天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週も訃報をお伝えします。スカ/ロックステディの伝説的なバンド、トゥーツ&ザ・メイタルズのヴォーカリストであるフレデリック“トゥーツ”ヒバートが9月11日に逝去。77歳でした」

田中亮太「残念ですね。亡くなったのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査結果を待っている最中だったそうです。“54-46 Was My Number”(68年)や“Pressure Drop”(70年)での名唱を聴いて、偉大なレゲエ・シンガーを偲びましょう」

天野「僕はトゥーツの歌が大好きだったので、本当に悲しいです。名盤『Funky Kingston』(75年)とか、何回聴いたことか……。バンドの新作『Got To Be Tough』が8月末にリリースされた矢先の出来事でした。もうひとつ、別の話題を取り上げましょう。Netflixオリジナル・シリーズ『Song Exploder -音楽を紡ぐ者-』が10月2日(金)に配信されます」

田中「『Song Exploder』は、ヒット・ソングやドラマ/映画のテーマ・ソングを分析する英語圏で人気の音楽ポッドキャストですよね。シーズン1にはアリシア・キーズやマイケル・スタイプが登場し、各人の楽曲のさまざまな側面を解説していくそうです。楽しみ! ポッドキャストの世界的な勢いを感じるニュースでした。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Wizkid “No Stress”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はウィズキッドのニュー・シングル“No Stress”です! これは激クール!!」

田中「ウィズキッドは大スターなので説明不要かもしれませんが、連載初登場なので解説しておきましょう。ナイジェリアのラゴス出身のミュージシャンで、新興ジャンル〈アフロビーツ〉の旗手として知られています」

天野「アフロビーツはフェラ・クティの〈アフロビート〉とはまた異なる音楽のスタイルなので、注意してくださいね。ダンスホール・レゲエやR&B、ヒップホップからの影響が色濃いポップ/ダンス・ミュージックで、ナイジェリアやガーナなどの西アフリカと英国で発展した音楽です。〈アフロ・ポップ(Afro-pop)〉や〈アフロ・フュージョン(Afro-fusion)〉とも呼ばれていますね。僕はここ数年、アフロビーツが大好きで、〈アフロビーツを知るための10曲〉という記事のアイデアを温めています」

田中「今年はバーナ・ボーイ(Burna Boy)『Twice As Tall』や、新進気鋭のファイアボーイ・DML(Fireboy DML)『APOLLO』など、アフロビーツの話題作が国際的な注目を集めていますね。そんな下地を作ったのも、ウィズキッドの功績と言っていいかもしれません。彼が欧米圏で一躍知られるようになったきっかけは、ドレイクにフィーチャーされた“One Dance”(2016年)。ヒット・ソングなので、聴いたことのある方も多いのでは?」

天野「ウィズキッドは、アフリカ国外のスターたちとたくさん共演しているんですよね。セカンド・アルバム『Ayo』(2014年)にはエイコンやワーレイが参加していますし。傑作なので、ぜひ聴いてみてください!」

田中「そのようにアフロビーツが盛り上がっている状況で、ついにウィズキッドが3年ぶりの新作『Made In Lagos』を10月15日(金)にリリースします。“No Stress”はそこからのシングルですね」

天野「7月に発表されたH.E.R.との共演曲“Smile”も最高だったのですが、あの曲は思いっきりレゲエでした。今回はストレートなアフロビーツです。プロデューサーはサウス・ロンドンのP2J。バーナ・ボーイとの仕事で知られていますが、マーク・ロンソン『Late Night Feelings』、ビヨンセ『The Lion King: The Gift』、ゴリラズ“Aries”など、メインストリームの仕事もたくさんこなしています。ちょっとダークですが、研ぎ澄まされた心地いいサウンドで、ウィズキッドの個性と才能が伝わってくる最高の曲ですね。『Made In Lagos』がすごく楽しみです!」

 

