ロック・シーンにおける孤高のレジェンドがまた動き出した! ロッキー山脈の高地にある納屋にて3年ぶりに暴れ馬と集結して臨んだ『Barn』にはスピリットに溢れた伝説の続きが渦巻いている!
いま必要とされていた作品
〈Farm Aid 2021〉への出演を辞退すると同時に、現状行われているライヴは〈スーパー・スプレッダー・イヴェント〉と言い切り、〈無責任な自由の偽物のパーティーだ〉と糾弾。大手プロモーターたちの金儲け主義が新型コロナウイルスの感染拡大を招いていると激しく非難していたニール御大。やっぱり怒ってらっしゃったか、と感じたものだが、こういう火の玉ストレート級の正論をぶつけてくれるからスカッとする。ニール・ヤングは、今日も自身が正しいと信じることを貫き通している。
正しいことをやり続けている、ってことでは、ここ2年ほどの新旧取り混ぜた怒涛のリリース攻勢もそれにあたると言えよう。振り返ってみると、2020年6月に未発表アルバム『Homegrown』の正式リリースがあって、2003年に行ったツアーの模様を収録した『Return To Greendale』も届けられた。新しい音源でいうと、外出自粛期間中に生配信してきた〈Fireside Sessions〉内の〈Porch Episode〉で演奏された曲をまとめたEP『The Times』がある。自身の代表曲“Ohio”“Southern Man”やボブ・ディランの“The Times They Are A-Changin'”などを限りなくシンプルなスタイルで表現した楽曲集だったが、揺れ動く時代を生きる者たちへ正しいメッセージを発信しようとする熱い気概に思いっきり心動かされたもの。前米国大統領に物申す“Lookin' For A Leader 2020”も強烈な一発だった。
2021年に入ると、伝説の日本武道館公演の模様も含むボックス・セット『Neil Young Archives Vol. II(1972-1976)』が登場。続いて名作『After The Goldrush』の〈50周年記念エディション〉があり、そのアルバム発表直後の1971年1月22日にコネチカット州ストラトフォードで行われたライヴ音源『Young Shakespeare』も蔵出し。クレイジー・ホースと劇烈なパフォーマンスを繰り広げる90年の未発表ライヴ作『Way Down In The Rust Bucket』にも興奮した。そして自作曲の著作権50%をヒプノシス・ソングス・ファンドに売却したという情報に続き、オフィシャル・ブートレグ・シリーズの第1弾となる『Carnegie Hall 1970』が届く。他にもクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの金字塔『Deja Vu』の充実した50周年記念盤もあって、こちらの処理能力が追いついていないのが実情。でも御大はそんなことなど一向にお構いなしのご様子で、2016年から書き続けていたSF小説「Canary」も完成したなんて言っているし、この先も作品作りと発表のペースに変化はなさそうだ。そうやって過去と現在をせわしなく行き来しながら時間軸をぐにゃりとさせ、昔も今も何ら変わっていないことを明示してみせる。そんな彼の流儀を存分に味わうためのタイトルがまたしても届けられてしまった。「どの年に生まれてもおかしくない作品だったが、いま生まれた。もっとも必要とされていたからだと思う」と説明するニュー・アルバム『Barn』がそれだ。

