リリースから40周年を迎え、〈40th Anniversary Edition〉としてよみがえった大滝詠一さんの名盤『A LONG VACATION』(81年)。CD、LP、そして豪華な〈VOX〉がリリースされ、さらにナイアガラ時代の全作品がストリーミング・サーヴィスで解禁されるなど、いつまでも色あせない大滝さんの音楽と『ロンバケ』は、2021年のいまも人々の心を掴んで放しません。
〈CITY POP Voyage〉キャンペーンを開催中のタワーレコードとアナログ専門店〈TOWER VINYL SHINJUKU〉も、『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』を大々的に展開してプッシュしています。同店の連載であるこの〈TOWER VINYL太鼓盤!〉では、前回に続いて『ロンバケ』を大特集。今回は、再発アナログ盤(1LP)、VOX所収の45回転盤(2LP)、そして83年のマスター・サウンド盤という3つをTOWER VINYL自慢のサウンド・システムで聴き比べながら、タワーレコード新宿店のスタッフたちとともに、『ロンバケ』について語り合いました。
なお、『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』のアナログ盤と『A LONG VACATION VOX』は人気商品のため売り切れ続出中。在庫については、各店舗にお問い合わせください。

大滝詠一 『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』 ナイアガラ(2021)
3つのアナログで聴く“君は天然色”
――今回は『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』をアナログで聴きながら、タワーレコード新宿店スタッフのみなさんと『ロンバケ』についてわいわい語り合えればと思っています。まずは1LP盤で、A面1曲目、説明不要の名曲“君は天然色”から。……イントロのチューニングとカウントからして、かなりすっきりした、クリアな音像であることが感じられますね。ベルの音もはっきり聴こえてきます。
田中学(新宿店9F)「全然ちがいますね! 『ロンバケ』って、音を重ねに重ねているアルバムじゃないですか。なので、リマスター盤のほうがそれを感じられますね」
村越辰哉(新宿店副店長)「1LP盤のカッティングは、ロンドン・メトロポリス・スタジオのティム・ヤング。ビートルズの『Love』(2008年)でグラミー賞を受賞したという、最高峰のエンジニアの方なんですね」
――彼は引退していたのですが、〈『A LONG VACATION』の作業ならしてもいい〉と引き受けたのだとか! また今回のリマスター盤では、大滝さんのヴォーカルを前に出しているそうです。しかもオケを引っ込めることなく、全体的な音圧を上げつつも、さらにその前にヴォーカルを出すようなイメージの音像を目指したといいます。
田中「なるほど。では、禁断の45回転盤を聴いてみましょうか……」

――おお……。低音がヘヴィーで、かなりパンチがある。音圧の高さがすごいですね。
田中「ベースが前に出ていますね。特に、スラップ奏法のときにそう感じます。レッド・ツェッペリンみたいなドコドコと叩くドラムの迫力がすごい!」
村越「ラウドですね! いい音だと思います」
田中「“君は天然色”はAメロ、Bメロ、サビで、ドラムのリズム・パターンがちがいますよね。そのことがガツっと感じられます」
塩谷邦夫(TOWER VINYL)「“君は天然色”だけでなく、『ロンバケ』はほとんどの曲でドラムのリズムが変わりますからね」
――リズムが豊かなアルバムなので、ボトムがパワフルな45回転盤で聴くとより楽しめると。
塩谷「でも、ウォール・オブ・サウンド的な音の一体感はある。リマスター盤は分離がよくなったというよりも、場面場面で主役の楽器の音が〈ここは俺の出番だ!〉と前に出てくる印象です。“君は天然色”にたくさん入っている効果音に、それが顕著ですんw。45回転は、さらに音が太く厚く感じられます」
田中「音溝が深いですから、重さがどすんときますし、音の〈団子感〉が強い。それに比べて、33回転盤は軽めの仕上がりです」
松本創太(新宿店8F)「45回転盤は鑑賞用で、33回転盤はデイリー・ユースというか、BGMとしても聴ける感じでしょうか」
――田中さんが持ってきてくださった、83年のマスター・サウンド盤も聴いてみましょう。リマスター盤よりもわもわとした音像で、音の塊感が強いですね。

田中「これはこれで太い音ですね」
塩谷「音が一体化していて、これぞ『ロンバケ』という感じがします」
松本「これもまた、大滝さんが思い描いていた音なのかも」

“Velvet Motel”と“カナリア諸島にて”の陰りや深み
――次はA面2、3曲目の“Velvet Motel”と“カナリア諸島にて”です。
塩谷「この2曲は失恋ソングですね。最近は〈『A LONG VACATION』は音楽的にシティ・ポップではないのでは?〉という議論が盛んですが、僕は“Velvet Motel”はシティ・ポップとして聴けると思います」
田中「“Velvet Motel”にはラジさんが参加していますね」
塩谷「〈風景画ひとつ〉のところですね。僕、あそこが大好きなんです」
村越「『ロンバケ』はさわやかなイメージですが、“カナリア諸島にて”の歌詞はそれほどさわやかじゃない。むしろ、世捨て人の歌のようです」
