坂井彩花が見た本質的な〈女性らしさ〉
少女であると同時にレディーでもある〈全女性の灯台〉
可憐な少女でありながら、色気の香るレディーであり、またピースフルなマインドで全てを包みこむ存在でもある。『Terminal』を先に進めるごとに出会うYUKIは、どれも違う表情なのに恐ろしく自然体だ。言葉の意味を問われる場面が増えた〈女性らしさ〉を、以前から本質的に表現していた存在こそYUKIなのだと再認識せざるをえない。
JUDY AND MARYのヴォーカルとして音楽シーンに現れたときから、彼女は女の子の憧れだった。岡崎京子のマンガから抜け出てきたようなキッチュなヴィジュアルに、天真爛漫なキャラクター。仲のいい友達にいたら最高に楽しそうだが、恋敵には絶対にしたくない、魅力あふれる女の子。少女のような無邪気さもハッとさせられるエロティシズムも、世の中を生き抜いていく強さも、彼女の中にはあった。
同時にシンガーとしても、前衛的な存在だったことは間違いない。当時はバンドのヴォーカルといえば、NOKKO(レベッカ)や岸谷香(プリンセス プリンセス)など、男性に負けない勝気なパワフルさが主流だったが、YUKIはもっと柔らかくロックを鳴らした。女の子特有のワガママも愛も弱さも全部ひっくるめて〈これが私だ〉と刻んでいたのである。
その自然体な姿勢は、30歳直前を迎えて開始したソロ活動においてもぶれなかった。いや、より磨かれたと言ってもいい。何も知らない無垢な少女像を彼女に抱いていたリスナーに対してデビュー曲“the end of shite”でワンパンチを食らわせると、女性然としたYUKIの道を切り拓いていったのだ。
時には誰かを演じ、時には自分を詰めこみ、自身の輪郭をより明確にしていくYUKI。『うれしくって抱きあうよ』(2010年)でいまの自分を赤裸々に語り、『megaphonic』(2011年)では震災後の日本に光を射す。持ち前の変身願望を器用に操りながら、歌い手として語り部として伝え手として、女性だからこそできる表現を彼女は突き詰め続けてきた。
それは、今作の『Terminal』でも同様だ。〈良い子でいられない〉と高らかに自分を叫ぶ“good girl”、〈決まり事もろくに守れないこの私が 死ぬまでそばにいる約束をしてしまった〉と愛する人を想う“泣かない女はいない”、〈あなたはあなた そのままで誇らしく胸を張れ〉と相手の存在をまるっと引き受けて背中を押す“灯”。作品のなかでYUKIは、少女となりレディーとなり、またときに母性を発揮し、眩いばかりの輝きを放っていく。来年でソロ・デビュー20周年を迎えるとあっても、その光は決して朽ちることはない。好きな服を着て、お気に入りのメイクをして、自分に嘘のない表現をする。だからこそ彼女は魅力的であり、いつの時代もリスナーに支持されてきたのではないだろうか。
女性が年を重ねることにネガティブなイメージが付きまとうことは、悲しきかな未だ少なくない。しかしながら、YUKIのようにいつまで経っても瑞々しい存在がいると〈年齢を重ねるのも悪くない〉と、心の端っこに希望が宿るのも、また事実。同世代のみならず全女性の灯台として、引き続き煌めき続けてほしい。
RELEASE INFORMATION

リリース日:2021年4月28日
■初回生産限定盤(CD+DVD/紙ジャケット仕様)
品番:ESCL-5528~9
価格:4,180円(税込)
■通常盤(CD)
品番:ESCL-5530
価格:3,300円(税込)
配信リンク:https://erj.lnk.to/z98Sky
TRACKLIST
CD
1. My lovely ghost
2. Baby, it’s you
3. good girl
4. NEW!!!
5. ご・く・ら・く terminal
6. ラスボス
7. ベイビーベイビー
8. 雪が消してく
9. 泣かない女はいない
10. Sunday Service
11. チューインガム
12. 灯
13. はらはらと
DVD(初回生産限定盤付属)
“Baby, it’s you” ミュージック・ビデオ