(左から)森園竣、徳永駿介、加藤慎也

3人組ロック・バンドTHE FUZZ ACTが、ミニ・アルバム『砂漠の飛行機乗り』を2020年11月30日にリリースした。

60~70年代のロックを彷彿させるブルージーで荒々しいバンド・サウンドと、歌謡曲に通ずる哀愁を湛えたメロディー。それに乗せ、ヴォーカリスト徳永駿介が熱き咆哮のような歌唱で伝えるのは、困難な状況下においてもなんとか希望を見出そうともがく、泥臭くも輝かしい人間のありようだ。

そもそも、彼らのこうした表現のルーツは一体どこにあるのだろう。そして先行きへの不安が広がるいま、彼らはどんなことを考えて言葉を紡ぎ音を鳴らすのだろう。今年6月に行ったメール・インタビューに引き続き、今度はバンド・メンバー3人に直接話を訊いた。

THE FUZZ ACT 『砂漠の飛行機乗り』 MUDMEN(2020)

 

複雑さへの志向を経て辿り着いたシンプルさ

――まず、みなさんの音楽に目覚めたきっかけからお聞かせいただけますか?

加藤慎也(ベース)「中1の頃、先輩が文化祭で演奏していたバンドを観たのがきっかけですね。それからはBUMP OF CHICKENやアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)などをバンドでコピーしていました。高校になると、兄貴の影響で洋楽にも触れるようになって、ニルヴァーナとかレディオヘッドを聴いてましたね」

森園竣(ドラムス)「僕もドラムに目覚めたのは、中学の文化祭がきっかけですね。吹奏楽部が“Sing, Sing, Sing (With A Swing)”を演奏していたんですが、ドラム・ソロが格好良くて。自分で始めてからは、家にあった電子キーボードにいくつかリズム・パターンが入っていたので、それに合わせて練習していました。

で、高校に入るとバンドでドラムを叩くようになります。最初はクラスメイトと組んで、ヴォーカルが女の子だったというのもあり、GO!GO!7188などのコピーをやっていました」

徳永駿介(ヴォーカル/ギター)「僕は中2くらいのときにスピッツを聴いていて、そのうちアコギを買ってコードを覚えていきました。スタートはそこですね。

そのあと高校に入ってバンドを組むようになると、洋楽もいろいろ掘っていきました。それこそ、こいつ(森園)とは高校が同じでバンドも高2から一緒にやってたので、いろんな音楽を共有してましたね」

――いろいろ聴くなかで好みの一貫性はありましたか?

徳永「好み自体は結構バラバラかもしれません。19~20歳頃にはプログレばかり聴いてたんですけど、そこからポスト・パンク/ニューウェイヴに行きつつ、60~70年代のクラシック・ロックやハード・ロック、あるいは80年代のキラキラしたポップスなんかも並行して聴いてましたし。好みの一貫性に従ってたというより、ミュージシャン同士の影響関係を辿っていってた感じですね」

――60~70年代のロックからの影響はTHE FUZZ ACTの音楽のなかに感じますが、プログレやポスト・パンク/ニューウェイヴが好きだというのはちょっと意外に思えます。

徳永「まあでも60年代にもドアーズみたいに、ちょっと影がある妖しい雰囲気のバンドがいましたよね。ポスト・パンク/ニューウェイヴのバンドは、あの辺と繋がっているような気がします。僕はストラングラーズが好きなんですけど、彼らもまさにそういう流れのなかにいると思いますし」

――なるほど。そういう音楽はTHE FUZZ ACTの作品にどんな影響を及ぼしたと思いますか?

徳永「前はプログレに影響されて変拍子を取り入れたりもしてましたけど、多くの人に聴いてもらうためにストレートかつ簡潔にアウトプットすることを意識するようになっていきましたね。複雑さの探求を経て、だんだん削ぎ落されていったということかもしれません」

――そういう時期を経て、いまのシンプルなバンド・サウンドに辿り着いたんですね。一方で新作の『砂漠の飛行機乗り』からは、ギター、ベース、ドラム以外の音も聴こえてきて、その響きが〈シンプル〉の一言で片づけられないような新鮮さをサウンドにもたらしているように感じられます。

徳永「たしかに今回は、結構実験的なことをやりましたね。たとえば“Better and Better”のアコギのフレーズはラテンを意識していますし、“世界のどこにいても”のAメロではバックで鉄琴を叩いています」

『砂漠の飛行機乗り』収録曲“世界のどこにいても”のリモート・ヴァージョン。アルバム収録音源とは異なるアレンジになっている
 

森園「“スクランブル交差点のうた”も面白かったよね」

徳永「あ、そうそう!  “スクランブル交差点のうた”の間奏部分には、渋谷でやったフィールド・レコーディングの音が入ってるんですよ。スマホにマイクを付けて、最初スクランブル交差点を歩いてみたんですけど、どうしても大型ヴィジョンのCMの音が入ってしまうので、そこからなるべく近くてかつCMの音が入らない場所を探して録りました」

 

他者の音に耳を傾け、全員が気持ちいいと感じられるテンポを探る

――自分の担当でない楽器のプレイを意識したり、そこから影響を受けたりすることはありますか?

