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全部取っ払って、ただの〈ミュージシャン〉

――BREIMENが『TITY』というアルバムを出したことも大きいよね。祥太くんが何を表現したいかだけじゃなく、祥太くんがベーシストでありシンガー・ソングライターでもあることも伝わったと思うんです。

「俺はベーシストでもあるけど、いまは全部取っ払って、ただの〈ミュージシャン〉だなって思ってます。肩書きを分けると細かくなるけど、結局、全部俺かなって。たとえば、ドラマーに転身しても、たぶん同じことができる。もちろん、技術的には無理ですけど……」

――マインドとしてね。

「俺はたまたまベースっていうプリンターを手にして、それを使って自分の音楽をアウトプットしてるだけ。そのプリンターは現状、ベースとソングライティングに関しては、自分の頭のなかで思い描いているものを高い精度で精確に出すことができるんです。

もし俺がいきなり井口(理)くん(King Gnu)になったら、もっといろんなことができると思うんですよ。それは、彼の歌の技術力が圧倒的に高いから。でも、俺は井口理じゃない。制約があるからおもしろいなと思って。BREIMENは、すごく高い演奏力を持ってて、なんでもできる人たちだと言われてて、実際やろうと思えばなんでもできる。けど俺の声は、なんでもはできないんです。逆に言えば、BREIMENのジャンル感がどんなに広がっても、俺の声のレンジがいい意味で狭いから、何をやってもBREIMENになれるのかもなと」

 

最期まで音を止めないで

――そうやってBREIMENが認知され評価されてく過程で、「ONE PIECE」の尾田栄一郎先生にレコメンドされて「週刊少年ジャンプ」に載るという、それこそ漫画みたいな話もありましたね。

「びっくりしましたね。BREIMENは完全にインディペンデントで、チームの仲間たちだけでやってるんです。だから、政治とかなしに、ただ〈好き〉っていうことで繋がったのが、すごくうれしい」

――それが、いまのBREIMENの立ち位置にも繋がってますよね。(赤い公園の津野)米咲がBREIMENのことを好きなのもよくわかります。

「うれしかったですね。米咲ちゃんって、もちろん会ったことはあるけど、2人で飲んだこともないし、知り合いぐらいの距離感だったんですよ。でも、本当に〈いい〉って思ってくれて、『関ジャム』で紹介してくれたんだと思う。

彼女が亡くなって、もちろん悲しかったんですけど、〈もっと仲良くなりたかったな〉という気持ちしかないんですね。去年は、そういうことを考える時間がありましたね。自分の人生って自分で選べるものだから、その選択に否定も肯定もないって俺は思ってます。

“Play time isn’t over”に〈最期まで音を止めないで〉という歌詞があるんですね。赤い公園の全部を知ってるわけじゃないので勝手な主観ですけど、米咲ちゃんにもし次にやりたいことがあったら、もしかしたら死ななかったのかもしれない。〈やりきってしまったのかな〉と思ったんです。亡くなった後にリリースがありましたよね(2020年作『オレンジ/pray』)。だから、最期のギリギリの状態まで、ずっと音を作りつづけてんだろうなって。その姿勢が、すごくミュージシャンだなって思いました。

もちろん、そのことから直接アルバムの曲を作ったわけではないですよ。最初に出来た曲は“utage”です。去年の頭に、〈戦争が起こるかも〉ということがあったじゃないですか。“utage”は、大々的に発信するつもりはないですけど、反戦歌というか、戦争の歌なんです」

※2020年1月、アメリカとイラン間の緊張が高まり、情勢が悪化。全面戦争の危機に陥ったが回避された

『Play time isn’t over』収録曲“utage”

――プロテスト・ソング的なところがある?

「う~ん……。俺的には、たまの“さよなら人類”。俺は他人に強要したくなくて、〈みんなこうすればいい〉というカルトがやりたいわけじゃないから、〈俺はこうするよ〉ってだけなんですよ」

――それは、Kroiの内田(怜央)くんとの対談でも言ってたよね。〈提案〉じゃなくて、〈提示〉だって。

「“utage”もそうですね。自分に対する戒めというか。“utage”は唯一コロナ禍になる前にあったんですけど、それ以外は全部コロナ禍になってから作った曲なので、去年の一年間を取り切ってるんです」