2. Porridge Radio “7 Seconds”

田中「ポッリジ・レディオの“7 Seconds”が2位。ポッリジ・レディオは英ブライトン出身の4人組ですね。荒々しいギター・サウンドと不穏さ漂う歌声によるグランジ―なサウンドが特徴。3月にリリースされたセカンド・アルバム『Every Bad』が世界的にも高く評価され、同作は今年のマーキュリー・プライスにもノミネートされています。僕としては、天野くん一押しのバンドという印象が強いです」

天野「そうですね。音楽性がクールですし、ショート・カットのフロントウーマン、ダナ・マーゴリン(Dana Margolin)のカリスマ性にも痺れます。自分にとっては、フォンテインズD.C.なんかと並んで、ロックに興奮する気持ちを思い出させてくれたバンド。さて、そんな彼女たちの待望の新曲ですが、まずプロデュースがマルタ・サローニ(Marta Salogni)だっていうことに驚きました。プロデューサー/エンジニアとしてビョークやM.I.A.、フランク・オーシャンなど、名立たるアーティストの作品に関わってきたイタリアの才人ですね」

田中「最近では、ロンドン在住の日本人ミュージシャン、Grimm Grimmの新作『Ginormous』の共同プロデュースも務めていましたね。彼女の貢献が大きいのか、以前と比較すると、“7 Seconds”ではプロダクション面に変化が感じられます。ダンス・ビート……とまではいきませんが、ドラムが4つ打ちで、ファニーなシンセサイザーのフレーズも印象的。ざっくり言うと、かなり〈ポップ〉になりましたよね」

天野「僕は彼女たちの刺々しいサウンドが好きだったんですけどね……。とはいえ、バンドにとっては新展開の一曲。プレス・リリースによれば、当初はスロウで長尺の楽曲だったらしいです。マーゴリンが〈悲しげで惨めな感じをもう少し軽減したいんだよね〉とドラマーのサム・ヤードリー(Sam Yardley)に相談したところ、彼がキーボードのリフを加えたことで、ムードがガラッと変わったんだとか。この路線をさらに深めていくかはわかりませんが、今後が楽しみです」

 

3. slowthai feat. James Blake & Mount Kimbie “feel away”

天野「3位はスロウタイの新曲“feel away”。シングルとしてはちょっと地味かなって思ったのですが、なんといってもジェイムズ・ブレイクとマウント・キンビーが参加していることに注目。外せないなと思い、紹介させていただきました」

田中「英ノーサンプトン出身のラッパーであるスロウタイは、〈PSN〉に何度も登場していますよね。ジェイムズ・ブレイクも説明不要でしょう。先日、フランク・オーシャンのカヴァー“Godspeed”を発表して話題ですよね。ドミニク・メイカー(Dominic Maker)とカイ・カンポス(Kai Campos)からなるロンドンのエレクトロニック・デュオ、マウント・キンビーも日本では知られていると思います」

天野「あの傑作『Love What Survives』(2017年)をリリースした後のマウント・キンビーの来日公演は最高でしたね! そんな英国の先鋭的なミュージシャン3組がコラボレーションしているということで、興奮しちゃいます。疎外感(feel away)を歌ったリリック、そしてジェイムズ・ブレイクの歌とマウント・キンビーのプロダクションによって、重いメランコリーに覆われている曲ですが、カヴァー・アートに表れているスロウタイの皮肉や悪意は健在。アウトロで聴けるマライア・キャリー“Dreamlover”(93年)のサンプリングもおどろおどろしい……」

田中「スロウタイが妊婦(?)を演じて、さらにバラバラに切り刻まれて食べられる、という悪夢のようなビデオも本当に毒っ気がありますよね。でも、この曲は幼くして亡くなったスロウタイの弟に捧げられているんだとか」

天野「なのに、この曲とビデオって(苦笑)。スロウタイって本当に不思議なキャラクターですね。彼のセカンド・アルバムはどんな作品になるのでしょうか? 想像ができません」

 

