SUPER DOMMUNEでフレンチ・フルコース付きのディナー・ショー(〈有観客〉のチケットは即完売した)を催したことも大いに話題になった山本精一の、実に4年ぶりの新作。ライブ用の素材やライブ録音の断片からなる作品とのことだが、寄せ集め感をまったくもって聴き取れないのは、そこに新たに音を重ねてみずからトリートメントしたという山本の〈わざ〉ゆえか。

奇妙なエレクトロニック・ビートと奔放なギター・プレイによる“SKIP #2”から、高音のノイズが通奏される12分強のアンビエント・トラック“Hazara”まで、すべての音が運命的かつ感覚的に選び抜かれ、磨かれ、そこで鳴らされるべき音として鳴らされているように聴こえる。練磨された音――『CAFÉ BRAIN』から聴こえてくるのは〈曲〉という制度的な枠組みからどこまでも自由に飛び回る〈音〉であって、しかもその一音一音が強烈な主張と存在感をもって空気を震わせている。本作に耳を傾けていると、すぐれたドローンやノイズの作品を聴いているときとかなり近い感覚をおぼえるが、しかし『CAFÉ BRAIN』はドローンでもノイズでもありながら、そのどれでもない。〈ジャンル〉やある特定のスタイルに限定された、狭隘で一面的な見方を拒否するのが、『CAFÉ BRAIN』という作品である。

『CAFÉ BRAIN』からは、かの傑作『Crown Of Fuzzy Groove』(2002年)からの連続性を感じる。たとえば、“Object C”が特にそうだ。その一方で、本作は〈グルーヴ〉というくびきから解き放たれており、反復こそが肝であるリズム&ビートはアンビエンスへとどろどろに溶解し、霧散している。これはつまり、聴いていてめちゃくちゃ気持ちいいということ。ミュートされたギターの音がディレイされた、まるで極度に純化された『E2-E4』のような“Fairway”を聴いていると、このまま永遠に続いていてほしいと思ってしまう。奇想の音楽家が繰り広げる世にも稀な音の桃源郷、ここにあり。

※このレビューは2020年8月20日発行の「intoxicate vol.147」に掲載された記事の拡大版です