田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。カニエ・ウェストがアメリカ大統領選への出馬を表明、というニュースを先週はお知らせしましたが、結局取りやめたみたいですね」

天野龍太郎「そう報じられていたのですが、今日オクラホマ州の選挙管理委員会が〈立候補資格を得た〉とツイートしたんですよね……。その前には、チャンス・ザ・ラッパーが支持を表明して大炎上。なんだか情報を追いかけるのも嫌になってきました」

田中「そうですね。別の話題にも触れておくと、メグことミーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)が7月12日にLAで起きた銃撃事件に巻き込まれ負傷する、というショッキングな事件がありました」

天野「最初はメグも犯行への関与を疑われていたようなのですが、犯行現場にいたラッパーのトリー・レーンズ(Tory Lanez)が彼女を撃った容疑で逮捕された、と報じられました。トリーがそんなひどいことをしたなんて、信じられません。真相を知りたいところですが、いまは彼女の完治と音楽活動への早い復帰を願うばかりですね。メグの音楽は最高ですから、つらいです。それでは、気を取り直して今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. Beabadoobee “Care”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、BBCの〈Sound Of 2020〉やブリット・アワードの〈ライジング・スター・アワード〉にノミネートされた話題のニューカマー、ビーバドゥービーの“Care”! これはめちゃくちゃいい曲ですね……。それにしても、〈ビーバドゥービー〉って言いづらい!」

田中「名前の読み方については、最近までいろいろな説が入り乱れていましたね」

天野「カタカナ表記の問題は日本の洋楽受容における一大問題ですからね! 原語表記でいいのに……。それはさておき、ビーバドゥービーことベアトリス・クリスティ・ラウス(Beatrice Kristi Laus)はフィリピンのイロイロ生まれ、英ロンドンで活動するシンガー・ソングライターです。変わった名前は、本名の〈bea〉+〈bad〉+〈doobie(マリファナのジョイント)〉、という由来なんだとか。ビーの音楽はインディー・ロックやインディー・ポップ、ギター・ポップ寄りのサウンドですけど、いわゆるベッドルーム・ポップの潮流における最重要ミュージシャンの一人だと言っていいでしょうね」

田中「たしかに、グランジっぽさやジェイ・ソム(Jay Som)のようなドリーム・ポップ/シューゲイズの感覚を持ちつつ、クレイロ(Clairo)やガール・イン・レッド(girl in red)に近い新世代感があります。ささやかでフォーキーな曲も彼女の魅力ですよね。パウフー(Powfu)の大ヒット・ソング“death bed (coffee for your head)”でサンプリングされて注目を集めた“Coffee”(2018年)なんか、まさにそういう曲です」

天野「そんなビーは、The 1975などが有名なレーベルのダーティ・ヒット(Dirty Hit)に所属。今回の新曲は、今年リリースする予定のデビュー・アルバム『Fake It Flowers』からのシングルです。とにかく力強くてポップなメロディーと、サビの〈ジャッジャッ〉っていうギターのフレーズが最高! リード・ギターのキラキラした音色なんて、まるでシャムキャッツみたいじゃないですか!」

田中「シャムキャッツが解散した悲しい事実を思い出させないでください……(泣)。あと、元ヴァクシーンズのピート・ロバートソン(Pete Robertson)が彼女をプロデュースしていることにもUKロック・ファンは注目してほしいですね。ビーバドゥービー本人のコメントには、〈この曲には高速道路をドライヴしている90年代末期の映画のようなヴァイブスが込められている。社会や私のことを知らない人、私を気にもかけていない人たちに対しての苛立ちとか。かわいそうなんて思ってほしいわけじゃ全然ない。ただ、私がどんなつらい思いをしてきたかをわかってほしい〉とあります。〈高速道路をドライブしている90年代末期の映画のようなヴァイブス〉っていうのは、ちょっとわかるかも」

天野「懐かしさと新鮮さがいいバランスですよね。ギター・ロックでこんなに目の覚めるようなフレッシュさを感じられる曲は、ひさしぶりに聴きました。ビーバドゥービー、とにかく2020年注目の才能です!」

 

