自らを〈火山〉と称し、東京・新宿の路上と都内ライブハウスを中心に活動する3ピース・ロック・バンド、BurnQue。5月末に自主企画ライブを開催予定の彼らは、そこでリリースするニュー・シングルのレコーディングを4月頭に行う予定だった。しかし昨今の新型コロナウイルス問題によって状況に変化が訪れる。自主企画をどうするか、レコーディングをどうするか、バンド内では大いに悩んだというが、彼らが出した結論はこうだった。自主企画に関しては保留(※4月14日現在)、そしてレコーディングは続行する、と。
レコーディングする予定だった曲目は、〈いま本当に届けたい〉曲目へと急遽変更。そしフィジカルではなく、配信で、なるべく早くリスナーに届けることに。その期間わずか2週間。さて、彼らが〈いま本当に届けたい〉メッセージとは何なのか。不要不急の外出を自粛させられる中、できる限りの防護や対策はして、少数精鋭でレコーディングに来た岩井正義、川井宏航、出口賢門に話を訊く。
ライブができなくなって、いつ誰かが死ぬかもしれない可能性が出てきてしまった
――今日は3曲をレコーディングするということで、いまちょうど2曲終わったところでのインタビューです。今回のリリースのそもそもの経緯というのは?
岩井正義「今年入ってから4月までに14曲、週に1曲のペースで曲が出来ちゃって。それで5月の自主企画ライブでシングルをリリースして、その売り上げを元にアルバムを制作して8~9月にリリースしようと思ってたんです。そしたら地球がこんなことになっちゃってね」
川井宏航「昨年の12月に『火山Que』っていうアルバムを出して、本来なら今年はそれを売る年だったのに、新曲がどんどん出来るから、ライブでもセットリストのほとんどが新曲でね」
岩井「でもそれをリリースするっていう青写真は完全に潰れてしまって」
――予定は一度キャンセルせざるを得ない。それはいまどこの現場でもそうだと思いますが、それじゃあ今日レコーディングする3曲というのは……。
岩井「このまましばらくは状況が好転するとも思えないし、シングルだ、アルバムだなんて言ってる場合ではなくなってしまって。でも、そこで何も発表しないのも何か違うし、とりあえずいま本当に発表すべき作品をなるべく最速で出すことが大事だと思って、今年入ってから出来た曲の中から3曲を配信でリリースすることにしました」
――それがさっきまでレコーディングしていた2曲(“春”と“ブレイクオンスルー”)と、もう1曲は……?
岩井「“頼むぜレディオ”っていう曲です。“春”と“ブレイク~”は本当に先週くらいに出来た曲で、“頼むぜレディオ”に続く流れもいいと思うので。『火山Burn』(2019年)も『火山Que』も、路上で売ってたシングルを録り直したものだから、どうしてもベスト盤的なノリがあって、1つの軸みたいなものは薄かったんです」
川井「プレイリストみたいなね。だからもっとテーマを持って曲を作っていきたかったし、その2作で凝りすぎて音を重ねすぎたところなんかはもっとシンプルにしたかった。売れてる人のファースト・アルバムってそうじゃないですか、もっとファストでタイトで」
岩井「そしたら曲が出来すぎるっていう(笑)。だからいまは逆に切り捨てて、今回3曲に集中することにして。だから今後も状況を見つつも、数曲ずつ配信していく形にシフトしようかなと思っているところです。何に追われるわけでもなく曲をたくさん作ってた意味って、もしかしてこういうことだったんじゃないかなって」
――そのなかでも今回の3曲はどういう曲なんですか? 新たなモードのシングルなのか、ファースト・アルバムに向けた前哨戦なのか。
岩井「そういうことより、時代に対する意思表示みたいなことがメインになっていて」
川井「衝動的だし、いま言いたいことが詰まっていて。岩井君の歌詞を書くスピードも早かったし、曲を作って翌々日だっけ。すぐに路上でやり始めて」
――じゃあ去年のアルバム2作とも、今後出すであろうアルバムとも切り離して、〈いま〉を表現した3曲になった。
岩井「状況が変わっちゃったから、未来のことを考えて行動してる場合じゃなくなっちゃって。いま何かをしないと未来も消えちゃうし、俺らくらいの知名度がないバンドだったら滅びるなっていう印象があって。だからそれまで考えてたことは白紙にして、その結果が今日のレコーディングなんですよね」
