スタッフ(Stuff)『NY Sweetness : Best WORKS』一流のセッションマンたちが奏でた〈解放の音楽〉をタワレコ独自ベストで知る

2021.03.23

すべての音楽好きに自信を持って勧められるようなベスト盤をタワーレコードが独自に制作する企画、TOWER RECORDS PREMIUM。第1弾のタキシード『The Best Of Tuxedo』に続くその第2弾として、伝説のフュージョン・バンドであるスタッフのコンピレーション盤『NY Sweetness : Best WORKS』が2021年3月10日にリリースされた。

70年代後半から80年代前半にかけて米国で活躍した、スタッフ。そのメンバーに名を連ねるのは、ゴードン・エドワーズ(ベース)、リチャード・ティー(キーボード)、コーネル・デュプリー(ギター)、エリック・ゲイル(ギター)、スティーヴ・ガッド(ドラムス)、そしてクリス・パーカー(ドラムス)。全員がそれぞれに名の通った腕利きのスタジオ・ミュージシャンであり、各人の参加作品を列記すれば70年代米国産ポップスの総目録が出来上がると言っても過言ではないだろう。

もちろん一流を集めれば必ず一流が生まれる、というわけではない。むしろ強烈な個性同士は、しばしば互いの美点を打ち消し合ってしまうものだ。だがスタッフの演奏を聴けば、少なくともスタジオ・ミュージシャンにはその理屈が当てはまらないとわかる。どんなプレイヤーと組もうとも、相手の呼吸のリズムをすぐに感じ取り、そこに自分の呼吸を合わせていくことができる。それこそが一流の演奏家としての条件であると、彼らの作品は教えてくれる。またそのことは、やはり超一流のスタジオ・ミュージシャンたちから成るTOTOやエアプレイといった、スタッフとほぼ同時代のバンドの成功によっても裏付けられる。

スタッフやTOTOが活躍した70年代後半というのは、それまで裏方であったスタジオ・ミュージシャンたちがバンドを組み、表舞台へ出ていく動きが米国内で盛んになった時期である。そもそもその少し前、70年代前半に台頭したスティーリー・ダンやポール・サイモンといったプロデューサー肌のアーティストたちは、スタジオ・ミュージシャンを上手くコントロールすることでみずからのヴィジョンを十全な形で表現しようとした。そんな彼らの試みは、当時シンガー・ソングライター・ブームに沸いていた米音楽界全体へ着実に伝播していき、その品質水準を大きく底上げしたが、反面それがスタジオ・ミュージシャンの表現者としての意識を抑圧したことも想像に難くない。スタッフのメンバーを含め、多くのスタジオ・ミュージシャンが後にバンドを組みはじめるきっかけとして、彼らの自己解放への欲求というのは無視できない要素のように感じられる。

スタジオ・ミュージシャンたちから成るバンドの多くが奏でた音楽は、フュージョンやAORなどに分類される。それらは一見すると、近い時期に生まれたジャンルであるパンクとは対照的だ。実際、パンクの信奉者たちはしばしば、フュージョンやAORといった音楽を商業主義の権化として槍玉に挙げてきた。だが実は〈解放の音楽〉を奏でていたという点で、両者は共通しているのではないだろうか。

とは言え、スタジオ・ミュージシャンたちによる解放の表現は、パンクスたちのそれとは違って、どこまでも滑らかで洗練されている。わけても、スタッフの洗練度は群を抜いているように感じられる。バンド名義のアルバムからの音源を中心に全32曲を厳選して収録した本作は、彼らの〈自己解放の精神〉と〈あくまで聴き心地の良さにこだわる美学〉を共に余すところなく伝えている。そして本作には、もう一つ見逃せない点がある。それは、バンド・メンバーがドナルド・フェイゲンやダニー・ハサウェイ、アル・ジャロウといったアーティストのセッションに参加したときの音源が収められていることだ。これらをバンド名義の音源と聴き比べることで、スタジオ・ミュージシャン活動とバンド活動、その両方における彼らのスタンスの違いがよくわかるだろう。

他アーティストのバッキングを務める際には職人的に仕事を全うし、自身のバンドでは自己解放の喜びを鳴らす。スタッフのメンバーによる責任と自由の見事な両立ぶりは、それらの両立の困難さに悩む私たち現代人を勇気づけてくれる。甘やかなメロディーと心躍るようなグルーヴに乗せて。

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