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ハートは現在にあり続ける

 先行シングルとなった“Earth Beat”と“Village”はまさにウェラーが語る時代を超越した美しさの例と言っていいだろう。米国出身で10代のR&Bシンガーのコールトレーンと、ボン・イヴェールのライヴにも参加しているインディー・フォーク・バンドのステーヴスを迎えて2020年のモッド・サウンドを提示してみせた前者と、前作のオーケストレーションを見事に昇華させた後者の2曲はまさにアルバムのハイライトとなる楽曲であり、“Mirror Ball”から派生した煌めきを放っている。そのたゆまぬ進化と深化を支えるのはオーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドックを筆頭にアンディ・クロフツ、ベン・ゴードリエらお馴染みのバンド・メンバーたち。さらに元ストライプスのジョシュ・マクローリー、ル・シュペールオマールのジュリー・グロに加えて、ミック・タルボットとジャム最初期のメンバーであるスティーヴ・ブルックスも参加している。気心の知れた盟友であるミックやスティーヴと演奏した時はさまざまな思いが交錯したのではないだろうか。

 「いや、それはまったくない。その二人と一緒に演奏するとき、俺はその瞬間の二人と何かをしてるだけであって、過去のことは考えてない。二人にしても同じだと思う。ミュージシャンというのは演奏ができて続けられている限り、ハートは現在にあり続けるんだ。過去のことを考えていられるほど時間は有り余ってないからね。現在のことで精一杯。だからこそ、いまに存在してられるわけなんだ。ハモンド・オルガンはアンディやチャールズ・リースも弾くことができる。でも、ミック・タルボットだったんだ。彼のサウンド、彼のスタイル。それだけで理由としては十分じゃないかい?」。

 音楽と向き合う時間はもはや無限ではない。だからこそ過去を振り返ることもなく、まだ見ぬ未来へ思いを馳せることもない。ただひたすら目の前にある音楽と真剣に対峙するスタイルは、“In The City”から変わることはない。キャリア43年目に完成させた『On Sunset』は人生のすべてを音楽に捧げ続ける男の最新の傑作であり、通過点でもある。

 「音楽が持つパワーは人の心を高めたり、落ち着かせたり、もしくは何かを考えさせたり……。音楽にはいくつもの力があり、受け止め方も人によってさまざまだ。それを信じる気持ちがこの新作と現在の状況において、これまで以上に強まった気がするね。来年には日本に行ってライヴができることを、みんなに会えることを楽しみにしている。それまで元気で、無事でいてくれることを祈っているよ」。

 

関連盤を紹介。

 

『On Sunset』に参加したアーティストの関連作を一部紹介。