2020.06.26

1974年の録音から46年越しにリリースされたニール・ヤングの未発表アルバム『Homegrown』は、輝かしい未来の実現を信じて決別を肯定する歌詞によって幕を開ける。この歌詞における〈You〉は友人や恋人、家族と多義的であるが、いま聴くと彼が〈ありえたかもしれない別の自分〉に向かって語りかけているように感じられてならない。

数年前、キャロル・キングが『Tapestry』(71年)の完全再現ライブにおいて“So Far Away”を歌った際にも、〈愛の終わりを嘆く〉という当初想定されていたであろう意味を超え、年齢を重ねた現在の彼女が若かりし日の自分に向かって語りかけているかのような、何ともメランコリックなニュアンスが漂っていたが、歌というものにはそれが歌われる状況次第でニュアンスを決定的に変じてしまうところがある。

もちろんそれは歌に限らず、すべての表現に関して言えることであろう。たとえばパンク・ムーヴメントをはじめ、さまざまな音楽的季節を通過したいま、改めて本作を聴くとそのサウンドの現代性に驚かされる。ペダル・スティール・ギターが随所で用いられたアレンジからは、ルーツ・ミュージック再発見の流れで近年脚光を浴びている〈アメリカーナ〉と地続きであることが感じられるし、音数の切り詰められた隙間の多いバンド・アンサンブルからはウィルコやビッグ・シーフといった後進のインディー・ロックバンドのそれとの共通性をはっきりと読み取ることができる。

いまの音楽に直接連なるような音楽的萌芽をいくつも内包していながら、封印されたアルバム。本作が予定通りに発表されていたら、音楽史は少し違ったものになっていただろうか? それは誰にもわからない。何しろ私たちには、いまここ以外を知る術がないのだから。

だがこれだけは、はっきりと言える。もし本作が封印を解かれぬままであったなら、いま私がこうして筆を取っていることもなかった。当たり前ではあるが、感慨を覚えずにはいられない。

本作を聴けばきっと、無数の分岐の末に現象している〈いま〉を肯定したくなる。たくさんの後悔を抱えた大人にこそ勧めたいアルバムだ。
 

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