4. renforshort “nostalgic (luvsick)”

天野「4位です。シンガー・ソングライターのローレン・アイゼンバーグ(Lauren Isenberg)によるソロ・ユニット、レンフォーショートの“nostalgic (luvsick)”。カナダ、トロントを拠点に活動する彼女は、3年ほど前から自身のYouTubeチャンネルにスティーヴィー・ワンダーやキャロル・キングらの名曲をカヴァーした動画をアップして知られるようになりました。その後〈レン(Ren)〉として活動し、やがてレンフォーショートに改名したようです」

田中「僕はこの“nostalgic (luvsick)”までノーマークだったんですが、過去の楽曲を聴く限り、レン時代は打ち込みのトラックがベースで、ベッドルーム・ポップっぽいサウンドでした。レンフォーショートになったタイミングで音楽的にもモード・チェンジがしたようで、現在はノイジーなギター・ロックを豪快に鳴らしています。個人的には現名義での一連の楽曲には、2000年代前半のポップ・パンクを思い出したり。初期のアヴリル・ラヴィーンとか、バステッドとか、マクフライとか……」

天野「なるほど。でも、僕はポップ・パンク直撃世代ですから、その話は長くなりますよ。まあ、たしかにこの曲はタイトルどおり、ちょっと懐かしい雰囲気ですよね。打ち込みのビートの音もゴツゴツしていますし、コーラス部分でジャーンとギターが入る展開もどこかで聴いた感じ。とはいえ、逆に新鮮みたいな印象もありますし、興味深くはあります」

田中「わかった! これ、ウィータス“Teenage Dirtbag”(2000年)の2020年代ヴァージョンですよ!」

天野「はあ。そうですか……。なお、彼女がギターを抱えているジャケットの構図に見覚えのある方もいらっしゃると思いますが、エドガー・ライト監督の映画『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010年)が元ネタ。懐かしい! そういえば、あの映画もUSオルタナへの愛情が強く打ち出されていましたね」

 

5. The Avalanches feat. Denzel Curry, Tricky & Sampa The Great “Take Care In Your Dreaming”

田中「最後はアヴァランチーズの“Take Care In Your Dreaming”。デンゼル・カリー、トリッキー、サンパ・ザ・グレイトという、おもしろい並びの3組をフィーチャーしています。一応さくっと紹介しておきますと、デンゼル・カリーは米マイアミ出身のラッパー。トリッキーはUKブリストル・サウンドを代表するヴェテラン・プロデューサー。そして、サンパ・ザ・グレイトはザンビア出身でオーストラリアを拠点に活動するラッパー/シンガーです」

天野「それぞれ音楽性はちがうのですが、カテゴライズからするりと抜け出てしまうような個性が共通している、と言えるかも。そして、その組み合わせから想像できるように、“Take Care In Your Dreaming”は強力なサイケデリック・チューンです。トリッキーがヴォコーダーのかかった声で歌う〈夢のなかでもお元気で/そのときは愛して〉というコーラスから、アヴァランチーズらしいドリーミーで色彩豊かな世界に引き込まれます」

田中「あと、この曲は自分の半生をスピーディーに振り返っていくデンゼル・カリーのヴァースがめちゃくちゃかっこいいんです。これ、まるで走馬灯を見ているかのようなトリップ感があります。一方、サンパ・ザ・グレイトのラップはルーツであるアフリカの記憶を映したものになっています」

天野「なお、アヴァランチーズは同時に“Music Makes Me High”という新曲も発表しています。こちらはバリバリのディスコ・ナンバー。歓声入りっていうのが、またいいですよね。これらの楽曲を収録したニュー・アルバム『We Will Always Love You』は、12月11日(金)にリリースされます。タイトルのキマっている感じにはちょっと引きますが……(笑)。ともあれ、これまでのシングルで過去2作とまったくちがう音楽的なアプローチをしているアヴァランチーズ。サード・アルバムには期待が膨らみます」