イラスト:ジェリー鵜飼

不思議な音楽地図を描き続けるトリオから30周年のご挨拶

LITTLE CREATURES 『30』 Pヴァイン(2021)

 リトル・クリーチャーズがデビュー30周年を迎えた。それにしてもこのフレーズがこれほど似合わないバンドもないと思うし、30年という重みにそぐわないこんな記念アルバムもそうはない。と、彼らの5年ぶりの新作『30』を聴きながらブツブツ呟いている。初めて全曲日本語詞に取り組んだ前作 『未知のアルバム』を振り返れば、ソリッドなビートを紡ぐことを命題に据えた彼らのいささか精悍な顔つきが思い出されるが、今回の表情はそれとは大違い。初っ端に登場するアフロ風味の“速報音楽”からしてアフタービートを強調したレイドバック気味の演奏が転がり落ち、早くも30年目という看板の文字がぼやけ始める。ひさびさに彼らの音楽に触れる人はきっと、いつの間にこんな身軽さを手に入れたの?と驚くに違いないが、偏狭な価値観で彼らの音楽を捉えようとする向きを煙に巻いたりしているうちにおぼえた術だと思う、って説明させてもらおう。スライ&ザ・ファミリーストーンとミーターズのリズムをチャンポンにして飲んだような“大きな河”(初期の細野晴臣を思わせるムードもあり)なども含めて、一種独特で魅惑的なグルーヴに支配されている本作。ひねくれているようで人懐っこく、超マイペースだけどなぜか憎めないユニークなキャラクター性が際立っている点に加えて、持ち前の軟体的体質やエキゾ感が色濃く浮かんでいるあたりがさすがだ。

 結局のところ彼らは老成しているのか、それとも青二才のままなのか。この30周年記念アルバムはその問いに対して答えようとはしてくれないが、この先も変わらず未確認飛行物体のまま僕らの頭上を旋回し続けるということだけはしっかりと語っている。そういえば、これまでの道程を振り返り〈こんなトリオのバンドがあったらいいよねってそうずっとやってきたような気がする〉って青柳拓次がコメントしていたけれど、こちらもずっとそういう思いを抱きつつ見守ってきたことに改めて気がついた。どうかいつまでもそのままで。