Page 2 / 3 1ページ目から読む

トランス研究から生まれた〈Pointillistic Trance(点描的トランス)〉

彼は自身の最大の関心の一つであるトランス・ミュージックのトラックを研究していく中で、同ジャンルに於ける〈ビルドアップ〉と呼ばれる部分に惹かれ、これを自分なりの視点で捉えている。そして、ベースレスのストラクチャーを土台に、徹底したミニマリズムの中へとトランスのシンセの煌びやかさと恍惚を落とし込んだ〈Pointillistic Trance〉(点描的トランス)なる画期的なコンポジションに到達した。

※編集部注:トランスの楽曲構造の中で、曲のもっとも盛り上がる部分に向かっていく(ビルドアップしていく)パートのこと

2012年には、このアイデアを全面的に詰め込んだ一作『Quantum Jelly』をオーストリアの名門レーベル〈Editions Mego〉から発表。一発録り、一切のオーヴァー・ダブなし、使用楽器はシンセサイザー(RolandのJP-8000)のみという思い切ったサウンドは早耳のリスナーの間で話題を呼ぶこととなった。

2012年作『Quantum Jelly』収録曲“Makebelieve”

その兄弟作ともいえる〈Boomkat Editions〉からの2014年作『Superimpositions』では、前作でも披露した禁欲的で極端なアプローチを、より明快なモアレ・パターンやベース・ミュージックを始めとした幅広い楽曲的構造へと落とし込むことでさらにアップデート。

2014年作『Superimpositions』収録曲“Elegant, And Never Tiring”

そして、2016年には90年代ハード・トランスの〈研究〉という側面も強いEP作品『Persona』で遂にワープからデビュー。ミニマリスティックな意匠を極めた『Quantum Jelly』への回帰を感じさせるが、センニ自身が活動初期に携わっていたハードコア・パンクや、アニメ、サイバーパンク、日本文化からの影響も引き入れた本作に於いては、シンセは多重録音され、エディットやエフェクトの追加など、サウンド・デザインに大胆な変化が加味されている。同作もベースレスな構成ながら、アグレッシヴにシンコペートするリズムや執拗なループが生み出すパーカッシヴなサウンドを軸に、ダンス・ミュージックとしての骨格をさらに強靭なものへと進化させている。この作品以降、センニはワープから多数のシングル及びEPをリリースしている。

2016年作『Persona』収録曲“Win In The Flat World”

 

師匠は写真家グイド・グイディ

このように果てしなくトランス・ミュージックを愛慕し、それに取り憑かれているセンニ。その過去に遡ってみよう。アドリア海沿岸の小都市リミニの出身のセンニは、当時地元で賑わっていたパンク/ハードコア・シーンの中に身を置き、10代の頃からドラマーとして活動、様々なミュージシャンから影響を受ける。バンドでシンセサイザーを用い始めた頃から電子楽器が身近なものとなり、高校に入るころには、様々なライブに足を運び、エレクトロニック・シーンにも関心を持つようになった。

大学で音楽学を学び始めたことから、本格的にエレクトロニック・ミュージックに目覚め、ヤニス・クセナキスやジョン・ケージといった電子音楽のパイオニアを聴き込んだという。そして、音楽自体にはさほど関心はないままクラブで触れたトランスの〈ビッグなメロディー〉はしっかりと彼の脳裏へと焼き付き、2011年頃に制作していた理論的なコンピューター・ミュージックにそのサウンドやメロディー、エモーショナルな要素を応用していったのである。

また、センニにとって写真はとても身近なもので、自身の師匠はミュージシャンではなく同郷の著名な写真家のグイド・グイディであり、時間が許す限り彼のもとで過ごしたセンニは、同氏の客観的かつコンセプチュアル、ミニマリスティックな写真撮影から大きく影響を受けたとも語っている。

そして、これらのインスピレーションはセンニのアーティストとしての側面のみならず、自身の主宰するレーベル〈Presto!?〉のキュレーションに於いても大いに発揮されている。

レイヴ文化から幾何学、宇宙にまで至る思考をコンピューターの電子音のモアレへと落とし込むスペインのEVOL、マーク・フェル以降の生体的なエレクトロニック/テクノの真骨頂であるガボール・ラザール(Gábor Lázár)といった面々を始め、コンセプチュアルなサウンド・アーティストからエレクトロニック・ミュージシャンに至るまで、学際的な視点に立ちつつもセンニ自身の直感性を感じさせるユニークな音楽家たちが〈Presto!?〉には揃っているのだ。

EVOLの2016年作『Do These』収録曲“Do These One”

ガボール・ラザールの2014年作『ILS』収録曲“ILS.3”