――なるほど。そういうスタンスは歌詞にも表れてますよね。
窓の外に想い馳せて想い敗れて
どこにも行けないそんなの嫌だ
ドアを開けて転がり出るぜ 灰色の街
友達を探そうぜ
(“春”)
嵐を待つなんて 遅すぎる
バリケード突破したいから 今行くんだ
(“ブレイクオンスルー”)
川井「だからいま言いたいことがまとまってるんです。元々は“どぶさらい”っていう〈俺らがカッコいいことをやる/だから気付けや〉っていうシンプルな宣言をした曲を録ろうとか思ってたんですけど、それはいまじゃないなと。ライブができなくなって、いつ誰かが死ぬかもしれない可能性が出てきてしまったし」
――いま本当に言いたいことが変わってきた。
岩井「そう。特に最近の俺の曲ってだいぶニュースありきで作ってて。ソングライターとして、ありもしない理想について歌ってる場合じゃないなって。時代がそれを許さないし、目の前の現実のことを歌ってないバンドなんて滅びるなって思ったんです」
なんとなくGEZANがわかってきた、けど
岩井「身近な例でいうと、最近になってようやくGEZANの在り方が腑に落ちるようになってきたんです。実はいままであんまりGEZANのことがよくわかってなかったんだけど、街中にいてもしんどいことが多くなってきて、そんな時にGEZANのニュースを見て、音を聴いて、〈全感覚祭〉にも行って、なんとなくGEZANがわかってきた。いまはアンチ・ヒーロー的な人たちがヒーローなんだって。だってメインストリームの音楽がちゃんとヒーローをやっていないから。
でもね、そんなGEZANに釘付けになってる客席のことがちょっと怖くもあるんです。だって客席が熱狂しすぎていて、バンドのことをカリスマ視しすぎていて。マヒトさん(マヒトゥ・ザ・ピーポー)も一度喋ったことがあるくらいだけど、めちゃくちゃ頭がいい人で、普段はああいう歌詞みたいな過激な言葉遣いをしない人なはずで。だから、アンチ・ヒーローがヒーローになっちゃうくらいこの時代ってヤバいんだなって思ったんです。そういう時代性っていうのが、いまの自分たちのスタンスに影響を与えていると思う」
――GEZANの活動を受けて、BurnQueはどうしようと思いました?
岩井「俺らは、もっとハートを信じて、隣の人のことを信じた音楽をやりたい。もしかしたらGEZANも根本はそうかもしれないけれど……。例えば俺の好きなジョー・ストラマーはカリスマ性はあるけど教祖じゃなかったし、もっとユーモアがあって、自分を信じて転ぶような人だった」
川井「岩井君はアンチ教祖だからね(笑)」
――たしかに“春”を聴いてると、アンチ・ヒーローではない正統派なヒーローが主人公な感じはします。
岩井「しんどい現実があるのは事実だけど、それだけを歌って終わりにはしたくない。〈現実がしんどい〉〈なら何を祈るのか〉、そういうところまで込めたい。〈青空好きだから見たいじゃん〉みたいな些細なことでもいい。もちろん世の中には逆説的な歌もたくさんあるけど、それは俺たちの性に合ってないし、性に合ったことを言おうとすると最終的には希望になっちゃう」
――〈友達を探そうぜ〉ってね。個人的に好きな“サンダーロード”っていう曲にも〈友達が欲しい〉って出てきます。
岩井「〈誰かに会いてえ、話し合える友達を見つけて絶望のまま終わりたくねえ〉って気持ちなのかな」
――だから岩井さん、前向きな人なんですよね。
岩井「普通の人ですよ(笑)」
――いや、こういう世の中がネガティヴな時こそ、普通の前向きな人が必要だと思うし。
岩井「でも良いことだけ言ってても嘘っぱちのファ〇クJ-Popだし、自分のことだけ歌っててもダメだしね。自分にも当てはまりつつ、バンドメンバー全員にも、聴いてくれる人にも当てはまるようなことを見つめながら書かないと、効力がないと思う」
――まずは一番身近なメンバーから響かないと。
岩井「こないだある人に言われました。あの二人、絶対岩井君のこと好きだよって」
川井・出口賢門「(笑)」
――“ブレイクオンスルー”のレコーディングを見ていて、無口な出口さんが急に立ち上がって〈合わせシンバルも入れたい〉と言って叩き始めた時は、メンバーとバンドのことが好きなんだなって何となく思いました(笑)。
岩井「本当とんちが効いてるよね」
出口「(笑)」
3.11の時のほうがもうちょっとみんな優しかったよな
――これから録る3曲目の“頼むぜレディオ”というのは?
