日本のポップス・シーンの静かなるキーマンが活動25周年! その総決算とも言える2作品
昨年、活動25年目を迎えたシンガー・ソングライター、高野寛。旧作をリマスター再発する一方で、弾き語りツアーで全国を回ってアニヴァーサリー・イヤーを駆け抜けたが、そんな25周年記念の総決算とも言える18枚目のニュー・アルバム『TRIO』が届けられる。本作ではカエターノ・ヴェローゾの息子、モレーノ・ヴェローゾをプロデューサーに招いてリオでレコーディング。現地ミュージシャンとアコースティックなセッションを通じて生み出された本作は、リラックスした雰囲気のなか、まるで呼吸するように自然な間合いで歌が紡がれていく。これまで高野は宅録的に音を作り込んでいくことが多かったが、本作は開放感に溢れていて、持ち前のひねりが効いたポップセンスはそのままに、そこにふわりとブラジルの風が吹いている。瑞々しさと成熟を併せ持つこの作品は、彼にとって新境地と言える充実した仕上がりだ。
そんな素晴らしい新作にあわせて、高野と親交の深いアーティストが参加したトリビュート盤『高野寛 ソングブック ~tribute to HIROSHI TAKANO~』もリリースされる。ハナレグミ、おお雨(おおはた雄一&坂本美雨)、畠山美由紀&青柳拓次、トッド・ラングレンなど多彩なミュージシャンがお気に入りの曲をカヴァー。個人的には組曲のようにアレンジされた蓮沼執太フィルの“夢の中で会えるでしょう”の斬新さや、師匠である高橋幸宏が美しい多重コーラスを添えた“やがてふる”のドリーミーさが印象的で、高野に捧げられた歌の花束のような本作を聴いていると、彼が仲間たちから愛されていることが伝わってくる。高橋幸宏と鈴木慶一が立ち上げたレーベル、TENTからデビューして以来、世代を越えてさまざまなアーティストの作品に関わってきた日本のポップス・シーンの静かなるキーマン、高野寛。この2枚のアルバムには、彼の魅力がたっぷりと詰まっている。
▼関連作品
左から、モレーノ・ヴェローゾの2014年作『Coisa Boa』(Maraviha 8)、トッド・ラングレンの2013年作『State』(Wea)、蓮沼執太フィルの2014年作『時が奏でる』(B.J.L./AWDR/LR2)