――“君は天然色”も、実は〈モノクローム〉の世界ですから。
松本「〈色を点けてくれ〉という歌詞ですから、まだ色がついていないんですよね」
塩谷「“カナリア諸島にて”には諦念のムードを感じますね」
――ただ、そういった悲観的なところを意識しないで聴けるのが、『ロンバケ』のすごいところですよね。
田中「サウンドとメロディーがめちゃくちゃポピュラーじゃないですか。鼻歌で歌っていても、歌詞の暗さに気づかないのが不思議ですよね」
――いかにも〈マイナー調です!〉という悲しげな曲は、“さらばシベリア鉄道”しかありませんし。
村越「(歌詞カードを読みながら)“スピーチ・バルーン”も暗いなあ……。今回聴き直していて気づいたのは、ラヴ・ストーリーなんだけど心に傷を負っている曲が多いこと。〈天然色〉〈Velvet Motel〉〈カナリア諸島〉〈ピンボール〉〈バルーン〉と、字面だけを見るとポップでリゾート的なんですけど」
田中「サッドな感じですよね。マイケル・フランクス的というか」
――作詞を担当した松本隆さんは『A LONG VACATION』の制作前に妹さんを亡くしていらっしゃるので、歌詞には陰りがありますよね。表面的に聴き流していると明るいポップ・アルバムですが、歌詞を読むと陰りや重さを感じる。『ロンバケ』は洋楽のアルバムと同じような聴き方ができるというか。
田中「『ロンバケ』の文学性や深みは、松本さんの歌詞がもたらしていますよね」
シンセ・ドゥワップが楽しい“Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語”
――A面4曲目は“Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語”。
田中「これはツイスト?」
――イントロのピアノはラグタイムというか、ブギウギというか。ドラムのリズム・パターンには、ニューオーリンズのセカンド・ラインが入っているのではないでしょうか。
塩谷「そうですね。大滝さんの音楽の元ネタって、絶対に1つじゃないので(笑)。2つ以上は組み合わせているはず」
村越「作詞は、この曲だけ大滝さんご本人なんですね。〈言うことミーニングレス することシューチレス〉と、コミック・ソング的なフレーズが楽しいです」
田中「A面の4曲目とB面の4曲目(“FUN×4”)が『ロンバケ』以前の大滝さんっぽい曲、というアルバムの構成になっています」
松本「たしかに。でも“Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語”は、『ロンバケ』の雰囲気に合わせてロマンティックな歌詞ですね」
塩谷「“楽しい夜更かし”(75年)とは、そこがちがう(笑)」
村越「“楽しい夜更かし”は、ちょっと享楽的な歌詞ですから(笑)」
田中「“Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語”は、大滝さんがプロデュースしていたシャネルズ(ラッツ&スター)の音楽に近いですね」
塩谷「きっと大滝さん的には〈ドゥビドゥバ〉のコーラスをがっつり入れたかったのだと思いますが、シンセサイザーで弾いたドゥワップのフレーズを目立たせるためにやめたのでしょうね」
松本「松武秀樹さんが作ったというあの独特のシンセの音は、鍵盤を押してから出るまでに時間がかかるので、タイミングに遅れないように鍵盤奏者が先読みして弾いている、というすごいエピソードがありますね」
田中「いまや、PCがあれば打ち込みでできることですよね。当時の大滝さんは、人力の演奏でもPCで作業するような感覚で完璧に作り込んでいたのでは(笑)」

ロンバケらしからぬ? “我が心のピンボール”
――“我が心のピンボール”。『ロンバケ』では、ちょっと異色のロック・ナンバーですね。
田中「ここでのヨーデル唱法は、『ロンバケ』の曲じゃなかったら笑っちゃうかも(笑)。『ロンバケ』の世界があってこその、このヴォーカルというか」
村越「変わった曲だなあ(笑)。初めて聴いたときは、歌の豹変っぷりに驚きました」
――ファースト・アルバム『大瀧詠一』(72年)の“恋の汽車ポッポ”や“いかすぜ! この恋”に通じる、50年代のロックンロール調ですね。
塩谷「ナッシュヴィルのロックを志向しているのだと思います。〈あのプレイヤーとあのプレイヤーが一緒に演奏したら〉と想像して作っているのでは。歌などは、基本的にはエルヴィス・プレスリーを意識しているのではないでしょうか」
村越「『ロンバケ』の世界からちょっとズレているようにも思えますが、でももし『ロンバケ』に“我が心のピンボール”がなかったらさびしいですよね」
田中「先ほどのアルバム構成の話に付け足すと、『ロンバケ』らしい曲は両面の最初の3曲で、『ロンバケ』と聞いて思い浮かべるのはその6曲なんですよ」
村越「なるほど! たしかに、ジャケットのイメージどおりなのはその6曲ですね。もし6曲だけだったら、かなりすごいアルバムに……なるのでしょうか? いや、やっぱり物足りないんでしょうかね?」
――僕は、6曲だけだったらさびしいと思います。こういう遊び心こそが大滝さんらしさだと思うので。
松本「僕は、“我が心のピンボール”も『ロンバケ』らしい夏っぽい曲だと思いますよ。ビールのCMソングだったとしても不思議ではないですし」
メロウな“雨のウェンズデイ”とフォーク風の“スピーチ・バルーン”
――では、B面1曲目の“雨のウェンズデイ”を1LP盤で聴いてみましょう。靄がかかっていないような、透き通ったサウンドですね!