2. Joey Bada$$ “The Light”

天野「2位は、ブルックリン出身のラッパー、ジョーイ・バッドアスによる“The Light“。本日7月17日にリリースされた3曲入りのEP『The Light Pack』の1曲目を飾っています。約3年間の活動休止を経たカムバックということで、大きな話題になっていますね」

田中「なお本人は、『The Light Pack』を〈EPと言わないでくれ〉と語っているようです。めんどくさいなあ(笑)。ジョーイといえば、トラップがメインストリームになっていった2010年代において、いかにもNY然としたソウルフルでオーセンティックなヒップホップを一貫して追求していました。骨太なフロウも魅力ですよね。2017年のアルバム『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』は、反トランプの姿勢を打ち出したパワフルな傑作でした」

天野「とはいえこの3年間不在だったわけではなく、この連載で紹介したコータ・ザ・フレンド(Kota The Friend)の“B.Q.E”など、客演はしていました。なので、常に存在感はありましたよね。2月にポップ・スモークが亡くなったときも、追悼の意を込めたフリースタイルをInstagramに投稿していました」

田中「でも、彼自身の新曲が待ち望まれていたわけで、“The Light”はその帰還を強烈に印象づける曲ではないでしょうか。トラックは、メランコリックな鍵盤のフレーズとファットなブレイクビーツを中心にしたシンプルなもの。歌詞には〈ラッパーとして自分にはどんな存在理由があるのか?〉と自問自答した痕跡が残されています。〈輝きを失ったようだ、内なる光が見えない〉という苦しみを見せながらも、〈輝きとは暗闇のなかにある光〉〈約束するよ、なんだってできる〉と歌うさまが感動的」

天野「『The Light Pack』には、この曲のほかにプシャ・T(Pusha T)をフィーチャーした”No Explanation“と、ロイ・エアーズ“Everybody Loves The Sunshine”使いの”Shine”が収録されています。全曲いいですね。Complexのインタビューによると、すでにアルバムも出来上がりつつあるとのこと。そちらも楽しみ!」

 

3. Kid Cudi & Eminem “The Adventures Of Moon Man & Slim Shady”

天野「3位はキッド・カディとエミネムの“The Adventures Of Moon Man & Slim Shady”。〈ムーン・マン(キッド・カディ)とスリム・シェイディ(エミネム)の冒険〉という曲名からしていいですね」

田中「キッド・カディについては、4月に“Leader Of The Delinquents”を〈SOTW〉に選びましたよね。それ以来の再登場です。エミネムは説明不要のラップ・ゴッド。今年は“Godzilla”の高速ラップ・チャレンジが話題でした」

天野「カディは今年、絶好調だと僕は思っています。“Leader Of The Delinquents”はすごくよかったし、カニエ・ウェストとのキッズ・シー・ゴースツ(KIDS SEE GHOSTS)では村上隆が監督するアニメ・シリーズを準備中で、そちらも話題になっています。さらに、カディに憧れていた後輩のトラヴィス・スコットとのスコッツ(THE SCOTTS)では、初めて全米1位を獲得。つまり、ノリにノっているわけです! カディに詳しい池城美菜子さんがブログに書いていた〈うつ状態も不安障害もスーパー・パワーだ〉という一連のツイートもいいなと思いました。新作が楽しみです」

田中「一方、この曲でのエミネムのラップは、抑え目なトーンですね。でも、リリックはかなり攻撃的。〈俺たちの半分は黙示録のゾンビみたいに歩き回っていて/もう半分はただ苛立って/マスクを着けたくないって他人を馬鹿にしている〉〈お前の咳のせいで俺は棺桶に入っているんだ〉と、コロナ禍においてマスクをしない人々をこき下ろします。さらに昨今の〈Black Lives Matter〉にもがっつり言及していて、〈ジョージ・フロイドとアーマッド・オーブリーに祈りを/クソみたいにたくさんの警察官たち なんで汚い野郎ばっかりなんだ〉〈やめろ、お願いだ、おまわりさん、ごめんなさい/あんたが上に乗っかっているから息ができない/あんたのクソみたいな膝が俺の頸動脈を止めている〉とラップ。かなり直接的な描写ですね」

