YUKIが2021年4月28日に、10作目のニュー・アルバム『Terminal』をリリースした。

もはや日本を代表するポップ・アイコンとしての立ち位置を揺るぎないものにしているYUKIだが、しかし彼女に〈大御所〉という重々しい言葉はまったく似つかわしくない。というのも彼女には、新しい要素を積極的に取り入れてまだ見ぬ自分へ変貌していこうとする、軽やかな姿勢と子どものように旺盛な探求心がひしひしと感じられるからだ。

今回Mikikiでは、新作『Terminal』のサウンド、歌詞および、そこに表れた女性としてのあり方という3つの角度から、YUKIの最新の姿に迫るコラムを企画。常にくるくると変わりゆくYUKIの、〈いま〉という一瞬をたしかに捉えた記事になっていると思う。 *Mikiki編集部

 

柴那典が聴きとった〈サウンド〉
コーライティングの手法により遂げた大きな変貌

かなり挑戦的なアルバムだ。ソロ10作目のアルバム『Terminal』は、いままでのイメージにとらわれず〈YUKIらしさ〉を果敢にアップデートする一枚。〈2度目のファーストアルバム〉と銘打った2019年の前作『forme』は細野晴臣や尾崎世界観や吉澤嘉代子など様々なアーティストが作曲を手掛けることでアーティストとしての新たな扉を開いた作品だったが、そこからも大きな変貌を遂げている。2020年にはChara+YUKI名義でミニ・アルバム『echo』もリリースされた。その制作もきっとYUKIにとって大きな刺激になったはずだが、単にそこからの延長線上にあるアルバムというわけでもない。全13曲、様々なサウンドや手法を取り入れることで、一曲一曲に驚きがあるヴァラエティーに富んだ一枚になっている。曲調やジャンル性に統一感はないのだが、YUKIの歌声自体がくっきりとしたシグネチャーとして軸になっている。

アルバムのサウンドの方向性は、ざっくりとわけると大きく二つ。前半は打ち込みが中心、後半はバンド・サウンドが中心だ。それに加えて、制作手法の違いも特筆すべきポイントになっている。

特に興味深いのは、シングルとしてリリースされた“Baby, it’s you”や“My lovely ghost”、ホーン・セクションのフレーズが印象的なR&Bテイストの“good girl”、ダークなEDMサウンドの“ご・く・ら・く terminal”など、前半5曲の並びだ。作曲のクレジットを見ると、どの曲にも複数のクリエイターの名前が並び、コーライティングの手法で作られていることがわかる。

『Terminal』収録曲“My lovely ghost”
 

コーライティングとは、トップライナー(メロディーメイカー)やトラックメイカーなど複数のクリエイターが役割分担して協力しながら楽曲制作を進める手法のこと。アメリカやヨーロッパのポップ・ミュージック・シーンではかなり前から浸透しており、K-Popのヒット曲の多くもこのやり方で作られている。そして日本の音楽シーンにおいていち早くコーライティングの可能性を追求してきたRyo Itoや今井了介のチームが今作の前半5曲の制作に携わっている。

そういう意味では、作家としての記名性の強いアーティストが楽曲提供した『forme』とは、いわば真逆の発想とも言えるわけである。

『Terminal』収録曲“Baby, it’s you”
 

一方、同じ打ち込みのサウンドでも、永野雄一郎が作曲・編曲を手掛けた“ラスボス”やLASTorderによる“はらはらと”は、一人のトラックメイカーがサウンド・プロデュースを手掛けるスタイル。さらに後半のバンド・サウンドの楽曲では、白根賢一が作曲・編曲を手掛けた“Sunday Service”、YUKIが作曲し奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)が編曲を手掛けた“灯”など、様々なクリエイターがアレンジに携わっている。またそれに加え、ジャズ・テイストの“泣かない女はいない”では石若駿がドラムスを担当。その絶妙なタイム感も聴きどころになっている。

『Terminal』収録曲“泣かない女はいない”
 

〈Terminal〉というタイトルが象徴する今作のモードは〈ここからどんな場所にも飛び立てる〉ということなのだろう。そんな主張がサウンドから伝わってくる。

 