田中「綺麗な音ですね。『ロンバケ』、特に“雨のウェンズデイ”にはこの1LPの軽さが合いますね。メロウな“雨のウェンズデイ”は、『ロンバケ』で唯一シティ・ポップと呼べる曲かもしれない。
あとこの曲では、歌詞の〈ワーゲン〉の〈ー(長音)〉を歌わないで、〈ワゲン〉と歌っているじゃないですか。このアルバムでは、〈ー〉や〈っ〉を省略して歌っているところがすごくおもしろいと思います」
塩谷「大滝さんが、松本さんの歌詞を楽曲のメロディーの譜割りに当てはめるためにそうやっているのでしょうね」
――45回転盤でも聴いてみましょう。音圧と低音の出がぜんぜんちがいますね。エコーが深く広がっていくようで、音像に奥行きを感じます。
村越「音のふくよかさがぜんぜんちがいますね。ああ、細野晴臣さんのベースだなあ」
塩谷「45回転盤で聴くと、R&Bに聴こえますね」
――B面2曲目の“スピーチ・バルーン”は、ピーター・ポール&マリー“Puff, The Magic Dragon”(63年)をほうふつとさせるノスタルジックなメロディーが印象的です。
田中「春先に合う、カレッジ・フォークっぽい曲ですよね。
今回のリイシューでは、CDのディスク2がとてもおもしろいので、ぜひおすすめしたいです。ディスク2は『Road to A LONG VACATION』という『ロンバケ』に至るまでの過程を大滝さんがDJで解説する盤で、“スピーチ・バルーン”のデモ版を聴けるのですが、デモだとシンプルなフォーク・ソングなんですよ」
――もともとは声優グループ、スラップスティックへの提供曲“デッキ・チェア”(80年)なんですよね。
田中「そうそう。でもその曲が、この『ロンバケ』のオケをバックにして大滝さんが歌うとポップスになるんです。魔法のようですよね」

“恋するカレン”と“FUN×4”のハッピー・エンド
――B面3曲目の“恋するカレン”。ゴージャスなアレンジと狂おしいメロディーが感動的です。イントロのアコースティック・ギターの響きからしてさわやかですが、これも歌詞は失恋についての悲しい歌。こちらも、スラップスティックへの提供曲“海辺のジュリエット”(79年)が元になっています。45回転盤で聴いてみましょう。
村越「音が明るいですね。“雨のウェンズデイ”とはまた異なる色合いを感じます」
――次は“FUN×4”です。
村越「日本コロムビア時代、つまり福生時代のノヴェルティー路線、おもしろ路線を感じる曲ですね」
塩谷「ただ、松本さんの歌詞だからこその物語性があって、『ロンバケ』らしい曲になっていると思います」
田中「〈散歩しない〉と歌っているのが太田裕美さんなんですよね」
――ラストは拍手で締め。大団円ですね。
田中「『ロンバケ』というアルバムの本編はここで終わり、ということなんですよね。“FUN×4”までしか入っていないCDもあるんでしょ?」
塩谷「そうです。89年にリリースされたCDとカセットでは、最後の“さらばシベリア鉄道”がカットされています。“さらばシベリア鉄道”は、あくまでアンコールというか」
村越「そう考えると、“FUN×4”で終わるというのは、かなり明るい終わり方ですよね」
松本「失恋ソングが多いのですが、最終的には〈四人の子共〉を授かって終わりですからね(笑)」
村越「先ほど『ロンバケ』の世界には影があるんだという話をしましたが、“FUN×4”はちょっと異質かもしれませんね。なので、“さらばシベリア鉄道”は『ロンバケ』のオチとしては正しいのかも。最後はリゾートではなく、シベリアですから(笑)」
田中「〈涙さえも凍りついて〉終わり、というのはなんとも悲しいですね」
