©Blair Caldwell

TURN THE COUNTRY ON!
ビヨンセやポスト・マローンの越境によってさらに盛り上がったカントリー音楽の世界!

 第67回グラミー賞にて11部門という最多ノミネートを果たしたビヨンセ。それに続くのがポスト・マローン(ら)の7部門ノミネートとなる。もちろん、ビヨンセは初のカントリー・アルバム『COWBOY CARTER』が評価された結果であり、ポスト・マローンにしても初のカントリー作品『F-1 Trillion』が大ヒットしたのは言うまでもない。そういう見え方の部分だけから考えても、2024年のアメリカの音楽シーンはカントリー音楽に大きく比重を傾けていたといえる。そこにジェリー・ロールのブレイクや前年からのザック・ブライアンの流れなども考え合わせれば、ここ数年のUSシーンがそうした傾向にあることは明白だろう。

 ただ、多くの日本のリスナーにとって未知のシーンということもあって一口に〈カントリー〉と括ってしまいがちな音楽ながら、あらゆるロックを〈ロック〉としてひとまとめの傾向で捉えることが難しいのと同じように、ナッシュヴィルの産業ポップス的な王道の意味合いにおけるカントリーもいれば、昔ながらのカントリー&ウェスタン勢やアウトロー系もいるし、サウンドの傾向もハートランド・ロック的だったりハーモニー・ポップ的だったりジャズやヒルビリーやフォーク寄りだったりヒップホップ的なアプローチだったり実にさまざま。そこにブルーグラスやアメリカーナといった近似する別枠とクロスオーヴァーする界隈も含めればその広がりにはなかなかのものがある。また、それだけ広がっている以上、リスナーの層も単なる保守的なイメージで一面的に捉えることはできないだろう。

 古くはレイ・チャールズやティナ・ターナー、キャンディ・ステイトン、後年でもライオネル・リッチーのような人がカントリーと括られる作品を出していたように、もともとソウル・ミュージックとカントリーの間の表現的な意味での垣根は高かったわけではない。それでも今回のビヨンセやポスト・マローンの場合は名前のあるアーティストが1つの表現スタイル/トレンドの1形態としてカントリーに大々的に取り組んだことも大きいわけで、それらの革新的なチャレンジが今後どういった方向に推移していくのかも注目だ。

 一方で、そうした〈外〉からの変化を受け止めるまでもなく、現行のカントリー・アーティストたちもそれぞれに多様なスタイルで各々の表現を繰り広げていることも忘れてはならない。自身をカントリーに括られることを好まないザック・ブライアンのような人もいるし、オーヴィル・ペックやブレランドのように類型的ではない聴こえ方の音楽をやっても自身をカントリー・アーティストと規定するような人もいる。何にせよ、アーティスト個々の表現を踏まえていろいろ聴いてみることをオススメしたい、という話です。