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原 摩利彦と角銅真実、初対面だけど近いふたり

――原さんと角銅さんは今日が初対面(取材はオンラインで行われたので実際にはPCのモニター越しだった)とのことですが、お互いに存在は知っていたという感じでしょうか?

原 摩利彦「はい、もちろんです。共通の知り合いが多いので。エンジニアのzAkさんもそうですし、『oar』のクレジットを見ても、ストリングス・アレンジを担当している網守将平くんや、フィールド・レコーディングで参加している大和田俊くんなど、知り合いの名前がたくさん」

角銅真実「ああ、そうなんですか!」

「だから、僕はけっこうナゾだったんですよね。『oar』は歌のアルバムなのに、参加している人たちが、エクスペリメンタルなこともやっている網守くんとか、サウンド・アート寄りの大和田くんとか、あと即興シーンの人たちも近いところにいますよね。一体、角銅さんってどういう人なのかな?と思っていました」

角銅「私はダミアン・ジャレさんの舞台の音楽で原さんのことをはじめて知って、なんだか夢の中の人みたいな、どことも関係せず、ただ宙にぽって〈おる〉っていうイメージでした。この音楽を作っている人は本当に存在しているのだろうか?って」

※編集部注:コレオグラファー/ダンサーのダミアン・ジャレと彫刻家の名和晃平によるダンス作品「Vessel」。ダンサーとして森山未來らが出演。初演は2016年

「Vessel」トレイラー

「ああ、残念ながら存在してしまいましたね。すみません(笑)」

角銅「今、しゃべっていてすごく不思議な感じです」

「角銅さんは東京藝大ご出身ですよね。バリバリエリートなんですよ。だけど、そういった経歴とかが前面に出ないところが面白いなと思って」

 

『PASSION』は〈怖い〉アルバム

――お互いの新作アルバムをお聴きになっていかがでしたか?

角銅「『PASSION』、素晴らしかったです! と同時にちょっと怖くて……。寝ているとき、明け方にちょっと目が覚めて、起きようとするとズンッて落ちることってあるじゃないですか」

「ああ、ありますね」

角銅「そのとき、このまま落ちたらどこに行くんだろう?って思うのですが、それに似た怖さを感じました。それは原さんが音楽に向かっている、そのエネルギーなのかも。建物としてはオープンで、美しくて、誰でも入って行けるけれど、入ってみたらズンッみたいな、無意識の世界にあるものを感じました」

「ありがとうございます。そこはちょっと意識しているところではあるので、そういう風に捉えてもらえたのは嬉しいとともに、意図したことがある程度は成功しているのかなと」

角銅「めっちゃ成功してるんじゃないですか」

『PASSION』収録曲“Passion”。ミュージック・ビデオは京都の両足院で撮影され、森山未來が出演している

「入り口は広くしておかないと、いろいろな人に聴いてもらえないですからね。そのまま落ちずにすうーっと出て行く人もいるでしょうけれど、聴き方によっては、より深いところまで行けるというのが理想ですね」

角銅「最後から2曲目の“Confession”、あれは本当に怖い。何回か〈ああ、戻れなくなったらどうしよう?〉ってなりました」

『PASSION』収録曲“Confession”

「角銅さんの『oar』は1曲目の“December 13”から引き込まれました。ごく自然体なのに、ループになるところがずっと耳に残って。いろんな不思議な音も入っていて、いいですよね。

あと“6月の窓”の終盤でリヴァーブのきいたギターが入るところがあるじゃないですか。そこが僕にとっての〈落ちる瞬間〉でした。そこまではメジャーのアルバムらしい?、スタジオで作った音がしていたのに、急にそこでスポーンと異質な音が現れる。ハマるポイントですね」

――なるほど、そういった共通点があるのですね。

角銅真実の2020年作『oar』収録曲“December 13”“6月の窓”