コラム

コロナ禍の今こそ、ガラパゴス化した日本の音楽を海外へ

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、多くのライブやフェス・イベントが中止・延期となり、既存の音楽ビジネスの在り方が問われている音楽業界。では、アーティストや彼らをサポートする周囲の人間、そしてリスナーは、どのような行動を起こせばよいのだろうか。

これまでMASS OF THE FERMENTING DREGS、tricotなど数多くの型破りなアーティストや音楽制作全般に関わり、それらを海外にも広く紹介してきたKOKOO RECORDSの阪谷友二が筆を執る。 *Mikiki編集部

 


コロナウイルスの影響と延期になった海外公演

新型コロナウイルスの影響で、今年8月にMASS OF THE FERMENTING DREGSが出演する予定だったイギリス・ブリストルのロック・フェス、アークタンジェント(ArcTanGent)が来年に延期となってしまった。発表していたのはこのフェスだけだったが、私が現地のブッキング・エージェンシーとやりとりして秋のヨーロッパ・ツアーと北米ツアーを組んでいる最中のことだった。そもそも仕込み始めたのは去年の話だ。バンドの海外ツアーを組むのには国内ツアー以上に時間を要する場合が多いのだが、次回いつ組み直せば良いのかさっぱり読めない。困った状況である。

MASS OF THE FERMENTING DREGS、2016年のライブ映像
 

もともとライブ・パフォーマンスが売りのアーティストにとってはライブ・ツアーを回ることが海外展開の第一歩となるケースが多い。レコード・ビジネスがパッケージ中心の時代より厳しくなっている今は尚更だが、しばらくそれが出来そうにない。海外展開を目指すアーティストにとっては仕掛けづらい状況になってしまっている。

言うまでもなく難しいのは海外展開だけではない。国内の音楽ビジネスも明らかに難局にある。ライブが出来なければ配信をやれば良いし、音源をリリースすれば良いという意見があるが、問題はそう単純ではない。

 

凋落する日本の音楽マーケットとストリーミングへのシフト

「CDが売れない、レコード・ビジネスが危ない」という話にはじまり、音楽ビジネスは斜陽のように言われて久しいが、実は2015年以降の世界のレコード・ビジネスは回復基調。CDのセールスは落ち込み戻る気配もないが、ストリーミングが伸びている。ところが、日本の音楽ビジネスはまだ下落のカーブのなかにある。IFPI(国際レコード産業連盟)のレポートによれば、2019年に世界の音楽マーケット上位10か国の内で唯一成長しなかった国が日本だ。日本は順位で言えば不動の世界第2位だが、かなり特殊な音楽マーケットなのである。

日本の音楽はしばしばガラパゴスに例えられる。マーケットも音楽そのものも隔絶された孤島のものだと。ではなぜ日本の音楽はガラパゴス化したのか。これはいわば日本の音楽業界が既得権を守った結果と言える。既得権と書くと何やら胡散臭いが、〈これまでの間、アーティストの利益を守ってきた〉という言い方ができるだろう。もともと人口比で言うと日本はCDがとてもよく売れる国だった。そこで、安価で利益の少ない配信にシフトするよりも、CDを売り続けることを選んだわけだ。この戦略はこれまでの期間に一定の効果をもたらした。配信しないことによって利益を保ったのである。

これは日本の音楽マーケットが世界第2位の規模だからこそあり得たこと。自国のマーケットが小さいがゆえにグローバルな展開を目指し、アメリカのチャートでは1位を獲得し、日本に来れば流暢な日本語で歌うK-Popとは対照的である。しかし最近では日本でも大物アーティストのカタログが配信開始となるケースが増えている。残っていたほとんどの果実の収穫も終わり、逆に配信を開始する方が利益を得られそうだと判断しているのだろう。

そして遅まきながら日本もストリーミングのビジネスにシフト中である。もちろんストリーミングの時代にも〈1日に3回も4回も繰り返しアルバムを聴いてくれる熱心なファンを作ること〉は大切だが、それ以上に〈1日に1回アルバムを聴いてくれるようなファンをたくさん作ること〉が重要になる。また、ストリーミングのビジネスは時間も鍵となる。長く愛聴される作品を世に出すことが重要なのだ。CDを売るためのマーケティングは、1週間〜1か月の短期間でどれだけ売れるかの勝負だった。特典付きCDで複数買いを促すケースも多く見られた。要はヒットチャートで売れている商品はライト・ユーザーにある種の信頼感を生み、さらに売れるというモデルである。しかし、ストリーミングは短期間売り切りのモデルではない。多くの人にいかに長く聴き続けてもらうかが重要である。黎明期には、ストリーミングはアーティストへの利益分配が少なすぎると(主に海外で)批判を浴びた時期もあった。短期間にあげられる利益はCDのそれと比べるべくもないが、ストリーミングによる利益は時間の掛け算をしなければ評価できなかったのである。