徳永「僕は曲を作っていることもあって、楽器同士の絡み合いを意識しています。そのなかでも特にベースが重要な気がしますね。ベースはリズムとメロディー/コードをつなぐ楽器なので、そこがしっかりしていないと曲全体も良くならないと思います。

プレイヤーで言うと、ポール・マッカートニーとか細野晴臣を聴いてベースを勉強しました。ああいう、アンサンブルのなかに効果的に入ってくるようなプレイ・スタイルが好きです」

加藤「僕はどちらかというと他の楽器のプレイより、メロディーがどう展開されているかを強く意識してベースを弾いていますね。

クイーンのジョン・ディーコンが理想のベーシストです。抑えるところは抑えつつ、フレディ(・マーキュリー)の歌の音程の上がり下がりに合わせて大きく動き回ったりもする、そのさじ加減が絶妙だなと思います」

森園「僕はギターのフレーズとぶつからないように叩きたいなと思っているので、そこは意識して聴いています。あとやはりドラムはアンサンブルの土台なので、みんながプレイしやすいようなテンポ感で叩きたいという風に思いますね」

徳永「みんながプレイしていて生理的に気持ちいいと感じる共通のテンポがあるはずなので、そこを探りたいというのは僕も常々思っています。日によってそのテンポは微妙に変わるので、当日のリハーサルで音を合わせて、だんだんその日の気分を掴むという感じです」

人間臭さみたいなものを曲で表現したい

――音楽以外の表現からは何か刺激を受けますか?

加藤「音楽に限らず、新しいものに触れるとモチヴェーションが上がります。ただ僕はあんまり探すのが上手じゃないんで、掘っていくのが上手い彼(徳永)にいろいろ教えてもらってます」

森園「僕も教えてもらうことはあるんですけど、あんまりちゃんと試さないかも(笑)」

徳永「でもこいつ(森園)、半年後くらいに突然僕が勧めた本とか読みはじめたりするんですよ。気まぐれですよね。音楽でも急にトランスとか聴きだしたりして(笑)」

――(笑)。徳永さんはいかがですか?

徳永「僕は十代後半から芥川龍之介とか川端康成、太宰治といった日本文学をいろいろと読んでいて、そこからヘッセとかカフカといった海外文学も読むようになって、刺激を受けましたね」

――徳永さんはTwitterで「怒りの葡萄」についても呟かれてましたよね。

徳永「そうです! 『怒りの葡萄』はそもそも20歳くらいのときにスタインベックの原作小説を読んで、〈すげえ!〉と思ったんです。決して救いのある話ではないんですけど、ギリギリの生活のなかで人々がなんとか希望を求めてもがいている、そのリアルな描写に深く感動しました。

そのあとで映画版も観たんですけど、〈白黒かカラーか〉とか関係なく切実に伝わってくるものがあって好きでした」

――たしかに「怒りの葡萄」のテーマや描写には、THE FUZZ ACTの歌詞の世界観と通ずるものを感じます。

徳永「あの作品に流れている〈それぞれの人生があって、みんないろんなことを受け入れたり拒絶したりしながら生活している〉という実感や〈苦しいことも多いけど、なんとかその先へ自分を持っていくんだ〉という意識は、僕の根底にもあるかもしれないです。そういう人間臭さみたいなものを曲で表現したいですね」

 

意味や意識を超えた部分がパズルを完成させてくれる

――言葉の使い方に関しては、文学からの影響はありますか?

徳永「主にリズム面で影響を受けたかもしれないです。特に今作では、韻を踏むことを意識しました。たとえば“Better and Better”の最初のサビでは、リズムのキメの部分の母音を〈イ〉で統一しています。他の曲でも、全体的に意味の深さと音としての気持ちよさを両立させられたかなという手応えがあります。

歌詞ってそもそも意味だけじゃ成立しないものですけど、以前はそれに抗おうとして、あえて意味を先行させて書いていたこともありました。自分の考えていることを先にノートに書いて、それを基に歌詞を作ったり。でもそういう意図は、聴いてる人にはあまり伝わらないんですよね(笑)。

いまは意味の深さと音としての気持ちよさ、二つの要素が上手く混ざり合っているものがいいなと感じます」

――いまは曲と歌詞、どちらから先に作るんですか?

