田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週は〈Song Of The Week〉にノーネームの“Song 33”を選びました。この曲について続報があったようですね」
天野龍太郎「そうなんです。あの曲を発表した数日後、ノーネームは〈エゴにとらわれてしまっていた〉と謝罪。目の前の運動に注力すべきだったのに、と後悔しているようです。J・コールの楽曲“Snow On Tha Bluff”に端を発する一連の出来事については連載の前回と、FNMNLで佐久間裕美子さんが書かれた記事をぜひ読んでみてください」
田中「佐久間さんの記事、すごくわかりやすかったです。それにしてもジョージ・フロイドさんの暴行死から起こった人種差別への意識の高まりは、ポップ・シーンにさまざまな影響を及ぼしていますね。今日も、ディクシー・チックスが〈チックス〉に改名したというニュースがありました」
天野「改名についての具体的な理由は述べられていないのですが、昨今の時流が影響を及ぼしたのはまちがいないでしょうね。〈dixie〉というのはアメリカ南軍の行進歌に由来する言葉なので。他にも、〈Whities〉や〈One Little Indian〉といったレーベルが名前を変えたことも話題になりました。さまざまな配慮がなされていくことはとても望ましいのですが、一方で言葉狩りになるのはよくないなと……。それでは、〈Song Of The Week〉とプレイリストから」
1. Beyoncé “BLACK PARADE”
Song Of The Week
天野「今週の一曲といえばこれ! 〈SOTW〉はビヨンセの新曲“BLACK PARADE”です」
田中「1865年6月19日に奴隷が完全に解放されたことを記念して、アメリカでは毎年この日を〈ジューンティーンス(Juneteenth)〉という祭日として祝っているそうですね。しかも、最後に奴隷が解放されたのはビヨンセの故郷でもあるテキサス。というわけで、ジューンティーンスに合わせてこの“BLACK PARADE”が発表されました」
天野「超失礼な話かもしれませんが、〈BLACK PARADE〉と聞くとマイ・ケミカル・ロマンスを思い出しちゃうんですよね……(笑)。それはさておき、ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動が大きなうねりとなっているいま、力強い女王ビヨンセの帰還は喜ぶべきことでしょう。〈いよっ! 待ってました!!〉って感じです。〈私は私たち、黒人すべてのために/クロームのはがね、黒人所有(黒人経営)/黒味、マット・ブラック〉などなど、この曲では〈black〉という単語が繰り返し歌われていて、迷いのないブラックネスの称揚は本当にかっこいいと思います。〈さあ、私のパレードについてきて〉という呼びかけは、いま路上でさまざまな訴えを人々にとって、どれほど心強いことでしょうか」
田中「ビヨンセはInstagramでこんなコメントを発表しています〈良いジューンティーンスの週末を! これからも困難のなかで私たちが喜びを分かちあい、お互いを称えつづけることを祈っています。私たちの美しさ、力、勢力を忘れないでください〉。彼女のようなパワフルなリーダーが音楽シーンにいてくれてよかったと感じますね」
2. Bright Eyes “Mariana Trench”
天野「次はブライト・アイズの“Mariana Trench”です」
田中「8月21日(金)にリリースされる予定の、9年ぶりとなるアルバム『Down In The Weeds, Where The World Once Was』から4曲目のリード・シングルですね」
天野「ブライト・アイズといえば、コナー・オバースト(Conor Oberst)によるソロ・プロジェクト/バンド。2000年代にはUSインディーのカリスマ的な存在感がありましたよね。亮太さんも2005年の来日公演に足を運んだんだとか。若いリスナーはフィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)とのデュオ=ベター・オブリヴィオン・コミュニティ・センター(Better Oblivion Community Center)から彼のことを知った人も多いかもしれません」
田中「コナーはフィービーの新作『Punisher』にも参加していましたね。ブライト・アイズは2011年以降、無期限活動休止状態にあったのですが、今年の1月にバンドのInstagramでニュー・アルバムを制作中と発表。3月には復活後初のライブとなる来日公演が予定されていました。コロナ禍によって中止になってしまいましたが……」
天野「残念! 彼らは3月に発表した“Persona Non Grata”以降、ほぼ毎月新曲を発表してきました。〈PSN〉でも毎回候補には挙がっていたのですが、今回ようやく紹介できましたね」
田中「これまでの3曲もよかったですけど、この“Mariana Trench”はとりわけメロディアスですね。浮遊感のあるシンセサイザーと、打ち込みも使ってるのかな……タイトなビートが気持ちいい。2005年の『Digital Ash In A Digital Urn』をちょっと想起させる楽曲です」
天野「あのアルバム、僕も好きです! この曲、後半に出てくる怒涛のドラミングと高らかなホーンの響きに興奮します。クレジットを見ると、なんとクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョン・セオドアがドラムを叩いているんだとか。しかもベースはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー! ヤバい組み合わせです」
田中「そりゃ演奏がすごいはずだ。なお、ブライト・アイズは今週の初めにアメリカの人気TV番組〈The Late Show With Stephen Colbert〉でこの曲をパフォーマンスしました。その映像がYouTubeに公開されていますので、そちらもぜひ。バンドがいい状態であることが伝わってくる演奏ですし、日本での振替公演が早く実現してほしいですね!」