言い換えればストリーミングはコストの回収に時間がかかるモデルだ。CDの収益減をすぐには補ってくれない。だからこそ、レコード・ビジネスで利益が上げづらくなって来ているなかで、音楽業界が活路を見出していたのがライブだ。チケット販売とグッズ販売の機会拡大。レコード・ビジネス全盛の時代には、ビジネス上でのライブは言わば音源を売るためのプロモーションという位置づけでもあったが、今では音楽ビジネスの柱となっている。かつてはレコード・ビジネスだけで潤っていたレコード会社も360度ビジネスの名の下に興行に体軸を移動している。しかし、その頼みの綱がコロナウイルスの影響で絶たれてしまっているのが今の状況だ。

 

オルタナティヴな表現と海外展開の可能性

ガラパゴスに話を戻そう。そんな独特なマーケットのなかで日本の音楽そのものも独特なものになっていったのは必然なのであろう。特にバンド形態で作られた楽曲には、イントロが流れた途端、まだ歌が始まっていないにもかかわらず邦楽とわかる曲が多い。そして、タイプの似ている曲もとても多い。売れている商品はある種の信頼感を生み、さらに売れるという話は上に書いたが、売れている商品に似ている商品もある種の安心感を生み、やはり売れる傾向にあるのだ。

だが、そうして生み出される日本の主流の音楽の多くは、海外マーケットには刺さりづらいと言われることが多い。たしかに、新しい刺激の少ない音楽が海外で特に興味を持たれないことは容易に想像できる。逆に、日本国内ではオルタナティヴでユニークと言われる音楽の方が海外ウケする印象がある。これは、2011年から2018年にかけて私がレーベル&マネージメントとして関わっていたtricotで行なっていた海外展開で体感したことでもあるが、〈新しさ〉〈驚き〉〈刺激〉などのワードで語られることの多い音楽には、主流にまではならずとも大きな支流ぐらいは作れそうな可能性を感じるのだ。

K-PopのアイドルがアメリカのBillboardチャートで1位を獲得し、主要キャストがアジア系俳優ばかりの映画「クレイジー・リッチ!」が全米で大ヒット、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー作品賞を受賞するなど、アジアのエンターテインメントにフォロー・ウィンドが吹いている事実はオルタナティヴな表現にも無縁ではないだろう。海外でウケそうなアーティストは積極的に海外マーケットを目指すべき時代だと考えて間違いない。いかに多くのリスナーに聴いてもらうかが重要であるストリーミング・ビジネスに国境はないのだから。繰り返すが、ストリーミング・ビジネスの鍵はファンベースの大きさと時間だ。海外に多くのファンを持つことの価値は時間の経過とともに実感が増すだろう。

 

新しい音楽の潮流とライブ配信

私は新しい刺激、驚きのある音楽にいつも惹かれる。10年前にも20年前にもそういう対象はあったし、何かのリヴァイヴァルのなかにも常に新しい解釈は含まれていて、いつだってわくわくさせられてきた。ただ、個人的な感覚で言えば、ここ5〜6年ぐらいはその刺激が弱まっている気がしてならなかった。耳につくギターの単音フレーズではじまりサビは四つ打ちという決まり切った形の踊らせるロックばかり。あれには食傷気味だった。ニコニコ動画などに公開されるDTMも似たような雰囲気のものばかりだったように思う。

それは新しいものを取り上げない、レコメンダーとしての機能を失った音楽メディアの責任でもあるだろうし、国内のアーティストだけ集めたフェスが乱立しすぎたせいでもあると思っている。その内輪でウケる音楽が定型化していった。華々しく見えるその世界への憧れが若きクリエイターたちのガラパゴス化を助長したところも否めない。