多羅尾伴内らしさあふれる“さらばシベリア鉄道”
――そしてB面5曲目、ラストの“さらばシベリア鉄道”です。
塩谷「子どもの頃にカセットテープで聴いていて、僕はこの曲がくるのを待っていたんです。それくらい大好きな曲ですね」
田中「『ロンバケ』は夏のアルバムですが、この曲だけ冬。〈12月の旅人〉ですから」
村越「ちょっと歌謡曲的なムードがあって以前は苦手だったのですが、最近ようやくよさがわかるようになってきました」
田中「でも、太田裕美さんが歌っているヴァージョンはポップスなんですよ」
塩谷「“さらばシベリア鉄道”は、多羅尾伴内※が大活躍している曲ですね」
松本「間奏のギターがかっこいいと思います」
田中「加山雄三さんっぽい雰囲気がありますね」
――ジョー・ミーク風のサウンドで、寺内タケシさんの音楽のような〈エレキ!〉という感じです。
塩谷「いわゆる〈北欧インスト※〉ってやつですね」
田中「『ロンバケ』って、当時流行っていた音楽をやっているわけではなくて、こうやって、あえて過去の音楽を当時のサウンドで作っているところがおもしろいですよね」
松本「そうですね。SNSではYMOの『BGM』と同じ日(81年3月21日)にリリースされたことが話題になっていて、2作を聴き比べてみてもおもしろいと思います」
村越「なるほど。すごいバランス感ですね、このアルバムは……。簡単に〈大好き!〉とも言えないし、〈名盤〉と言って済ませるのも気が引けますし。怖いアルバムですね~、これは」

それぞれの〈私とロンバケ〉
――『ロンバケ』の40周年盤を一通り聴き終えました。改めて、みなさんと大滝さんの音楽との出会いについて教えてもらえますか?
田中「『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』などの音楽番組が大好きで観ていたので、歌謡曲を通じて大滝さんの仕事、大滝さんの音楽が無意識下に刷り込まれていたと思います。なので、『ロンバケ』を初めて聴いたときは、初めて聴いた感じがしませんでした。それは、僕にとって大滝さんが、子どもの頃にCMで流れていた曲の作者だということも大きいです」
塩谷「CMソングについては僕も同じです。はっぴいえんどの大滝さんだと知らなくて、〈大滝詠一〉という新人が出てきたんだと思い込んでいました」
村越「〈出前一丁〉のCMは衝撃的でしたね。当時、(松田)聖子ちゃんの“風立ちぬ”は聴いていましたが、作曲者である大滝さんのことは認知していなかったですね。大滝さんはTVの音楽番組に出るわけでもなかったですし、田舎の少年の耳に『ロンバケ』は届いていなかった。
なので僕は、はっぴいえんどなども一通り聴いたあとに『ロンバケ』を聴いたんです。〈カルト・ヒーローが出したメジャーなアルバム〉という予備知識を持ったうえで聴いたので、そうではなく、リアルタイムで流行りの音楽として聴いた人がどう思ったのかを知りたいですね」
田中「そうですね。いろいろな音楽を聴いてから『ロンバケ』に辿り着いて〈すごい〉と思う人もいれば、当時普通にポップスとして聴いていた人もいたわけですから」
松本「僕はいま25歳なのですが、『ロンバケ』は子どもの頃から父親に聴かされていたんです。なので、今回アルバムの構成についての話がありましたが、この10曲が当然だと思っていたので、そこに疑問を持ったことはなかった。そこは意外な発見でしたね」
すべてのピースが見事に組み合わさった奇跡のアルバム
――『A LONG VACATION』という作品全体についてはいかがでしょう?