天野「いつものハイテンションなラップじゃないぶん、淡々としているからこそ凄みがあります。エミネムのスキルって、やっぱりすごいなって思いました。いつかこの2人でアルバムを作ってほしい!」

 

4. Sada Baby & Lil Yachty “Kourtside”

天野「今週はラップ・ソングが多くていいですね! 4位はサダ・ベイビーとリル・ヨッティの“Kourtside”。新作『Lil Boat 3』が好調なヨッティについては、3月に“Oprah’s Bank Account”を紹介したときに説明しました。サダ・ベイビーは〈PSN〉初登場だと思います」

田中「サダ・ベイビーことカサダ・アーロン・ソレル(Casada Aaron Sorrell)は、米ミシガン州デトロイト生まれのラッパーです。2018年のシングル“Bloxk Party”のヒットで知られようになったんだとか。このヨッティとの曲は、彼の新作ミックステープ『Bartier Bounty 2』からのシングルです」

天野「この“Kourtside”はまず、サダと同郷のデトロイトのプロデューサーであるRJ・ラモント(RJ Lamont)によるビートがめちゃくちゃかっこいいですよね。ダーティー・サウスやバウンスっぽい、細かく刻まれるビートとテンポの速さが下世話で強烈。ダークなピアノのループも印象的です。ダウナーで遅いトラップ・ビートが一般的ないま、この激しさは新鮮に響きますね」

田中「フックやコーラスもなく、ものすごい勢いで2人が交互にひたすらラップしている。その鬼気迫るムードやスピード感もすごい」

天野「リリックの内容も、めちゃくちゃダーティーです。曲名の〈kourtside〉は〈courtside〉のもじりでしょうね。〈トレイ・ヤング(NBAアトランタ・ホークスの選手)を観に行くんだ、俺はコートの席(法廷席)に着いた/出廷日が告げられた、俺のショーと同じ日だ〉というヨッティのリリックでは、バスケット・ボールの〈コート〉と〈裁判所〉の意味が二重にかかっています。さらに〈court〉には〈王宮〉という意味もありますから、そのニュアンスもあるんじゃないかなと思いました。とにかく、かっこいい曲ですね! サダのミックステープがすごく楽しみです」

 

5. The Magic Gang “Make Time For Change”

天野「5位はUK、ブライトン出身の4人組、マジック・ギャングの“Make Time For Change”。2018年にリリースされた 『The Magic Gang』が、UKロック・ファンの間でちょっと話題でしたよね」

田中「彼らの魅力は、なんといっても卓抜したメロディーセンス! 初期のウィーザーなんかをほうふつとさせるエモいパワー・ポップに、英国らしい陰りを加えたバランスが絶妙だと思うんです。一聴、いかにもブリット・ポップなバンドですが、実はUKロック史において、いそうでいなかったタイプじゃないかなと」

天野「そうかな~……。USインディー的な魅力を持ったUKのバンドという面では、クリブスと近い気も。この曲、亮太さんにとっては今週のNo. 1ソングなんだとか。そんなにかな~……。まあ、なんだかやたらとハッピーな曲だとは思います」

田中「イントロの力強い頭打ちのビートと高揚感に溢れたホーンから、胸にズキューン!と刺さりましたね!」

天野「そうですか……」

田中「ブー・ラドリーズの“Wake Uo Boo!”(95年)や60フット・ドールズの“Back To The Summer”(99年)と並ぶロック・クラブのアンセムになりそう。って、こんなことを言っていたら、天野くんからは冷たいツッコミが入りそうですけど」

天野「いつの時代の話をしているんですか……。あんまりノスタルジーにふけらないでくださいよ!」

田中「でも、それくらい近年出てこなかった類のアップリフティングなロックの名曲だなと。〈気持ちを切り替えるために時間を使おうよ!〉というオプティスミスティックな歌詞も素敵!」

天野「同じUKでは、サクソフォニストのヌバイア・ガルシアの“Source”が現在のロンドン・ジャズ・シーンを象徴する充実の新曲で最高でした! と、最後に自分の推したい曲を無理やりねじ込んでおきます!!」