半年ほど前に公表されていた通り、クレイジー・ホースとの共演作となったこの新作。2019年の前作『Colorado』と同じくギタリストのポジションにいるのは、ブルース・スプリングスティーン&E・ストリート・バンドの一員でもあるニルス・ロフグレンだ。75年からメンバーだったフランク・ポンチョ・サンペドロが引退を表明したことでかつての盟友である彼が呼ばれたわけだが、しっかりと穴を埋める仕事ぶりを見せ、このバンドの馬力を絞り出す役割を果たしている。
バンドのありのままの姿
というわけで、ニールとニルス、それにビリー・タルボット(ベース)、ラルフ・モリーナ(ドラムス)というラインナップで臨んだこのレコーディングだが、作業場所に選ばれたのは〈納屋〉。19世紀にロッキー山脈に建てられたという古い木造の納屋を修復したこの空間がどのような空気を醸しているのかは、アルバム・ジャケットや先行シングル“Heading West”のMVを観てもらえれば掴めると思う。ニールのパートナーであるダリル・ハンナが撮ったレコーディング風景のドキュメンタリーを観ると、そこはまるで時が止まっているかのような独特な雰囲気が漂っていて、建物が発する強い霊気のようなものが録り音に絶対影響しているはず、なんてこともついつい考えてしまったほど。そんな納屋のなかをゆったりとした動きのメンバーたちが交錯する様子をドキュメンタリーは映し出していくのだが、彼らのロック・バンドらしからぬ風情が妙に可笑しみを誘い、やたらとほっこりしてしまう。が、ひとたび楽器を持てば、いつもの荒馬へと豹変。ニールが愛機オールド・ブラックを掻き鳴らせば時空の壁がバリバリと破られ、熱いロック・スピリットがドクドクと脈打ち出し、確かにクレイジー・ホースの音を聴いているという感動が押し寄せてくるのだ。
そんなアルバムの幕開けは至って静か。6分にも及ぶ“Song Of The Seasons”は、ハーモニカとアコーディオンの音色が作り出す哀切感が胸を焦がさずにはおかない名バラード。何とも魅力的な滑り出しだ。収録曲はいずれも2020年に書かれたそうだが、エネルギーをめぐる問題に対する苛立ちが曲作りの動機となった“Change Ain't Never Gonna”のように、ニールの頭からもうもうと立つ湯気がアツアツのまんまな曲も多い。納屋の壁をぶち破りそうなハード系では、“Human Race”の仕上がりぶりがもっとも強烈。ずっと音が割れまくりのギターは終始わなないていて、時々調子を外すプレイにすら憤怒が滲んでいるように感じられてならない。
とにかく納屋の鳴り具合がめっぽうワイルドで、出てくるサウンドがいちいち生々しいのである。きっと多くのリスナーが傑作『Harvest』(70年)で得られたエモーショナルな響きを思い起こすだろうし、かつてブロークン・アロー・ランチ・スタジオで録られた音源を引き合いに出して語りたくなるだろうと想像するのだが、バンドのありのままの姿を記録することで、〈俺にとってクレイジー・ホースとはどんな存在なのか?〉という問いの答えが導き出せるはず、そんなニールの意図がどの演奏からもハッキリと窺えるのである。
慟哭のギターを掻き鳴らしながら自身の出自について語る“Camerican”も印象的だし、ゆったりとしながらもヘヴィーなグルーヴがなんとも心地良い“Welcome Back”も魅力的。か細い声でのコーラスが妙に味わい深いエンディング曲で、「自分のために作った曲だと思う。自分を見失いそうになったらこの曲を聴く」と語る“Don't Forget Love”もひたすら素晴らしい。長い間古びた納屋のなかでひっそり眠っていた音楽にも思えるようなこれらの曲を彼らは大きな満月の下で演奏していたんだな、なんて想像してみると、ロマンティックな気分が止まらなくなってしまっていけない。とにかくこの魅惑の音世界にじっくりと浸りたいのだが、82年にホノルルで録音されたという幻のアルバム『Johnny's Island』が近々リリースされるなんて情報も飛び込んできて、そっちの内容に気を取られてしまう自分もいる。そんなに欲張ってどうすんの?と言い聞かせてみるけれど、しょうがない。俺をこんなふうにさせたのも他ならぬ彼なんだし。 *桑原シロー
左から、ニール・ヤング&クレイジー・ホースの2019年作『Colorado』(Reprise)、ニール・ヤングの70年作の50周年記念盤『After The Goldrush(50th Anniversary Edition)』(Reprise)、クレイジー・ホースの編集盤『Scratchy: The Complete Reprise Recordings』(Wounded Bird)
クレイジー・ホース構成員の近作を紹介。
左から、ニルス・ロフグレンの2019年作『Blue With Lou』(Cattle Track Road)、ビリー・タルボット・バンドの2015年作『Dakota』(Vapor)
過去と現在が交差する、2020年代のニール・ヤング・ディスコグラフィー

アーカイヴ・シリーズの目玉となった本作は、75年に録音されるも未発表のままだった幻のアコースティック・アルバム。当時交際していた女優キャリー・スノッドグレスとの関係を内省的に綴った内容がプライヴェートすぎるためにお蔵入りとなったとされている。

新録のタイムラインでは『Barn』のひとつ前にあたる、自粛期間のライヴ配信で披露した曲を収めたEP。プロテスト・ソング“Ohio”や大統領選を前に2006年曲をアップデートした“Looking For A Leader 2020”、ディランの〈時代は変る〉などをローファイな弾き語りで聴かせる。

NEIL YOUNG & CRAZY HORSE 『Return To Greendale』 Reprise(2020)
アーカイヴ・シリーズのライヴ盤。架空の街を舞台にグリーン家の物語を描いたロック・オペラ作品『Greendale』のリリース直後、2003年9月にトロントで行った同作の全曲再現ライヴの模様を収めている。長尺曲をジワジワ盛り上げていく熱気もクレイジー・ホースならでは。

NEIL YOUNG & CRAZY HORSE 『Way Down In The Rust Bucket』 Reprise(2021)
これまたアーカイヴ・シリーズのライヴ盤。グランジ・サウンドに大きな影響を与えたとされる『Ragged Glory』(90年)の発表直後、ツアーのウォーミングアップとしてカリフォルニアのサンタクルーズで行われたライヴを収めたもの。10分超の楽曲が次々に投入される展開が凄まじい。

またまたアーカイヴ・シリーズの貴重なライヴ音源。名盤『After The Gold Rush』発表の数か月後となる71年1月にコネチカット州ストラトフォードで行われた、アコギとピアノ、ハーモニカだけのパフォーマンスが聴ける。このあと『Harvest』を形成する名曲のプリミティヴな姿も披露。

アーカイヴ・シリーズの新ラインとなるオフィシャル・ブートレグ・シリーズの第1弾は、70年12月4日にNYのカーネギー・ホールで行われたライヴの様子を収めたもの。著名なブート音源を公式に出し直す行動力はザッパばりだが、再現不可能なこの時代ならではの空気感が迫る。