Page 3 / 5 1ページ目から読む

自分の中の葛藤

――逆に過去に書かれた曲は“金木犀”や“スイカ”ということですね。

「いちばん昔の曲は“スイカ”ですね。BiSHになる前から歌っていて」

――“きえないで”と並んでファンの方ならご存知の歌でもありますね。

「ありがとうございます(笑)。YouTubeもアカウント入れなくなっちゃって(笑)」

――当時MVをアップされてたのが2015年2月となっているので、BiSHのオーディションを……。

「受ける直前ぐらいですかね。その時はお父さんのカメラマンの事務所に友達を呼んでMVを撮影して。衣装がなかったんで、布を身体に巻いて、ホント手作り感満載の(笑)。一時期ダサイなとか思ってたんですけど、いま観返すとけっこう私カッコイイことしてるなと思ったりします(笑)」

――今回はもちろん再録となるわけですが。

「はい。今回は、昔“スイカ”を書いた頃の私と、その頃よりは大人になった自分との比較っていう感じで大幅に歌詞を変えてます。最近〈昔のほうが良い曲書けてたな〉とか自分で思うことがあって、“スイカ”も“金木犀”も“リズム”もそうですけど、ホント感性だけで作ってたっていうか。でも、いまはそれがあんまり活きてこない気がして、〈感性が死んでるのかな?〉みたいに思って。〈感性が死んだら、私は死んでて、もう曲も書けないんだ〉って、ちょっと病んでたんですけど。いや、もし感性が死んでたら、清掃員の人たちもいないし、BiSHの振付けを観て良いって言ってくれる人もいないし、そういう人たちのことを蔑ろにしてるような生き方しちゃダメだって思い直して。感性が死んでないから、私生きてるんだわ、みたいなことをアルバム制作中に感じて、そういう気分の移り変わりを書いてますね。悩んだけど私の感性は死んでなくて、だから生きてるって。自分には情けないところとか、足がすくんだりする時もあるけど、根本は変わってないな、みたいな。自分の中の葛藤と、それを受け入れたことを書きました。私小説みたいになっちゃってますかね」

――いま仰った感性のお話で言うと、オープニングの“金木犀”もそうですね。

「“金木犀”は3拍子っていうのも気付かずに作ってたんで。ホントそれは自分の中の、音楽大好きみたいな純粋な気持ちでやってたんだと思いますね。“きえないで”もサビが1回しかなくて構成も意味わかんないけど、そこに何の迷いもなかったんですよね。〈これしかないじゃん!〉みたいな(笑)」

――型を知らない頃の良さみたいな。

「そうなんです。いまはいろんな人にいろんなことを教わって、少しだけ昔よりは知識があって。だから中途半端に〈あ、ここはこれじゃないほうがいいな〉とか思っちゃうんですよね。それが悪いのか良いのかわかんないんですけど。このアルバムでもその葛藤は一生あって。パッて決まったのなんて、“虹”と“NaNa”と“STEP by STEP”とか、少ないです。“サボテンガール”とかずっとメロディーに悩んで」

――自分で決めないと終わりがない作業というか。

「ホントそうですね。自分で納得するまで人に聴かせられないっていうか。振付けでも作業段階のものをメンバーにも見せたくないんですけど。自分の中である程度〈こうやっていきたい〉みたいなのを明確に持って伝えないと、人も混乱しちゃうじゃないですか。だから曲もある程度これは納得するところまで作らないと聴かせられなくて。それで篠崎さんとかを待たせてしまったりもしたんですけど。だからもうちょっと理論とかがわかってきたら、自分でもちょっと楽なのかもしれないなとかは最近思います」

――ということは、ある程度の段階までデモを固めて亀田さんにお渡したわけですね。

「はい。メロディーの変更とかひとつもなくて、それもけっこう私的には衝撃だったんですけど。〈好きなようにやっていいよ〉っていう。ただアレンジがもう凄すぎて。音楽にしてくださったっていうか、ありがたいです」

――亀田さんの編曲によって特に大きく化けた曲というと?

「ほとんどそうなんですけど、ビックリしたのは“NaNa”ですかね。最初ギター一本と声一本だけ。ドラムの打ち込みもちょっと入れてたのかな。コード進行とか、こういうテンポがいいぐらいで送ったんですけど、一発目のデモでアレンジがきた時にめちゃくちゃカッコ良くて〈これヤバイ!〉と思って。〈これ歌って良いんですか?〉って感じでビックリしましたね(笑)。あとは“スイカ”も、ピアノとギターで友達と作ってたけど、例えばドラムがパターン変わって、ストリングスが入って、みたいなのに10代の時は憧れてたんで。それを亀田さんがドラマチックに仕立ててくれて、そこもビックリしました。〈こんなに愛を持って曲に向き合ってくれるんだ〉って思って。ありがたかったです」