田中「『Road to A LONG VACATION』で解説されているように、『ロンバケ』はもともと楽曲の原型がたくさんあって、それを元に作曲したトラックを先に録って、そのあとに松本隆さんの歌詞が届いてヴォーカルを録る、という順序で制作されている。
でも、そうは思えないトータル感で、すごくナチュラルにオケと歌のメロディーと歌詞が溶け合っていますよね。すべてのピースがガチっと噛み合ってハマっていて、『ロンバケ』という奇跡を作り上げています」
塩谷「CMソングですでに発表していた楽曲の部分を使っていたり。いや~、そうは思えないですね」
田中「あとはやっぱり、松本隆さんの存在が大きいですよね。アルバムの半分を担っていると言っても過言ではない」
村越「歌詞によって物語が与えられていますからね。
僕は『NIAGARA CM SPECIAL』が大好きなんです。大滝さんがCMのために作っていた断片的な楽曲は、やっぱり〈フロム福生〉のナイアガラ・サウンドじゃないですか。でも『ロンバケ』と『EACH TIME』(84年)は、それらとはぜんぜん感触がちがう。ストーリーと背景を持ったポップスになっているのがすごいんですよね」
――永井博さんと共作したイラストブック「A LONG VACATION」(79年)が先にあって、ヴィジュアル先行でイメージを決めていったことも、アルバムのトータリティーの高さの理由でしょうね。
田中「僕、キューバに行ったときに、このジャケットどおりの光景を見たんですよ。ぜんぜん人がいなくて、でもプールがあって、その先にカリブ海が見える――〈この景色、現実にあるんだ!〉って驚きました(笑)」

誰にも真似できない圧倒的な音楽世界
――『ロンバケ』の音楽性についてはどうでしょうか?
田中「語弊があるかもしれませんが、作り込まれた虚構の箱庭音楽という感じがしますよね。リゾートの世界なんだけどノスタルジックで、10ccとゴドレイ&クレームが作っていたような〈未来の懐かしい音楽〉というか。でも、ゴドレイ&クレームが活躍するのは81年以降なので、『ロンバケ』のほうが早いんです」
――すべての要素が徹底的に整理されていて、コントロールされていますよね。
田中「あと、ヴォーカルとオケとのバランスが海外のロックやポップスと同じで、ヴォーカルも楽器の一部だという感じがします。そこがすごくモダン。それ以前のニュー・ミュージックは、ヴォーカルが前に出ていてバックが貧弱、ということが多かったので」
村越「『ロンバケ』はコントロールされているからこそ、〈この人のこの演奏がいい〉という話題にはあまりなりませんね。たとえば、はっぴいえんどを聴いたら〈鈴木茂さんのこのギター・プレイがいい!〉と感じるわけです。『ロンバケ』は、よく聴くと〈ここは細野さんのベースだ〉などと気づくのですが、それが前面に出てはいない。福生時代の作品は〈林立夫さんがドラムを叩いていて、細野さんがベースを弾いていて、佐藤博さんがピアノを弾いていて、それがたまんない!〉という楽しみ方ができるんですけど」
――徹底的に大滝さんの音楽世界で、プレイヤーの記名性はほとんどないですよね。
松本「そうですね。『ロンバケ』の音楽世界は圧倒的すぎて、これを聴いて〈楽器を始めよう〉と思う人は少ないかも(笑)」
――たしかに。完璧すぎるので、〈自分もこの音楽をやれそう〉とは思えないですよね……。
塩谷「錚々たるミュージシャンたちが参加しているんですけどね」
田中「ミュージシャンが集まって、わいわいセッションしてヘッド・アレンジで作ったものではなくて、大滝さんの頭の中にある音楽をひたすら組み立てているんですよね。なので『ロンバケ』を聴いていると、大滝さんの頭のなかを覗き込んでいるような感覚をおぼえます。
それって、いまの音楽制作の主流じゃないですか。そういう音楽を作りやすい環境が整ったタイミングで、大滝さんは亡くなってしまった。だから、もし生きていたら、どんな音楽を作っていたんだろうなと思います。ものすごく作り込んだ音楽を作っていたかも」
ナイアガラにひとつとして同じものはない
――今回の40周年盤の音はどうでしたか?