徳永「曲先が多いですね。あと歌詞を書く上ではテーマが先に決まっていた方がやりやすいので、キーワードのような形であらかじめ書きたいことを出すようにしています」

――曲をアルバムという形にしていくにあたっても、やはり前もってテーマを決めてからやるんですか?

徳永「いや、アルバムに関してはそういうわけでもないですね。今作だと“Better and Better”が最後に出来たんですけど、あれが出来たことでパズルのピースがカチッとはまるみたいに全体のテーマが決まった感じです。『砂漠の飛行機乗り』というタイトルも“Better and Better”の歌詞の〈砂漠を越えていくなら俺は飛行機乗りになる〉から持ってきています。

ちなみにあの曲は、歌詞を書いている途中でパイロットとして砂漠に不時着したというサン=テグジュペリの逸話を思い出して、そこから着想を得ています」

――歌詞を書いているとき、自分がそれまでに観たり聴いたり読んだりしてきた作品を思い出すことって、普段からよくあるんですか?

徳永「ありますね。そこで思い出した風景を利用して書き進めるときもあれば、逆にそれに引っ張られて半ば書かされるようにして書くときもあります。〈ふと思い出す〉みたいなことって無意識的だと思うんで、そういうのは大事にしていますね」

――ちなみに加藤さんと森園さんは、歌詞に関して徳永さんに意見を言うことはあるんですか?

加藤「相談されることはたまにありますけど、意見することは特にないですね。(徳永が)相談してくるときって、だいたい考えてることが顔に出てるんですよ。ああ、ここ行き詰ってるんだろうなとか、それ見るとすぐにわかる(笑)。そういうときには、とりあえず考えていることを全部しゃべらせて、僕はひたすらそれを聞いてますね」

森園「話すことで、頭が整理されるからね」

 

〈ひらがなっぽく優しげに/漢字っぽい硬さで〉歌う

――芸術やエンタメ以外でも、日頃普通に生活していて刺激を受けたり、あるいは創作に取り入れようとしていたりする要素って何かありますか?

徳永「言葉に関して言うと、目で見たときの字面としての印象は大事だなと思います。

たとえば漢字で〈凶暴〉って表記されていると、何となく威圧感があるじゃないですか。でもひらがなで〈きょうぼう〉と表記されていると、柔らかい感じがする。そういう印象の違いは、歌詞を書くときにも意識しています。もちろんどういう表記かっていうのは、曲を聴いてるだけではわからないものですけど、自分が作り手としてイメージを描く上では大事なことなんです。それに応じて〈ひらがなっぽく優しげに〉とか〈漢字っぽい硬さで〉とか、歌い方もちょっと変えてますし。

あとは、真逆なものが合わさっていると言葉としての印象が強くなるなというのも、街で広告なんかを見ていて実感します。それも歌詞を書く上で意識しているところですね」

――何も見ずに一度聴いて、そのあとで歌詞カードを見てもう一度聴き直すと、より味わいが増しそうですね。

徳永「そうしていただけると嬉しいですね」

ごく個人的な生活実感を歌うからこそ生まれる普遍性

――今作はコロナ禍以降にリリースされる作品ということで、たとえば“Sidewalk man”の〈たしかなものなど何もないから/俺は心の太陽を燃やす〉や“世界のどこにいても”の〈だれも明日なんか知らない/だからいまを燃やしている〉などのフレーズを、コロナ禍以降を生きる自分自身に重ねながら聴く方も多いかと思うんですが、そういう受け止められ方をすることについて抵抗はありますか?

『砂漠の飛行機乗り』収録曲“Sidewalk man”
 

徳永「いや、特にないですね。世界中で同じ体験をして足並みが揃うことって、なかなかないじゃないですか。だから僕らもちゃんとそれを踏まえた上で作品を出さないとな、と思っています。

実を言うと、“世界のどこにいても”はコロナ以降に出来たんですけど、“Sidewalk man”はコロナ前に出来ていたんです。でもその2曲は、不思議とリンクしている。コロナを機に露呈した問題は、実のところコロナ前の生活のなかにもあった問題で、コロナ以前も以後も本質的には変わっていないんじゃないかと思って。

たとえばコロナ以降にできた“Castaway”は漂流者の歌なんですけど、その根っこには前から僕が感じていた〈自分の考えていることすべてを忠実に他人に伝え得ることは、ほぼないだろう〉という思いがあります。互いにすべてをわかり合うことが非常に難しいという意味で、人間はそもそも孤独な存在じゃないかと思うんです。ただ、コロナ前の日常においては人と会うことで孤独感を紛らわせていたのが、コロナ以降それが難しくなって、否が応でも孤独感と直面しなくてはならなくなった。それによって問題が表出してきた、ということなんじゃないでしょうか。