天野史彬が全身で感じた〈歌詞〉
幻なんかじゃない、たしかな肉体から紡がれた言葉

2020年、“恋は永遠 feat.YUKI”で銀杏BOYZの楽曲に15年ぶりに客演したYUKI。峯田和伸はYUKIの存在を「幻想の象徴」「ミューズ」と話すが、YUKI自身は、当時自らに対するそうした見方に全面的に首肯しているわけではなさそうだった。というのも彼女は、15年前の客演曲である“駆け抜けて性春”の〈わたしはまぼろしなの〉という自身の歌唱部分の歌詞に関して、2018年のインタビューで「どうしても腑に落ちない」と語り、その違和感が、〈私は幻なんかじゃない〉と歌う“穴”を生んだと語っている。

銀杏BOYZの2005年作『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』収録曲“駆け抜けて性春”
 

それでも15年という歳月を経て、再び銀杏BOYZとYUKIが声を重ねることができたのは、“駆け抜けて性春”と“恋は永遠”の間に一種の逆転現象が起こったからではないか。〈触れれば消えてしまうの それでもわたしを抱きしめてほしいの〉と歌った“駆け抜けて性春”に対し、“恋は永遠”でYUKIは〈空も 海も 君の背中も 抱きしめられたらいいな〉と歌う。

銀杏BOYZの2020年作『ねえみんな大好きだよ』収録曲“恋は永遠 feat.YUKI”
 

実態を持たず無力だった〈幻影の象徴〉は、15年の時を経て、いつしか自身の欲望を高らかに歌う逞しい存在へと変化している。どちらも作詞は峯田和伸なのでこれは彼の〈幻想〉に対する意識の変化だが、同時に、YUKIという音楽家の濃密な15年の足跡が、他の誰かが彼女を都合のいい妄想に仕立て上げることを自ずと拒んだのではないかとも思えてくる。〈永遠〉を願い夢想を貪る少年を尻目に、〈女はマボロシ〉なんていう着せられた衣は脱ぎ捨て、そのたしかな肉体で、汗ばんだ手で、世界に、刹那に、たしかに触れ続けていたのである。

そう、YUKIは幻ではない。確固とした肉体と欲望を抱えるひとりの人間として、彼女は今この瞬間に〈在る〉。そんなYUKIの強烈な実存は、彼女の10作目となるフル・アルバム『Terminal』にも強く刻まれている。本稿は〈歌詞表現を軸として『Terminal』を考察してほしい〉という依頼をもとに書いているのだが、このアルバムは歌詞カードをじっくりと眺めていれば何かが浮かび上がってくるようなアルバムではない。言葉〈だけ〉を取り出そうとすればするほどに、言葉は強力な粘着テープのようにその音楽のリズムにこびりつき、剥がれることはない。分解してわかった気になる、そんな反自然的な行為の無粋さを改めて痛感させられるほどに、本作『Terminal』の言葉は極めて自然に音楽と結びついている。

2020年、Chara+YUKI名義でリリースしたミニ・アルバム『echo』の制作では即興的に生まれてきた言葉も歌詞に採用されたというが、そこでの経験が本作には存分に生かされているのだろう。例えばシングルとして先行リリースされた“My lovely ghost”や“Baby, it’s you”で見られる断片的な言葉を重ねていく歌詞の綴り方は、実質的なタイトル・トラックである“ご・く・ら・くterminal”などにも見られ、このアルバムのひとつの基調になっている。“ご・く・ら・くterminal”の〈どこからサビでも悪くはない〉というフレーズはそのまま、本作のフォルムを言い得ている。

『Terminal』収録曲“ご・く・ら・くterminal”
 

自身や聴き手の精神をアップリフトする屈強なポジティヴィティーや、時代への皮肉、ファニーなユーモア、パーソナルな追憶、あるいは韻や語感の気持ちよさだけで綴られたであろう単語……そうした言葉たちが突発的に現れては消え、現れては消えていく。まるで、YUKIの心身のバイオリズムを投射するように。一見ゆるやかに音に乗るその姿には、しかし、脆弱なセンチメンタリズムが入り込む余地はない。断片的かつ流動的であるがゆえのリアルがある。音楽の中で、結論はいつの間にか問いに変わり、過去はいつの間にか未来へのヴィジョンに変わる。それはまるでYUKIという人間の秘密が、そこにある生きることの喜びと哀しみが、言葉となり、跳躍し、浸透し合いながら、リズムや旋律に多様な色を塗っているようである。

アルバムは後半へ行くに従い叙情的な流れを持つ曲が増えていくが、中でも造形的に優れているのは8曲目“雪が消してく”で、過去と現在が循環しながら〈雪が消してく〉という言葉の反復に帰結していく姿はとても美しい。アルバム・タイトルである〈Terminal〉とは本来〈終点〉を意味する言葉だが、あらゆる感情や記憶が生まれては消え、また生まれていくYUKIの、ひいては人間の存在そのものを表した言葉のようにも思える。生きている。続いていく。それは幻なんかじゃない。

