新たな〈声〉がバンドを未来へ連れて行く
by 高橋健太郎
前4作はそれぞれ企画がハッキリしていたが、この『Ring Road』は純粋に、デイヴ・ロングストレスがいま、バンドで作りたい新曲を録音したという趣だ。パッと聴いて思い出したのは、ダーティ・プロジェクターズのアルバムの中でも、いまだに最も評価が高い2009年の『Bitte Orca』のこと。女性ヴォーカルを含めた〈声〉を前面に押し出した作りゆえだろう。
2012年頃にエンジェル・デラドゥーリアンが脱退。2017年にはロングストレスのパートナーだったアンバー・コフマンも去ってしまったが、現在のダーティ・プロジェクターズはフェリシア・ダグラス、マイア・フリードマン、クリスティン・フリップの3人を加え、男女の声が交錯するハーモニーを取り戻した。ロングストレスにとって、それがどれだけ重要なことであるかを、このEPは言い表しているようだ。
サウンドもともかく〈声〉が引っ張っていく。逆からいえば、楽器が目立たない。ギターとドラムスが主体で、3曲目の“No Studying”を除くと、ベースもあまり聴こえない。キーボードは4曲目の“My Possession”で初めて意識される。全体に軽いサウンドと言ってもいい。R&Bに影響されたヘヴィーなサウンドを持っていた2017年の『Dirty Projectors』とは対照的で、そのあたりでもひとめぐりした感触がある。
そんな4曲ゆえに、シンプルだからこそ浮かび上がるデイヴ・ロングストレス独特の語法をあらためて感じた。その中核にあるのは、〈声〉を中心に奏でられるエスニック・ミュージックの響きをロック・バンドという形態のなかで、楽器を含めて構成するというアイデアではないかと思う。『Bitte Orca』はそれが最も成功したアルバムだったが、新編成のダーティ・プロジェクターズはその先に進むポテンシャルも備えているのではないだろうか。
前4作のEPでは、新しいメンバーが持ち込んだ音楽性も咀嚼され、クラシック、R&B、ジャズ、ブラジル音楽などが交錯し、サウンドの実験もふんだんだった。それらをすべて癒合した新しいバンド・サウンドに進むための助走期間がダーティ・プロジェクターズの2020年だったのかもしれない。この『Ring Road』の軽やかなエネルギー感を受け止めると、バンドの未来は明るいとしか思えない。