そんなことを考えながら、最初は孤独な存在を〈透明人間〉になぞらえて“Castaway”を書きだしたんですけど、書いていくうちに少しずつイメージが変わっていって、最終的に〈無人島に取り残された漂流者〉というモチーフに着地しました」

――なるほど。お話を聞いていると、生活実感がダイレクトに歌詞に反映されているんだなというのがよくわかります。

徳永「そうですね。自分が生活していて感じたことをちゃんと書く、というのは大事にしてますね。もちろんいろんなアプローチがあるとは思うんですけど、ロック・バンド(の表現)ってそういうことなのかなと思います」

――ロック・バンドの表現ということに関連して言うと、THE FUZZ ACTの歌詞には一人称に〈俺〉を採用している曲が多いですよね。日本語のポップ・ミュージックの歌詞だと、一人称に〈僕〉を採用しているものも多いと思うんですけど、そんななかで〈俺〉を使うのには何か意図があるんでしょうか?

徳永「実は、普段話すときの一人称は〈僕〉なんですよ。だから話すときと歌詞を書くときで、意図的に使い分けていますね。強いメッセージを伝えたいときなどは〈俺〉にしています。

一方で優しい印象を出したいときには、〈僕〉を使うこともあります。今作だと“スクランブル交差点のうた”では、そうしています。ただ寄り添うような内容の歌詞にあえて〈俺〉を使うことで、歌詞の強度が上がることもあるかもしれないんで、一概には言えないですけどね」

『砂漠の飛行機乗り』収録曲“スクランブル交差点のうた”のライブ・ヴァージョン
 

 

自分のなかで完結させた上で、最後は受け手に委ねたい

――〈自分の本当の気持ちが伝わることはないだろう〉というお話にも繋がりますが、作品を聴いた方から予想外のリアクションをされた経験はありますか?

徳永「ありますね。もちろん捉え方は受け手の自由だというのが大前提なんですけど、それでも作り手として意図するところと全然違う捉えられ方をしたときには、もどかしく感じます。だからそういう場合には伝え方に問題があったんだなと思って、次の作品で工夫するようにする。そういうことの繰り返しですね」

――やはり極力、作り手と受け手のあいだの認識のズレは少ない方がいいという考えですか?

徳永「うーん……でも予想外のリアクションに触れるのが面白く感じられることもあるので、そうとも言い切れないかもしれないです。もちろん僕のなかで意図するところはあるので、それを伝えることに関してベストを尽くしたいとは思いますけど、作品が出た後は自由に受け止めてもらえれば」

――自分のなかでは完結させつつ、同時に受け手に対しては開かれたものであってほしい、と。

徳永「そうですね」

 

制約を逆手にとって新しいものを生み出す

――緊急事態宣言の直前からいち早く弾き語り動画を配信していたTHE FUZZ ACTは、〈非常時に発信する〉ということへの意識が高いバンドという印象です。今後パフォーマンスを発信していくことについて、どうお考えですか?

徳永「個人的には、手段云々よりもまず発信すること自体が大事だと考えていて。僕、アコギを始めたばかりの頃、人に聴いてほしすぎて家の門の前にある花壇で弾き語りをしてたんですよ(笑)。その頃からもう、僕のなかでは発信するっていうことが根源的な意味を持っていたんです。

だから、その場でやることが醍醐味だという理由で配信とかに懐疑的な人もいますけど、せっかくライブ以外にも発信できる手段があるのなら、僕はどんどん使えばいいと思うんですよね」

――〈すぐに発信する〉ということに関しては、配信というツールには機動力の面で利があるかと思います。今後も配信には力を入れていきたいですか?

徳永「そうですね。ついこの間、先輩のバンド(VERONICA VERONICO)の企画に呼んでもらったんです。それは(岩手・)大船渡にあるKESEN ROCK FREAKSっていうライブハウスと(東京・)新宿のWildSide Tokyoっていうライブハウスを中継で結んで、リモートで対バンするっていう内容だったんですけど、こういうのって配信を上手く利用した新しい発信の形だなと思って。

そういうことって、逆にこの状況じゃないと思いつかない気がするんですよね。だから困難な状況をただ嘆くより、それを逆手にとって新しいものを生み出すきっかけにした方が健全だしクリエイティヴだなと思います」

 


LIVE INFORMATION

MEETS presents「Eight Tree」
THE FUZZ ACT mini album "砂漠の飛行機乗り" Release Party

2020年12月4日(金)大塚MEETS
出演:THE FUZZ ACT/The Memphis Bell/O.A 瀬川優
開場 18:00/開演 18:30
前売り 2,000円(+ Drink)/当日 2,500円(+Drink)/配信 1,500円
配信視聴期間:2020年12月4日~12月11日(金)
※視聴期間内であればアーカイヴ視聴可能。アーカイヴ購入もできます
★配信チケットの購入はこちら