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君島大空と新井和輝を共同制作者に迎えた高井息吹『kaléidoscope』

――今の話の流れで、高井息吹さんの新作『kaléidoscope』の話題に行きましょうか。『世界の秘密』からは3年ぶりの新作で、前作にも眠る星座のメンバーとして参加していた君島くんと新井くんが、今作では〈共同制作〉として参加しているわけですが、どのような経緯で制作がスタートしたのでしょうか?

高井「そもそも『世界の秘密』を出してすぐに、次のアルバムの構想がもうあったんですけど、ちゃんとステップアップした状態で出したいっていう心持ちで動いていて。なので、“瞼”“サリュ・ピエロ”“ハローグッバイ”とかは、ずっとバンドでやってた曲なんです」

高井息吹 『kaléidoscope』 APOLLO SOUNDS(2020)

君島「大枠で、〈こういうEPを作りたいね〉っていうのは、ずっとぼんやり3人で話してて……あ、思い出した! 今年のアタマに、和輝さんと夜に電話してて、2人で息吹の次のEPのベストの曲順を出し合ったんです。息吹の意見を聞かずに、〈これめっちゃよくない?〉って、2人ですごく熱くなって……」

高井「(小声で)ありがてえ。今までもずっとチームでやってた感じだったけど、今回〈共同制作〉っていう名目で一緒にやってもらうことで、私も今まで以上に気持ちよく委ねられる部分が多くなって、人の意見を大らかに受け止められるようになりました。

今までは結構、狭い思考になりがちで、〈こうじゃないと嫌なんだ!〉ってなってたんです(笑)。でも今回は委ねるところは委ねて、とにかくいいものを作ろうっていう」

君島「仕事の割り振りがはっきりしてたもんね。大枠のアレンジは和輝さんが考えて、僕がウワモノを足したり、ミックスをしたりして、息吹がそれを聴いて、みんなで意見を言う。今までの関係性プラス、各自自分のやるべきことがはっきりしてたから、すごく作りやすかった」

『kaléidoscope』収録曲“瞼”

 

夢じゃなくて、幻を見て生きなさい

――ドラムは勢喜(遊/King Gnu)くんと石若くんが参加していて、勢喜くんが参加した後半の楽曲がいかにもバンド・アレンジなのに対して、石若くんが参加した“サリュ・ピエロ”をはじめとした前半の曲はミニマルなトラック・ベースの曲ですよね。ミックスではどんな部分を重視しましたか?

君島「ミックスはもともとホント趣味でやっていたから、最初和輝さんに〈ミックスは君島ね〉って言われて、〈え?〉ってなったけど……(笑)、頑張りました!」

高井「私がミックスで特に感動したのが“サリュ・ピエロ”で、ブレイク・ミルズみたいな、トラックと生楽器の気持ちいいところを気持ちよく出してくれてるなって」

君島「ブレイク・ミルズのアルバム(2020年作『Mutable Set』)は全部生楽器なんだけど、それをわざと無機質に録って、面白い感じにしてて。最近好きで聴いてたから、そういう嗜好は勝手に出てるかもしれない。

でもやっぱり、今回のミックスはこの関係性だからこそできたっていうのが大きいですね。じゃないと、自分の作品以外はやらないです」

――音楽の色や景色を共有している人がミックスまで担当するのはすごく重要なことだったと思います。石若くんが参加した“万華鏡”についても、改めて話してもらえますか?

高井「実は、君島の“花曇”を聴いて、その景色にとても感化されてできた曲なんです。

目の前にモワッと霧があって、その向こうにお花がいっぱいあるんだけど、距離が遠くてそれを掴めない。そういう景色がずっと残ってたんですよね。曲自体はピアノを弾きながら歌って、わりとパッとできたんですけど、頭に残ってた景色がアウトプットされてできたのが“万華鏡”だったのかなって。

私にとってはEPの一番最後に来る意味がある曲というか、すくい上げるような位置にいてくれる曲になりました。それを駿さんと2人で演奏することで、自分が行きたかったところに、聴いてくれる人を連れて行きたい世界に行けたので、たぶん、一生聴くと思います」

――EP自体が“-daydream-”と“-in a dream-”という曲を挟んで構成されていて、今言ってくれたような、現実なのか、夢なのか、幻なのか、みたいな感覚は、作品全体からも感じられるものだなって。

高井「『世界の秘密』を出した後の自分の中のテーマが〈幻〉だったんです。大学を卒業するときに、お世話になった先生から〈夢じゃなくて幻を見て生きなさい〉って言われたのがすごく残ってたんですけど、同時期に君島から〈絶対的なものは幻だと思う〉って言われて、この2~3年くらい、〈幻〉が私の中の軸になっていて。

なので、そのことについての作品をずっと出したいと思っていて……そういう曲に込めた哲学とか思想みたいなものも、共有しながら作れたので、たった一文の詞でも、その奥に広がってるものまですくってくれたんだろうなって」

君島「どうかねえ?(ニヤリ)」

高井「そう思ってる気持ちも、幻かもしれない……どうかねえ?(ニヤリ)」