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Mach-Hommy “The Stellar Ray Theory”

田中「マック・ホーミーは、ニュージャージー出身のラッパー。DJマグスと組んだコラボレーション作品やアール・スウェットシャート、ユア・オールド・ドルーグとの共演でも知られています。ドープなヒップホップにこの人あり、といった印象ですね(笑)」

天野「ホーミーはもともとウェストサイド・ガン(Westside Gunn)が主宰するコレクティヴ〈グリゼルダ(Griselda)〉で活動していたんですよ。創造性の面が相違があって一時的に離れていたのですが、最近になって復縁。この“The Stellar Ray Theory”は、ウェストサイド・ガンをエグゼクティブ・プロデューサーに迎えた本日5月21日にリリースのアルバム『Pray For Haiti』からのシングルです。強烈なカヴァー・アートを含めて、アルバムを聴くのが楽しみですね」

田中「なお、アルバムの収益の一部は、ホーミーのルーツであるハイチの首都ポルトープランスの学校を改修するための資金として寄付されるそうです。それにしても“The Stellar Ray Theory”は、艶のあるホーンのサンプリングと埃っぽいブレイクビーツがジャジー。そこかしこに90年代のムードが漂っています。曲の終盤に映画『タクシードライバー』(76年)からサンプリングされたセリフが入っているところも、〈あの頃〉感。ウェストサイド・ガンも〈ヒップホップのクラシックを作ったんだ〉と語っていますね

 

Tobe Nwigwe feat. Fat Nwigwe “FYE FYE”

天野「トビー・ンウィグウィはナイジェリア系アメリカ人のラッパーで、ヒューストン出身。彼のことは、いつか紹介したいなと思っていたんですよね」

田中「何度も〈PSN〉候補に挙げていましたよね。トビー・ンウィグウィはフットボールの才能にも長けていたそうですが、音楽の道を選んだアーティスト。この“FYE FYE”にも参加しているファット・ンウィグウィは彼の妻で、トビーの作品にたびたび参加しています。そのファットとラネル・“ネル”・グラント(LaNell “Nell” Grant)とはオリジナルズ(The Originals)というグループを組んでいて、そのファミリー感も彼の特徴です」

天野「トビーは、2020年に“I Need You To (Breonna Taylor)”という警察の暴力の犠牲者の名前を掲げた短い曲で、〈ブリオナ・テイラーを殺したやつらを逮捕しろ〉と歌って注目を集めました」

田中ブラック・ライヴズ・マターの流れで話題になったんですよね。昨年12月にアルバム『CINCORIGINALS』を発表したばかりのトビーですが、今年に入ってすでに新曲をいくつも発表。そのうちのひとつは、先日エンプレス・オブの“One Breath”を紹介したときに触れた〈Sound It Out〉への提供曲“Caged Bird”です」

天野「そして、このニュー・シングル“FYE FYE”は、アフリカンなパーカッションやリズム、異様な緊張感のあるヴォーカルの折り重なりがトビーらしい、アグレッシヴな一曲。強烈なサブ・ベースや打ちつけるビート、叫びに近いトビーのラップは、曲中に出てくるカニエ・ウェストの『Yeezus』(2013年)を思い起こさせますね。〈お前がブラックなら、俺たちは同期できる〉と黒人の連帯を歌ったリリックにも注目。めちゃくちゃ力強いです」

 

Bleachers “Stop Making This Hurt”

天野「最後は、ブリーチャーズの“Stop Making This Hurt”。テイラー・スウィフトやラナ・デル・レイなどの作品に貢献してきた当代随一のポップ・プロデューサー、ジャック・アントノフ(Jack Antonoff)のソロ・ユニットですね。〈PSN〉で彼が登場することの多さといったら! 亮太さんも、彼のことをいたく気に入っていますよね」

田中「大好きです! 僕は、彼のプロデュース・ワーク以上にブリーチャーズが好きなんですよ。ポップソングメイカーとしての手腕は裏方仕事で十分に発揮されているかと思うんですが、ブリーチャーズではちょっと肩の力が抜けているというか、〈さらっといい曲を届けてくれている感〉がたまらないんですよね」

天野「“Stop Making This Hurt”はホーンやギターなどがトロピカルで、70~80年代のポール・サイモンやトーキング・ヘッズに通じる、うきうきするムードがあります。曲名も、トーキング・ヘッズへのオマージュ? ブリーチャーズは、ニュー・アルバム『Take The Sadness Out Of Saturday Night』を7月30日(金)にリリース。こちらも、今夏を彩る最高のサウンドトラックになりそう」