岩井「“春”も“ブレイクオンスルー”も先週書いた曲だけど、“頼むぜレディオ”はもう少し前に書いた曲で。コロナがどうこうの前から、俺は本当にヘイトスピーチが嫌いで、どこかの国の人のことを叩いてたかと思ったら、最近は自分の国のやつ同士で殴り始めて、いまなんて本当最悪の状況だと思うんです。まだ3.11の時のほうがもうちょっとみんな優しかったよなって」
――今回は、より人災の側面が大きいのかもしれないですね。
岩井「ね。隣のやつを監視しあってダメなやつは殴る、みたいな感じがして。そんなんでどうするの?って思ってる。けど、そんなことを言ってる自分も気付けばヘイトのようなことをしている時があって。それは特定の人種や思想に対してじゃなく、例えばバイト先の上司にムカついたりとか。その上司だって誰かに遣われててそういう役目を負っているわけで、本当は悪ではないはず。なのに負の感情が向く矛先になってしまっている。みんな構造と戦わないで、身近なぶん殴れるやつをぶん殴ろうとしている。そんなフシが昔より増えた気がして、そんなのやだね、って思って作った曲が“頼むぜレディオ”です」
――なるほど。
川井「いまの話を聞いてて、インドのコロナのニュースを思い出した。インドも外出禁止みたいですけど、実際は人がめちゃくちゃ出歩いてて、ムンバイではそういう人を警察官が警棒で殴って帰らせてるらしいんです。でもチェンナイっていうところは警察官がトゲトゲのウイルスを模した〈コロナヘルメット〉をかぶって注意してて、それってどこか笑えるじゃないですか。同じことを伝えるにしても、恐怖心で人を動かすより明るいほうがいいと思うし、僕らもそういうふうにしたい。“頼むぜレディオ”っていう曲もそれと一緒で、〈暗いニュースばかりだけど、だからこそカッコいいナンバーをかけてよ〉っていう曲なんです」
――mihimaru GT的な(笑)。
川井「(爆笑)」
岩井「そういうこと! でも曲調は〈俺が考えるジミヘン〉なんだけどね(笑)。あ、人によってはTHE HIGH-LOWSとも言われる」
――それでちょうどいい3曲がそろうという。
岩井「うん、脳内でうまく繋がってるから。どれも近々で書いた曲だから、テーマも通じてるし」
――じゃあテーマは〈コロナ後の世界〉だ。
岩井「本当〈コロナ後の世界〉だ。世の中がこんなことになる前は、作る予定だったアルバム名を『時代』にしようと思ってて、〈(中島)みゆきみたいでカッコよくね?〉とか言ってたんだけど、コロナ後は本当に〈時代〉になっちゃったね。でも、こういう状況になって、こういうことをした馬鹿がいたってのがどこかに残ればいいなと思っていて」
――曲が出来て2週間。言いたいことをほぼリアルタイムで配信できるってのはすごくいいことだと思います。他のアーティストでもやってる人はいるけど、チームが大きければ大きいほど、もっと時間がかかったり、人が集まらなきゃいけなかったりするだろうし。
川井「たしかにこのタイミングで、まるまる〈いま〉のことを歌った新作を出す人もなかなかいないだろうからね」
岩井「いまの状況に対するカウンターをいま出すっていうのはまだあまりないかもしれない。本当はレコーディングの模様もそのままカメラで録ってMVにしちゃえばよかったかもしれないけど、それは実現できなかったので、いままた別の方法を考えてます」
岩井「でも、こういうことをすることで、自分のバンドのレヴェルも極端に測られるだろうし。これで何のアクションもなければまだまだその程度だってことだし、これで何かアクションが起こるなら、自分たちが時代に対して何かしらのアクションができたってことだからバンドの状態もわかるというか。毎日の路上とか、勝手に決めてた目標とかも無駄だったのか、そうじゃなかったのか、現状確認になると思うし。
去年は12か月連続でCDをリリースして全作路上で100枚売った。でも音質の面とかで、あれを買ってくれたのに次に続かなかったんじゃないかっていう気持ちもあるし、何より路上をずっとやっててライブハウスにあまり出られなかった。ライブハウスの人からの応援もあんまりなかったから、今年はどんどんライブハウスに出ようと思っていたし。必要なのは〈いいね!〉じゃなくて〈リツイート〉。誰かに伝えたくなるような活動をしないとな、って思ってます。〈団結も分断もいらないから、各々が優しくカッコよく笑おうぜ〉がいま持てるテーマです」
〈No Music, No Life.〉とか言いながらも、昨今の世間からの音楽の捉え方を見ていると〈音楽って生活に必要ないのでは?〉と思うこともある。アーティストはライブを自粛し、ライブハウスやCD店は営業自粛を余儀なくされ、中には廃業せざるを得ない人もいるだろう。そんな人たちと同様に、この混乱の中で自分の存在意義がわからなくなった“春”の主人公は、〈餅は餅屋なら俺は何屋なんだろう〉と夜通し自問自答し続ける。
しかし自称〈正統派ヒーロー〉は曲の途中で答えを出す。〈餅は餅屋なら俺は俺屋になろう 彼女の涙も必ず止められるさ〉。音楽業界だけでない。いま苦境に立たされているすべての人たちに対して、この曲は新たな活路を見出すヒントをくれるに違いない。
LIVE INFORMATION
BurnQue企画 「さらに光れvol.4〜5月の火山〜」
2020年5月31日(日)東京・下北沢GARAGE
開場/開演:17:30/18:00
出演:BurnQue、and more
料金:2000円、10代割:1000円(要身分証)