈過去はくれてやる/ありったけを全部/昨日の僕らじゃ信じられないよここは/いままで大事にしてきた/リボン付きの箱たち/明日には全部あっけなく/がらくたになるよ〉(“New York”)。ビートルズ以来、ロック・バンドにとって〈進化せねばならない〉というプレッシャーは、たしかにあったはず。しかしそんな圧力をものともせず、作品ごとに聴き手の想像のはるか上をいってしまうバンドがこの国にはいる。回顧とも懐旧とも無縁な、ただひたすら前だけを見つめているTHE NOVEMBERSがいるという事実は、なんとも頼もしい。〈始まりのとき〉〈まず手始めに〉と宣言するアルバム・タイトルの心強さといったらない。さあ、『At The Beginning』というスターティング・ポイントから、ここからもう一度始めよう。コロナ禍によって、社会とシステムのさまざまな粗や限界が露呈して、ゼロ地点に戻ったかのようないま、これほどそのサウンドトラックにふさわしい音楽はない。

しかし彼らのライブでは、こうした成果が鳴り響く轟音によって粉々に打ち砕かれ、強烈なノイズとともに聴き手に突きつけられるのもまた本当のこと。いまはTHE NOVEMBERSのライブを観られる日を、とにかく心待ちにしている。

『At The Beginning』は現在、THE NOVEMBERSの通販サイトで販売中。5月16日(土)からはBandcampで販売が始まり、5月27日(水)からはタワーレコードなどのCDショップで買えるようになるほか、各ダウンロード/ストリーミング・サーヴィスで販売、配信される。

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