3. Samia “Fit N Full”
天野「3位はサミアの“Fit N Full”。これは個人的に今週一押しの曲! 実は、サミアは一度〈PSN〉で紹介しているんですよ。読者のみなさん、覚えていますか?」
田中「2019年2月に“Lasting Friend”という曲を紹介しましたね。サミアはシンガー・ソングライターのサミア・フィナティー(Samia Finnerty)によるバンドで、拠点はNY。そんなサミアの新曲は、8月28日(金)にリリースされるデビュー・アルバム『The Baby』からのシングルです」
天野「一聴した感じはジャングリーなギター・ポップ/インディー・ポップだと思うんですけど、サミアのクセのある歌い方と声、めちゃくちゃポップで胸キュンなメロディーラインがすごくいいんですよね。彼女のどの曲を聴いてもそう思います」
田中「〈ものすごく暑くて/このレストランで/お母さんがくれたものをあなたに全部見せる/素っ裸になってしまうかも〉というサビの歌詞が強烈。ちょっと蠱惑的なラインにも思えますが、プレス・リリースでは自分自身の身体イメージについての歌詞であることが語られているとか」
天野「ちょっと訳してみます。〈いくつか理由があって、『ぴったり(fit)』と『いっぱい(full)』は、私にとって相互に特別な言葉だといつも思っていたんです。この曲を書いているとき、私は(NYの)イースト・ヴィレッジ住んでいて、周囲の魔法やカルチャーに圧倒されていました。そして、文字どおり自分のクソみたいな身体について考えることしかできなかった。ヴェセルカ(イースト・ヴィレッジのウクライナ料理店)の窓に映った女性(自分自身)ではなくて、自分がなりたい人物の視点からこの曲を書いてみました〉。甘酸っぱいインディー・ポップのなかに、そういうパーソナルな悩みが書き込まれているわけですね」
田中「でも最近は、ありままの体型を認めよう、という〈ボディ・ポジティヴ〉ムーヴメントもあります。はっきりと明言されていないものの、そういう意味が込められているようにも感じました。だから、〈お母さんがくれたものをあなたに全部見せる〉というラインがあるんじゃないかなと!」
4. Jack Harlow feat. DaBaby, Tory Lanez & Lil Wayne “WHATS POPPIN (Remix)”
天野「4位はジャック・ハーロウ“WHATS POPPIN”のリミックス・ヴァージョンです。客演はダベイビー、トーリー・レインズ、リル・ウェインという3人。先輩であるウィージーから、いまをときめくダベイビーまで、とにかく豪華な一曲!」
田中「ジャック・ハーロウは98年生まれ、まだ22歳の若手ラッパーですね。米ケンタッキー州ルイヴィルの生まれで、同地の音楽コレクティヴ〈プライヴェート・ガーデン(Private Garden)〉の設立者。いくつもミックステープを発表していますが、最大のヒット・ソングが今年1月に発表したこの“WHATS POPPIN”です。Billboard Hot 100で16位にまで上がっています」
天野「ジェットサンメイド(jetsonmade)を筆頭に4人のプロデューサーが関わっているこの曲。延々とループするピアノのフレーズがめちゃくちゃ印象的ですね。一度聴いたら忘れられません。原曲は何度か耳にしていて、TikTokでも聴いた覚えがあります」
田中「それにしても、相当アクの強いラッパーが4人も集まっていますね。ハーロウ、ダベイビー、トーリー、リル・ウェインの順でラップしていて、トーリーのスキルフルな高速ラップが印象的です。ちなみに、曲名の〈What’s poppin’?〉というのは、電話などであいさつ代わりに〈調子どう?〉という感じで呼びかける言葉なんだとか。ハーロウ自身が解説しています。このリミックスも大ヒットしそうですね!」
5. Pure Bathing Culture “Something Silver ”
天野「今週最後の曲は、ピュア・ベイシング・カルチャーの新曲“Something Silver”」
田中「彼らは米ポートランド出身の男女デュオですね。2012年に故リチャード・スウィフト(Richard Swift)が録音を担当したセルフ・タイトルのEPでデビュー。以降も、清涼感溢れる歌声とラウンジ―なシンセ・サウンドを組み合わせたドリーム・ポップで人気を集めてきました」
天野「いいバンドだとは思うんですけど、個人的にはどの作品もそんなに変わり映えしないと思っています(笑)。この曲もさっと聴き流していたので、全然ピンとこなくて……。でも、亮太さんはえらく気に入ってたみたいですね」
田中「たしかに〈何か新機軸があるのか?〉と訊かれたら返答に窮するところもあります……。2019年の最新アルバム『Night Pass』は、彼ら流のヨット・ロック解釈を推し進めた作品だったのですが、“Something Silver”もその延長線上にあるのかなと。でも、『Night Pass』にあった〈いかにも80年代〉な仰々しさが希薄で、よりポップスとして磨き上げられた印象ですね。ベスト・コーストの“For The First Time”の隣に置きたい感じ」
天野「えーっと……。要は、亮太さんの趣味とかツボとかってことですね(笑)。連載を私物化するのはやめてもらえますか? 〈PSN〉はポップ・シーンの必聴曲を選んでいるんですから!!」
田中「まあまあ(汗)。今回プッシュしたのには、みなさんに知ってほしいことがあるからなんです。実は、この曲を収録する7月3日(金)にリリースのEP『Carrid』は、リチャード・スウィフトに捧げたものなんですよ。優れたSSWであり、シンズやブラック・キーズに貢献したスウィフトが2018年に亡くなった直後、彼のスタジオで録音したそうなんです。この『Carrid』というタイトルも、スウィフトのバース・ネームである〈Ricard〉のアナグラムなんだとか」
天野「なるほど。ちょっとぐっときました。バンドはEPについて〈私たちが友だちと再会できる場所になった〉と言っています。この曲に興味を持った方は、ぜひリチャード・スウイフトの作品も聴いてみてください!」