松本「僕はずっとCD選書盤(91年)を聴いていたのですが、今回のリマスター盤をTOWER VINYLの音響システムで聴いて、〈ここでこんな音が鳴っていたんだ!〉と気づくことが多かったです。すべてが発見に満ちていましたね」
田中「VOXに収められている45回転盤と1LPの33回転盤では、同じアナログでもぜんぜん音がちがいましたね。1LPのクリアな軽さも、『A LONG VACATION』という作品に合っている音だと思いました」
村越「2つとも音の方向性が異なっていますよね」
松本「カッティングがちがうので、別物と言っていいでしょうね」
――それは僕も聴き比べていて思いました。VOXしか買っていないので、〈1LPの音も良いから買わないと!〉と思ったんです(笑)。
村越「ナイアガラにはひとつとして同じものはない、と言いますからね。
あと、ここまでに何度か話題に出ましたが、CDの2枚目がいいんですよね。これは、『A LONG VACATION 30th Edition』(2011年)がリリースされたときにイベントで初お披露目されたものなんです」
松本「クリス松村さんもラジオで大絶賛していましたね!」
田中「ナイアガラ時代のアルバムがサブスク解禁されたことでストリーミング・チャートの1位になっていましたし、まだまだ大滝さんと『ロンバケ』の話題は続きそうですね」
松本「ところで田中さん、めちゃくちゃいいシャツ着てるじゃないですか!」

田中「この取材のために手に入れました。『ロンバケ』とBEAMSがコラボしたシャツです。山下達郎さんのレコードの試聴会をやったときに松本さんが着ていたTシャツがよかったので、それに対抗しようと思って(笑)」
RELEASE INFORMATION
大滝詠一『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』
リリース日:2021年3月21日
■完全生産限定盤VOX
仕様:4CD+Blu-ray Disc+アナログ・レコード(2枚組)+カセットテープ+豪華ブックレット+復刻イラスト・ブック+ナイアガラ福袋
品番:SRCL-12000~12008
価格:25,300円(税込)

Disc 1『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(新たなマスター・テープからリマスターされた2021年版最新音源を使用)
TRACKLIST
1. 君は天然色
2. Velvet Motel
3. カナリア諸島にて
4. Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
5. 我が心のピンボール
6. 雨のウェンズデイ
7. スピーチ・バルーン
8. 恋するカレン
9. FUN×4
10. さらばシベリア鉄道
Disc 2『Road to A LONG VACATION』(大滝詠一お得意のDJスタイルによる貴重音源満載の『A LONG VACATION』誕生秘話)
1. オープニング・トーク
2.「Let’s Ondo Again/アミーゴ布谷」from『Let’s Ondo Again』
3.「オシャレさん/大滝詠一」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.1 2nd Issue』
4.「12月の雨の日 (未発表ヴァージョン)/はっぴいえんど」
5.「愛は行方不明 (Demo Version)/大滝詠一」
6.「愛は行方不明/ニュー・ホリデー・ガールズ」(CBS Sony 未発表音源)
7.「ハウス・プリン/大場久美子」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.1 2nd Issue』
8.「冷たく愛して/スクール・メイツ」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.2』
9.「サイダー79/大滝詠一」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.1 3rd Issue』
10.「ロンリー・ティーン・エイジ・アイドル (Demo Ver.)/大滝詠一 」
11.「Summer Breeze(Demo Version)/大滝詠一」
12.「海辺のジュリエット(Demo Version)/大滝詠一」
13.「海辺のジュリエット/スラップスティック」from『スラップスティックに気をつけろ』
14.「星空のプレリュード(Demo Version)/大滝詠一」
15.「星空のプレリュード/スラップスティック」from『Wait! Slapstick』
16.「ロンリー・ティーン・エイジ・アイドル/西田敏行」from『風に抱かれて』
17.「大きいのが好き/EPO & シャネルズ」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.2』
18.「がんばれば愛(Demo Version)/大滝詠一」
19.「がんばれば愛/クレージー・パーティー」
20.「あなただけI LOVE YOU/須藤薫」from『Chef’s Special』
21.「デッキ・チェア(Demo Version)/大滝詠一」
22.「デッキ・チェア/スラップスティック」from『トロピカル』
23.「須藤薫用第2弾(Demo Version)/大滝詠一」
24.「君は天然色(Track)」from『A LONG VACATION 30th Edition』
25.「カナリア諸島にて(Melody Memo)/大滝詠一」
26.「Big John Type A ~ B/大滝詠一」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.1 2nd Issue』
27.「Hankyu Summer Gift/大滝詠一」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.2』
