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人間臭さみたいなものを曲で表現したい

――音楽以外の表現からは何か刺激を受けますか?

加藤「音楽に限らず、新しいものに触れるとモチヴェーションが上がります。ただ僕はあんまり探すのが上手じゃないんで、掘っていくのが上手い彼(徳永)にいろいろ教えてもらってます」

森園「僕も教えてもらうことはあるんですけど、あんまりちゃんと試さないかも(笑)」

徳永「でもこいつ(森園)、半年後くらいに突然僕が勧めた本とか読みはじめたりするんですよ。気まぐれですよね。音楽でも急にトランスとか聴きだしたりして(笑)」

――(笑)。徳永さんはいかがですか?

徳永「僕は十代後半から芥川龍之介とか川端康成、太宰治といった日本文学をいろいろと読んでいて、そこからヘッセとかカフカといった海外文学も読むようになって、刺激を受けましたね」

――徳永さんはTwitterで「怒りの葡萄」についても呟かれてましたよね。

徳永「そうです! 『怒りの葡萄』はそもそも20歳くらいのときにスタインベックの原作小説を読んで、〈すげえ!〉と思ったんです。決して救いのある話ではないんですけど、ギリギリの生活のなかで人々がなんとか希望を求めてもがいている、そのリアルな描写に深く感動しました。

そのあとで映画版も観たんですけど、〈白黒かカラーか〉とか関係なく切実に伝わってくるものがあって好きでした」

――たしかに「怒りの葡萄」のテーマや描写には、THE FUZZ ACTの歌詞の世界観と通ずるものを感じます。

徳永「あの作品に流れている〈それぞれの人生があって、みんないろんなことを受け入れたり拒絶したりしながら生活している〉という実感や〈苦しいことも多いけど、なんとかその先へ自分を持っていくんだ〉という意識は、僕の根底にもあるかもしれないです。そういう人間臭さみたいなものを曲で表現したいですね」

 

意味や意識を超えた部分がパズルを完成させてくれる

――言葉の使い方に関しては、文学からの影響はありますか?

徳永「主にリズム面で影響を受けたかもしれないです。特に今作では、韻を踏むことを意識しました。たとえば“Better and Better”の最初のサビでは、リズムのキメの部分の母音を〈イ〉で統一しています。他の曲でも、全体的に意味の深さと音としての気持ちよさを両立させられたかなという手応えがあります。

歌詞ってそもそも意味だけじゃ成立しないものですけど、以前はそれに抗おうとして、あえて意味を先行させて書いていたこともありました。自分の考えていることを先にノートに書いて、それを基に歌詞を作ったり。でもそういう意図は、聴いてる人にはあまり伝わらないんですよね(笑)。

いまは意味の深さと音としての気持ちよさ、二つの要素が上手く混ざり合っているものがいいなと感じます」

――いまは曲と歌詞、どちらから先に作るんですか?

徳永「曲先が多いですね。あと歌詞を書く上ではテーマが先に決まっていた方がやりやすいので、キーワードのような形であらかじめ書きたいことを出すようにしています」

――曲をアルバムという形にしていくにあたっても、やはり前もってテーマを決めてからやるんですか?

徳永「いや、アルバムに関してはそういうわけでもないですね。今作だと“Better and Better”が最後に出来たんですけど、あれが出来たことでパズルのピースがカチッとはまるみたいに全体のテーマが決まった感じです。『砂漠の飛行機乗り』というタイトルも“Better and Better”の歌詞の〈砂漠を越えていくなら俺は飛行機乗りになる〉から持ってきています。

ちなみにあの曲は、歌詞を書いている途中でパイロットとして砂漠に不時着したというサン=テグジュペリの逸話を思い出して、そこから着想を得ています」

――歌詞を書いているとき、自分がそれまでに観たり聴いたり読んだりしてきた作品を思い出すことって、普段からよくあるんですか?

徳永「ありますね。そこで思い出した風景を利用して書き進めるときもあれば、逆にそれに引っ張られて半ば書かされるようにして書くときもあります。〈ふと思い出す〉みたいなことって無意識的だと思うんで、そういうのは大事にしていますね」

――ちなみに加藤さんと森園さんは、歌詞に関して徳永さんに意見を言うことはあるんですか?

加藤「相談されることはたまにありますけど、意見することは特にないですね。(徳永が)相談してくるときって、だいたい考えてることが顔に出てるんですよ。ああ、ここ行き詰ってるんだろうなとか、それ見るとすぐにわかる(笑)。そういうときには、とりあえず考えていることを全部しゃべらせて、僕はひたすらそれを聞いてますね」

森園「話すことで、頭が整理されるからね」

 

〈ひらがなっぽく優しげに/漢字っぽい硬さで〉歌う

――芸術やエンタメ以外でも、日頃普通に生活していて刺激を受けたり、あるいは創作に取り入れようとしていたりする要素って何かありますか?

徳永「言葉に関して言うと、目で見たときの字面としての印象は大事だなと思います。

たとえば漢字で〈凶暴〉って表記されていると、何となく威圧感があるじゃないですか。でもひらがなで〈きょうぼう〉と表記されていると、柔らかい感じがする。そういう印象の違いは、歌詞を書くときにも意識しています。もちろんどういう表記かっていうのは、曲を聴いてるだけではわからないものですけど、自分が作り手としてイメージを描く上では大事なことなんです。それに応じて〈ひらがなっぽく優しげに〉とか〈漢字っぽい硬さで〉とか、歌い方もちょっと変えてますし。

あとは、真逆なものが合わさっていると言葉としての印象が強くなるなというのも、街で広告なんかを見ていて実感します。それも歌詞を書く上で意識しているところですね」

――何も見ずに一度聴いて、そのあとで歌詞カードを見てもう一度聴き直すと、より味わいが増しそうですね。

徳永「そうしていただけると嬉しいですね」