現在、ロックもジャズもヒップホップもシティ・ポップの方角を向いているものが多いが、個人的にはこれも食指が動きづらい。別に主流のものが嫌いなわけではない。なかには素晴らしい楽曲もあるし、もともとシティポップ自体は好きなのだけれど、大きな流れが出来ると支流を探検したくなる、オルタナティヴなものに興味が行く性分なのだろう。しかし、ここに来て日本の若きクリエイターたちの才能には目を瞠っている。新しいものが生まれそうなムードがあって、それがたまらなく楽しいのだ。

あらゆる表現の領域で新しい刺激的な表現が増えて来ているように思うが、こと音楽においては、ガレージ、サイケ、ポスト・パンク、90'sオルタナのリヴァイヴァルとも言える、しかしながら確実に新しい解釈やエッセンスの注入された音楽が生まれてきている。ヒップホップの影響を受けつつも一言でヒップホップと言い切るのも難しいジャンルを飛び越えたような新しいセンスからも目が離せない。ジャンルで音楽を捉えていなさそうな新しい世代に可能性を感じる。

こういう才能の萌芽を目にすると、これを海外に広められないだろうかという興味が湧く。コロナウイルスの影響で今までと同じことができないということは、条件的にどのアーティストにとってもフラットであるともいえる。主流にいても支流にいても同じ条件ということではないだろうか。そうであればなおさら、今が好機と考えてしまうのだ。

 

海外の音楽ファンも楽しめるライブ配信へ

そんな思いからライブ配信を企画してみた。もともとは、4月に秋葉原CLUB GOODMANで開催予定だった〈EDOMAE〉というイベントがある。大まかに言うと在日・訪日外国人にアプローチするインバウンドのイベントとする狙いだった。海外マーケットを目指すにあたり、国内から海外に輸出する感覚ではなく、単純に活動の場を広げようというのが私の考えなのだが、それならばホームのイベントも充実させる必要があると思い立ち上げようとしたものだった。伝統文化が色濃く残る東東京のなかのメジャーな観光地でもある秋葉原周辺には外国人観光客御用達の安いゲストハウスも多い。あえて、東京のライブシーンのメッカといえる下北沢、渋谷、新宿ではなく秋葉原を選んだのだった。しかし、いったん7月19日(日)に延期したイベントは結局中止となってしまった。

そこで、出演者は総入れ替えしてライブ配信企画を実施してみることにした。そもそもリアルなライブの非日常体験、付加価値は配信に置き換えられないと考えている。それゆえにライブ配信にはあまり前向きではなかったのだが、日本にいながらにして海外にアプローチできると考えれば俄然面白くなってくる。海外の音楽ファンが日本を訪れずとも東京のライブハウスの扉を開けられると考えれば楽しい。出演してもらうのは、いずれ劣らぬ刺激的な3組。この新たな才能を世界に紹介していく試みを、皆さんにもぜひ一緒に楽しんでいただきたい。

出演者のうちの1組、The Cabinsのライブ映像
 

LIVE INFORMATION

KOKOO RECORDS presents EDOMAE Live Stream​
2020年7月19日(日)開演:13:30 (*JST)
出演:The Cabins、Ms.Machine、Sisters In The Velvet
視聴料金:無料 / 投げ銭
配信URL:https://youtu.be/BMPlCJKw0ws
ドネーションURL:https://clubgoodman.stores.jp/

・お客様からのご支援(ドネーション購入)を一口500円~2,000円で受け付けております。ドネーション(EDOMAE特性バックグラウンドピクチャー)はこちらからご購入頂けます。→CLUB GOODMAN’S STORE
お一人様何回でもご購入可能です。前もっての投げ銭チケットの購入も可能です。

※こちらは無観客配信ライブとなります。会場に来られましても入場はできません※YouTubeの〈CLUB GOODMAN チャンネル〉から配信の予定です。是非、チャンネル登録をお願いいたします
※売上は、アーティストの出演料、配信ライブの費用に充てさせていただきます。
※ドネーション購入は任意ですので、配信は無料でご覧いただけます。クレジットカードをお使いのお客様はカードの事前登録を行うことで、購入をスムーズに行うことができます
※システムの都合により遅延やトラブルが発生する場合がございます。ご了承下さい。何卒、ご理解、ご了承くださいませ。その際はCLUB GOODMANのTwitterアカウントにてアナウンス致します
※無観客ではございますが、施設では3密を避ける為の対策、換気や消毒、体調の悪いものは立ち入らせないなど、出演者、スタッフとも感染拡大防止のため対応を徹底して行います

 

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