28.「出前一丁/大滝詠一」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.1 2nd Issue』
29.「大関/大滝詠一」from『NIAGARA CM SPECIAL Vol.1 2nd Issue』
30.「さらばシベリア鉄道/太田裕美」
31.「カナリア諸島にて(Orchestral Track Version)」
Disc 3『A LONG VACATION SESSIONS』(初公開となるアルバム・レコーディング時の貴重な未発表音源を収録)
1. 君は天然色(Original Basic Track)〈Rec: 1980/04/18〉
2. Velvet Motel(Basic Track with Orchestral)〈Rec: 1980/04/21〉
3. カナリア諸島にて(Take 1)〈Rec: 1980/04/24〉
4. 悲しきWhite Harbour Cafe〈Rec: 1980/04/25〉*
5. Coney Island〈Rec: 1980/05/21〉*
6. FUN×4(Alternate TP Solo Version)〈Rec: 1980/05/23〉
7. The Apple Of My Eye(Fast Type)〈Rec: 1980/05/26〉*
8. The Apple Of My Eye(Slow Type Take 2)〈Rec: 1980/05/26〉*
9. The Apple Of My Eye(Medium Tempo Take 2)〈Rec: 1980/05/26〉*
10. 恋するカレン(Take 1)〈Rec: 1980/05/30〉
11. Hankyu Summer Gift(Sessions Version)〈Rec: 1980/05/30〉
12. スピーチ・バルーン(Rough Mix)〈Rec: 1980/06/03〉
13. 雨のウェンズデイ(Early Version)〈Rec: 1980/06/05〉*
14. Pap-pi-doo-bi-doo-ba 物語(Take 1)〈Rec: 1980/08/04〉
15. 我が心のピンボール(Take 1)〈Rec: 1980/08/05〉
16. 雨のウェンズデイ(Take 1)〈Rec: 1980/08/11〉
17. NIAGARA CM SPECIAL(Take 1~14)〈Rec: 1980/08/11〉
18. さらばシベリア鉄道(Rough Mix)〈Rec: 1980/08/14〉
19. Dancing Every Night〈Rec: 1980/08/18〉*
20. Demae Iccho(Sessions Version)〈Rec: 1980/08/27〉
Disc 4『A LONG VACATION RARITIES』(名盤『ロンバケ』周辺の蔵出し音源をコンパイルした作品集)
1. HOME GROWN PARTY Vol.3 Side-A [DJ:小林克也]
2. あなただけ I Love You(Track)
3. Stop Give Me Time To Fall In Love[Carol Conners Demo]
4. Lovers Not Stranger [Carol Conners Demo]
5. Believe Him And Both Of You Are Nothing But Fools[Carol Conners Demo]
6. You Made Me Afraid To Try Again[Carol Conners Demo]
7. Please Do It To Me Again[Carol Conners Demo]
8. In Got To Take Back My Heart[Carol Conners Demo]
9. いちご畑でFUN×4(1981 Original Edit Version)[松田聖子と大滝詠一]
10. さらばシベリア鉄道(A LONG VACATION CONCERT Version)[Duet with 太田裕美]
11. 恋のハーフムーン(Track)
12. ブルー・ベイビー・ブルー(Track)
13. A LONG VACATION Spot Special[ナレーション:小林克也、伊武雅刀、松坂慶子、城達也]
Blu-ray Disc(オーディオ)
『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(5.1chサラウンド音源)
TRACKLIST
1. 君は天然色
2. Velvet Motel
3. カナリア諸島にて
4. Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
5. 我が心のピンボール
6. 雨のウェンズデイ
7. スピーチ・バルーン
8. 恋するカレン
9. FUN×4
10. さらばシベリア鉄道
『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(ハイレゾ・リマスタリング音源)
TRACKLIST
1. 君は天然色
2. Velvet Motel
3. カナリア諸島にて
4. Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
5. 我が心のピンボール
6. 雨のウェンズデイ
7. スピーチ・バルーン
8. 恋するカレン
9. FUN×4
10. さらばシベリア鉄道
『Sing A LONG VACATION + Fiord 7』(ハイレゾ・リマスタリング音源)
TRACKLIST
1. 君は天然色
2. Velvet Motel
3. カナリア諸島にて
4. Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語
5. 我が心のピンボール
6. 雨のウェンズデイ
7. スピーチ・バルーン
8. 恋するカレン
9. FUN×4
10. 哀愁のさらばシベリア鉄道 Organ Ver.
11. 哀愁のさらばシベリア鉄道 Guitar Ver.
