Stillness Is The Move
USインディー界に舞い降りた天使、デラドゥーリアン。ダーティ・プロジェクターズをはじめ、数々の作品に神秘的な声を残してきた彼女がアンチコン初の女性ソロ歌手として新たな船出の時を迎えている
聞き慣れない名前だとしても、かつてダーティ・プロジェクターズでベース/キーボード/ヴォーカルを兼任し、2009年作『Bitte Orca』のジャケにも写っていたエキゾティックな美女と聞けば、ピンと来るに違いない。ブルックリンを拠点とするマルチ・アーティスト、デラドゥーリアンがついにアルバム・デビューを飾ることとなった。
彼女の最大の魅力は、息遣いまでをも〈楽器〉と化してしまう変幻自在な歌声にある。その声には同業者からのラヴコールも多く、ダーティ・プロジェクターズ在籍時にはデヴィッド・バーンやルーツ、ビョーク、ディスカヴァリーらとコラボ。バンド脱退後もU2やフライング・ロータスのアルバムに客演し、今年に入ってからはブランドン・フラワーズ(キラーズ)のソロ2作目『The Desired Effect』に5曲で参加していた。
このたびのファースト・ソロ・アルバム『The Expanding Flower Planet』は、そういった課外活動からの反響も感じさせつつ、デイヴ・ロングストレスがプロデュースした5曲入りのソロEP『Mind Raft』(2009年)をより進化/深化させた内容と言える。ビートルズ“Tomorrow Never Knows”っぽい太鼓で幕を開ける“A Beautiful Woman”に始まり、全編通してサイケで、スペイシーで、トライバルで、呪術的。声には過剰なまでにエコーとレイヤーが施され、ゴスペルのような神聖さを漂わせているのもポイントだ。
不思議なタイトルは、自宅に貼ってあった中国製の花曼荼羅のタペストリーに由来するという。そのためか、随所でインドや東南アジア、中近東の匂いを感じ取ることができるし、“DarkLord”のギターやラスト“Grow”で突如聴こえてくる尺八の旋律は、どこか日本人の琴線に触れる味わいがある。先の読めない曲展開、絶妙なコード感はダーティ・プロジェクターズの楽曲と通じるもので、アリス・コルトレーンやドロシー・アシュビー、テリー・ライリーなどが引き合いに出されるのも納得といったところだろう。
多彩なコラボレーターの存在も、本作を紐解くヒントとなる。彼女が恋人のエイヴィ・テアと結成したエイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックスのドラマーでもあるジェレミー・ハイマン(元ポニーテイル)のほか、共同プロデューサーにはアリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティのケニー・ギルモア、ゲスト・シンガーには実姉のアーリーン、フライロー周辺でお馴染みのニキ・ランダ、さらにどういった経緯か、リサ・マリー・プレスリーの夫でギタリストのマイケル・ロックウッドの名もクレジットされている。USインディー・シーンきっての才女が描く音の惑星には、いったいどんな花が咲いているのか。大音量でその様子を確かめてみてほしい。