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コンピ『City Soul:Sparkle』のハイライトはPenthouse“Fireplace”

――その「シティ・ソウル ディスクガイド」第2弾が刊行され、さらにシティ・ソウルの観点から主に現行の楽曲を小渕さんが選曲されたコンピ・シリーズ第3弾『City Soul:Sparkle – Today’s Soul, AOR & Blue Eyed Soul』もリリースされました。コンピの5曲目に収録されているのが、今回座談会にお呼びしたPenthouseの“Fireplace”です。小渕さんの選曲の妙もあり、スムーズに違和感なく並んでいますね。

小渕「前半のハイライトとして選曲しました。その前の4曲は“Fireplace”を聴いてもらうためのものです(笑)」

『City Soul:Sparkle – Today’s Soul, AOR & Blue Eyed Soul』収録曲“Fireplace”

大島真帆(Penthouse)「いやいや、そんな(笑)。小渕さんが“Fireplace”を選んでくださったのはどうしてなんですか? 今日は、ぜひそれをお訊きしたかったんです」

小渕「1年くらい前だったかな、Twitterで見つけてYouTubeで聴いたんです。一聴して〈これ、いい!〉と思いましたね。まずボーカルが圧倒的ですし、演奏も素晴らしい。それに、このテンポ感は聴いていて飽きないので大好きなんです。日本のバンドかどうかは関係なく、とてもいい曲なので選びました」

大島「たくさんの曲を聴いてこられた小渕さんに褒めていただけるのは、本当に光栄です」

 

ハード・ロックからシティ・ソウルへの転身

――Penthouseは直球で〈シティ・ソウル〉を掲げているバンドですよね。浪岡さんは結成以前、ハード・ロック・バンドをやっていたのだとか。

浪岡真太郎(Penthouse)「そうです。自分としてはクォリティーの高いハード・ロックをやっていたのですが、日本には受け入れてもらえる土壌がないというか、どの層にリーチしたらいいのかがわからなかったんです。

なので、別の方向でバンドをやろうと思ったとき、シティ・ソウル的なものであれば受け入れられるのかなと思ってPenthouseを組みました」

――シティ・ソウルを掲げつつも、メンバーの音楽の好みはバラバラだと浪岡さんは書いていらっしゃいました

浪岡「それぞれの根底に流れているものはちがうのですが、サークルでは主にブラック・ミュージックをカバーしていたので、共有できる音楽は多いですね」

平井辰典(Penthouse)「それこそスティーヴィー・ワンダーやアース(・ウィンド&ファイアー)はサークルで演奏したので、みんなの共通項です」

小渕「お三方が所属していた大学時代のサークルはブラック・ミュージック専門だったんですか?」

浪岡「オール・ジャンルでJ-Popをやるバンドもいましたが、先輩になるにつれブラック・ミュージックへ挑戦する流れがありましたね」

平井「ハード・ロックなどに比べると、ソウルやファンクは男女関係なく広く受け入れられて、盛り上がれるんですよね」

小渕「なるほど。30年前に僕が学生だった頃、アースなどは共通の知識ではありませんでした。レッド・ツェッペリンを好きな人はアースなんて聴かないし、そもそもアースは難しいから演奏できない。軽音部の絶対的な1位はディープ・パープル、という時代です」

浪岡「すごい……」

大島「ツェッペリンやディープ・パープル、浪岡がよく弾いていますね(笑)」

――小渕さんが考えるシティ・ソウルには〈技巧的〉というキーワードもありますよね。

小渕「音楽の歴史って、前世代へのカウンターで進んでいくんですよね。90~2000年代のヒップホップやEDMは、それ以前の技巧的な音楽への反動で、サンプラーやコンピューターさえあれば素人でも作れるものでした。

いまはまたそれに対するカウンターで、テクニカルなものが求められていると思います。J-Popにしても、米津玄師さんやKing Gnuはヒップホップのフロウなどを消化した高度な音楽をやっていますよね」

 

吉田美和 × スティーヴン・タイラー=Penthouse?

――Penthouseも、浪岡さんと大島さんの高度でパワフルなボーカリゼーションが魅力的だと思います。

大島「私は幼い頃から父の影響でDREAMS COME TRUEの吉田美和さんに憧れていて、その影響がいちばん大きいんです。EPOさんや竹内まりやさんのような女性ボーカルの音楽を聴いていて、〈私もこういう歌手になりたい〉という志を持っていました。

それと、ブロードウェイに憧れてミュージカルのレッスンも受けていたので、私の歌はちょっと教科書的かもしれません。反対に、浪岡はかなりオリジナルというか……(笑)」

浪岡「習ったことはまったくなくて、高校の軽音部でボーカルを始めました。親がハード・ロック世代だったこともあって、エアロスミスを大好きになり、見よう見まねでスティーヴン・タイラーの歌をまねしていたんです。カラオケで録ったものを聴いては歌い方を変えていく、ということの繰り返しでしたね」

――すごい……。叩き上げですね。

大島「ハード・ロック・バンド時代は年間100回ライブをやったこともあるそうです」

浪岡「やっていました。それも録音して帰り道に聴いて、歌い方を研究して……。レッスンなんて行ったら怒られるような歌い方でしょうね(笑)」

――浪岡さんの歌はすごくソウルフルですよね。サザン・ソウルのようなアツさも感じます。

浪岡「ブラック・ミュージックを聴いていくなかで、上手い黒人シンガーの歌い回しもかなり取り入れました。ヴィンテージ・トラブルのタイ・テイラーがすごく好きで、ウィルソン・ピケットも好き。好きなボーカリストのエッセンスが詰まっているのが僕の歌なんですね。

最近は日本でも上手いボーカリストが多くて、しんどいですね(笑)。僕は普通のシンガーとはちょっとちがうところを攻めているので気楽ではあるんですけど、でも前提として、みんな上手い。僕らはYouTubeで発信しているので、そこで聴き手に〈いい〉と思ってもらうポイントのひとつに〈歌が上手い〉というのがあるんじゃないかなと思っています。個人的には上手さだけじゃなくて、声色のちがいなどにも気づいてもらいたいです」