『Terminal』収録曲“雪が消してく”

 

坂井彩花が見た本質的な〈女性らしさ〉
少女であると同時にレディーでもある〈全女性の灯台〉

可憐な少女でありながら、色気の香るレディーであり、またピースフルなマインドで全てを包みこむ存在でもある。『Terminal』を先に進めるごとに出会うYUKIは、どれも違う表情なのに恐ろしく自然体だ。言葉の意味を問われる場面が増えた〈女性らしさ〉を、以前から本質的に表現していた存在こそYUKIなのだと再認識せざるをえない。

JUDY AND MARYのヴォーカルとして音楽シーンに現れたときから、彼女は女の子の憧れだった。岡崎京子のマンガから抜け出てきたようなキッチュなヴィジュアルに、天真爛漫なキャラクター。仲のいい友達にいたら最高に楽しそうだが、恋敵には絶対にしたくない、魅力あふれる女の子。少女のような無邪気さもハッとさせられるエロティシズムも、世の中を生き抜いていく強さも、彼女の中にはあった。

同時にシンガーとしても、前衛的な存在だったことは間違いない。当時はバンドのヴォーカルといえば、NOKKO(レベッカ)や岸谷香(プリンセス プリンセス)など、男性に負けない勝気なパワフルさが主流だったが、YUKIはもっと柔らかくロックを鳴らした。女の子特有のワガママも愛も弱さも全部ひっくるめて〈これが私だ〉と刻んでいたのである。

その自然体な姿勢は、30歳直前を迎えて開始したソロ活動においてもぶれなかった。いや、より磨かれたと言ってもいい。何も知らない無垢な少女像を彼女に抱いていたリスナーに対してデビュー曲“the end of shite”でワンパンチを食らわせると、女性然としたYUKIの道を切り拓いていったのだ。

2002年作『PRISMIC』収録曲“the end of shite”
 

時には誰かを演じ、時には自分を詰めこみ、自身の輪郭をより明確にしていくYUKI。『うれしくって抱きあうよ』(2010年)でいまの自分を赤裸々に語り、『megaphonic』(2011年)では震災後の日本に光を射す。持ち前の変身願望を器用に操りながら、歌い手として語り部として伝え手として、女性だからこそできる表現を彼女は突き詰め続けてきた。

2010年作『うれしくって抱きあうよ』表題曲
 

それは、今作の『Terminal』でも同様だ。〈良い子でいられない〉と高らかに自分を叫ぶ“good girl”、〈決まり事もろくに守れないこの私が 死ぬまでそばにいる約束をしてしまった〉と愛する人を想う“泣かない女はいない”、〈あなたはあなた そのままで誇らしく胸を張れ〉と相手の存在をまるっと引き受けて背中を押す“灯”。作品のなかでYUKIは、少女となりレディーとなり、またときに母性を発揮し、眩いばかりの輝きを放っていく。来年でソロ・デビュー20周年を迎えるとあっても、その光は決して朽ちることはない。好きな服を着て、お気に入りのメイクをして、自分に嘘のない表現をする。だからこそ彼女は魅力的であり、いつの時代もリスナーに支持されてきたのではないだろうか。

『Terminal』収録曲“灯”
 

女性が年を重ねることにネガティブなイメージが付きまとうことは、悲しきかな未だ少なくない。しかしながら、YUKIのようにいつまで経っても瑞々しい存在がいると〈年齢を重ねるのも悪くない〉と、心の端っこに希望が宿るのも、また事実。同世代のみならず全女性の灯台として、引き続き煌めき続けてほしい。

 


RELEASE INFORMATION

リリース日:2021年4月28日

■初回生産限定盤(CD+DVD/紙ジャケット仕様)
品番:ESCL-5528~9
価格:4,180円(税込)

■通常盤(CD)
品番:ESCL-5530
価格:3,300円(税込)
配信リンク:https://erj.lnk.to/z98Sky

TRACKLIST
CD
1. My lovely ghost
2. Baby, it’s you
3. good girl
4. NEW!!!
5. ご・く・ら・く terminal
6. ラスボス
7. ベイビーベイビー
8. 雪が消してく
9. 泣かない女はいない
10. Sunday Service
11. チューインガム
12. 灯
13. はらはらと

DVD(初回生産限定盤付属)
“Baby, it’s you” ミュージック・ビデオ