ステレオガールのライブを初めてみたときは驚いた。黒い服装に身を包んだ5人のメンバーは、オーディエンスにいっさい媚を売ることなく、ひたすらに爆音を鳴らし、ぶっきらぼうに歌をうたっていた。とはいえ、彼らは自己満足に浸っていたわけではない。マッドチェスターやブリットポップといった90年代のUKロックを思わせるグルーヴィーなリズム隊、リードとリズムがくっきりと分かれたツイン・ギターの魅惑的なアンサンブル。そしてリアム・ギャラガーやジュリアン・カサブランカスが憑依したかのような、フロントウーマンAnjuのカリスマ性。5人のバンドは、その場にいるものすべてを違う世界へと連れて行こうとしていたのだ。
そうしたサイケデリックとでも言えそうな志向性は、バンドの根幹にあるのだろう。なにせ、最初のEPが『ベイビー、ぼくらはL.S.D.』(2018年)である。まだ20代に差し掛かったばかりの若者たちは、なぜ音楽で〈あちら側〉をめざすのか。思わず〈This Is The One!〉とでも叫びたくなるほどに、音の隅々にまで圧倒的な肯定感が宿ったファースト・アルバム『Pink Fog』のリリースを機に、メンバー全員に話を訊いた。
ストーン・ローゼズ × オアシス × スミス=ステレオガール?
――『Pink Fog』のアートワークを見たとき、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『Loaded』(70年)を想起したんですが、実際ジャケットはあのアルバムを意識したんですか?
Chamicot(ギター)「そりゃそうですよ(笑)」
Anju(ヴォーカル)「もちろん好きです」
――意識したのは『Pink Fog』と『Loaded』になにがしかの共通点を感じたから?
Chamicot「あー、このアルバム全体と『Loaded』にはそんなに(共通点は)ないんじゃないかな。『Loaded』のジャケットはかわいいなっていうのが強いと思います」
Anju「でも、『Loaded』の、角がなくて音楽自体もパンクみたいな激しいものじゃないけど、中身で言っていることはすごく芯をつくみたいなところや、サウンド自体の体温の低さには影響を受けてきていて。そういうところは、このアルバムにも入っているとは思います」
――アルバムには“ルー”という曲も収録されていますけど、このタイトルには〈ルー・リード〉というニュアンスも入っています?
Chamicot「ハハハ、どうですかね(笑)」
――そこは濁らせるんですね。
Chamicot「ご想像にお任せします」
――“ルー”のなかには〈Walkin on the wild side〉という歌詞もありますけど。
Anju「それも偶然かもしれません(笑)。最近そういう気分だったから」
――“ルー”のアウトロはジャム・セッションに流れこみますが、これはストーン・ローゼズの“I Am The Resurrection”を下敷きにしていますよね?
Anju「おっ、そこの指摘はお初ですね(笑)」
Kanako(ギター)「私、知らずにこのアウトロのギターを弾かされていたんですよ。自分のパートを録ったあとに、聴かされて〈まるパクリじゃん!〉って」
――あそこでのKanakoさんのフレーズは、Chamicotさんなりが指定していたんですか?
Kanako「私のギターが入るところは、ちょっと指示がありましたね。そのあとはもうフリーだったんで自分で考えたんですけど、最初のフレーズはそのまんますぎて〈こんなことしていいの!〉って思いました。でも、まぁもう発売もされるしいいかって(笑)。カッコいいし」
Chamicot「ストーン・ローゼズへのオマージュはどこかで入れたかったんですよね。私はローゼズが大好きなんで。やれてよかったです。最近ようやく(ローゼズみたいに)曲のアウトロを延ばせるようになってきた(笑)」
――この曲のアウトロはもっと長くてもいいなと思いましたよ。
Chamicot「ライブでは、どんどん長くなってますよ」
――ストーン・ローゼズのどういうところが好きなんですか?
Chamicot「まずローゼズはステージで立っている姿がカッコいいじゃないですか。服もカッコいいし歌っている姿もカッコいいし、歌も曲もギターもカッコいいっていう。〈カッコいいづくめ〉のバンドですよね(笑)。私が最初にノックアウトされたロックンロール・バンドはオアシスなんですけど、カッコいいの原点は結構ストーン・ローゼズかも。で、素敵感や最高感はスミスが教えてくれた。そういう良いとこどりのバンドがステレオガールです(笑)」
Anju「バンド全員、高校時代からジャンルを問わず音楽を聴いているんですけど、体が動くってことが嬉しいみたいなツボは共通していて。そういう意味でローゼズはすごくフィジカルに訴えてきますよね。強引じゃないやり方で、そういうところにリスナーを持っていくバンドだと思う」