なんということでしょう! ライヴ活動を再開した年の締め括りに大御所が届ける新旧名曲の再演盤は、劇的ビフォーアフターどころじゃない匠の仕上がりで……
2023年のニール・ヤング
年末になると、その年、ニール・ヤングのリリースがどれだけあったかをカウントするのが習慣化している。振り返ると、クレイジー・ホースの3人とモリーナ・タルボット・ロフグレン&ヤング名義の初作『All Roads Lead Home』を届けたのは3月だったか。以降、77年に発表予定だった『Chrome Dreams』のオフィシャル・リリースがあり、疾風怒涛の時代を振り返るリマスター・ボックス『Official Release Series #5』も到着。さらにダックスという変名であちこちのクラブに出没していたときの『High Flyin’』やサンタモニカ・フライヤーズとロンドンで行った『Somewhere Under The Rainbow 1973』などの公式ブートレグ・ライヴ盤、76年の記念すべき日本武道館公演とハマースミス・オデオン公演をカップリングした『Odeon Budokan』の初アナログ化などもあったし、2023年はやけに忙しかったなぁ、という印象が残る。しかしまだこれが残っていた。『World Record』(2022年)以来の新録作となるニュー・アルバム『Before And After』である。
作品の説明に入る前に触れておきたいトピックがある。2023年のニールは、コロナ禍でずっと遠ざかっていたライヴの現場に4年ぶりの復帰を果たしたのだ。9月に出演した〈ファーム・エイド2023〉のステージも話題となったが、それより大きく伝えられたのが6月から7月にかけてアメリカの海沿いルートを辿った、その名も〈Coastal〉なるソロ・ツアーだ。そこではアコギやエレキに加えて、ピアノ、オルガン、ハーモニカなど楽器をとっかえひっかえしながら、古いものから最新のものまで有名無名を問わずさまざまなタイプの自作曲を披露していくニールにお目にかかれるとあって、コアなリスナーたちが大勢会場に押し掛けたようだ。この『Before And After』はそのツアーから派生した内容となっており、セットリストから13曲をセレクトして録り直した弾き語りテイクが並ぶという、ツアー・コンセプトをそのまま移植したアルバムとなっている。共同プロデューサーとして、ダンヒルやオードといったレーベルを興し、ママス&パパスやキャロル・キングなどの作品を手掛けてきた名匠ルー・アドラーを起用しているのも注目すべきポイントだろう。