12. 恋するカレン(モノラル)*
13. 哀愁のさらばシベリア鉄道 Organ Ver.(モノラル)*
14. 哀愁のさらばシベリア鉄道 Guitar Ver.(モノラル)*
『A LONG VACATION TRACKS and More』(ハイレゾ・リマスタリング音源)
TRACKLIST
1. 君は天然色[LP Ver.](TRACK)*
2. Velvet Motel(TRACK)
3. カナリア諸島にて[with Chorus](TRACK)*
4. Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語(TRACK)
5. 我が心のピンボール(TRACK)
6. 雨のウェンズデイ(TRACK)
7. スピーチ・バルーン(TRACK)
8. 恋するカレン(TRACK)
9. FUN×4(TRACK)
10. さらばシベリア鉄道(TRACK)
11. 君は天然色 [Single Ver.](TRACK)
12. カナリア諸島にて(TRACK)
13. FUN×4 [without Chorus](TRACK)*
*はこれまでに正規リリースされていないプロダクツを含む未発表音源
アナログ・レコード
『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』(国内最高峰のSony Music Studios Tokyoによる2021年版最新カッティング。重量盤12インチ、VOXのみ2枚組高音質仕様)
カセットテープ
『A LONG VACATION Anniversary 40th Edition』(2021年版最新リマスター音源を使用)
豪華ブックレット
大滝詠一ロング・インタビュー原稿、柿崎景二氏による“君は天然色”マスタリング・レベル考察論文、『ロンバケ』関連グッズ、直筆の譜面、歌詞などの貴重な写真で構成された60Pを超えるブックレット
復刻版「A LONG VACATION イラストブック」(アルバム誕生の大きなきっかけとなった、1979年にCBS・ソニー出版より発行された大瀧詠一著、永井博イラストによる「A LONG VACATION artback」を完全復刻)
ナイアガラ福袋(アルバム発売告知ポスター(A2サイズ・ヴァージョン)、アルバム『A LONG VACATION』ジャケット・デザイン+シングル盤“君は天然色”のイラスト+シングル盤“さらばシベリア鉄道”のイラストを使用した絵葉書セット(3枚組)、アルバム発売記念ステッカー(絵葉書サイズ)、業界向けカラー版プレス・シート(三つ折り)という、1981年の『ロンバケ』発売時にプロモーション用として制作された貴重なアイテムの数々を忠実に復刻して封入)
同梱特典:アルバム・ジャケット・デザインの大型缶バッチ(53mm × 53mm)
予約・購入特典:特製レコード・コースター
■通常盤CD
仕様:CD2枚組
品番:SRCL-12010~12011
価格:2,750円(税込)
Disc 1『A LONG VACATION Anniversary 40th Edition』(新たなマスター・テープからリマスターされた2021年版最新音源を使用)
TRACKLIST
1. 君は天然色
2. Velvet Motel
3. カナリア諸島にて
4. Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
5. 我が心のピンボール
6. 雨のウェンズデイ
7. スピーチ・バルーン
8. 恋するカレン
9. FUN×4
10. さらばシベリア鉄道
Disc-2 『Road to A LONG VACATION』(大滝詠一お得意のDJスタイルによる貴重音源満載の『A LONG VACATION』誕生秘話)
予約・購入特典:特製ポストカード
■完全生産限定盤アナログ盤
仕様:アナログ・レコード(1枚組)
品番:SRJL-1234
価格:3,850円(税込)
重量盤12インチ33回転『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』 (メトロポリス・マスタリングのティム・ヤングによる2021年版最新カッティング)
TRACKLIST
Side-A
1. 君は天然色
2. Velvet Motel
3. カナリア諸島にて
4. Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
5. 我が心のピンボール
Side-B
1. 雨のウェンズデイ
2. スピーチ・バルーン
3. 恋するカレン
4. FUN×4
5. さらばシベリア鉄道
予約・購入特典:特製ポストカード
INFORMATION
〈CITY POP Voyage〉キャンペーン

開催日程:2021年3月18日~5月5日(水・祝)
開催場所:タワーレコードおよびTOWERmini、タワーレコード オンライン ※一部店舗・カフェを除く
■対象商品の購入者にオリジナル・ポストカードを先着でプレゼント
タワーレコードで対象商品をご購入の方に、先着でオリジナル・ポストカードを差し上げます。
■永井博のイラストによる〈特製B2ポスター〉を20名様に抽選でプレゼント
キャンペーンのオフィシャルサイトにて抽選にご応募いただいた方のなかから抽選で20名様に〈特製B2ポスター〉を差し上げます。
応募締切:2021年5月5日(水)
■〈HIROSHI NAGAI × TOWER RECORDS〉コラボ・グッズの販売
発売日:2021年3月18日
取扱店舗:渋谷店/新宿店/札幌ピヴォ店/仙台パルコ店/難波店/梅田NU茶屋町店/福岡パルコ店/タワーレコード オンライン
ラインナップ(画像は次頁、左上から右下へ)
・HIROSHI NAGAI × TOWER RECORDS 2021 T シャツ(M/L/XL)4,950 円
・HIROSHI NAGAI × TOWER RECORDS 缶マグネット 440 円
・HIROSHI NAGAI × TOWER RECORDS ハンドタオル 880 円
・HIROSHI NAGAI × TOWER RECORDS クッション 2,750 円
・HIROSHI NAGAI × TOWER RECORDS キャップ 3,850 円
TOWER VINYL SHINJUKU
東京都新宿区新宿3-37-1 フラッグス10F
営業時間:11:00~21:00 ※時短営業中
定休日:不定休(フラッグスの休業日に準じる)
電話番号:03-5360-7811


