天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。グラミー賞についてのニュースです。さまざまな批判を受けて、ノミネート候補を決める投票委員会が廃止されました」
田中亮太「とはいえ、ウィークエンドは今後もグラミーをボイコットしつづけることを表明。問題は根深いですね。公平性ということでは、180人以上のミュージシャンがSpotifyへ抗議したことが話題でした。ユーザーの会話やバックグラウンド・ノイズをレコメンドに役立てる特許をSpotifyが申請したので、それを収益化しないでほしい、というオープン・レターです」
天野「年齢やジェンダーなどのプライヴェートなデータを危険にさらして金儲けに使わないでほしい、というとてもリベラルな主張ですね。あと、ストリーミング/サブスクリプション・サーヴィスからの制作者たちへの利益配分は、気になっているところです。値上げされてもいいので、音楽家たちに公平な配分をしてもらいたいですね」
田中「それから、コロナ禍を経てワクチン接種が進んでいるアメリカでは、〈Rolling Loud〉の超豪華なライナップが発表されたり、トラヴィス・スコットが主催する〈Astroworld Festival 2021〉のチケットが即完売したりと、〈ポスト・コロナ〉への動きが鮮明に。日本はいまこんな状況で、今後どうなることやら……。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
Isaiah Rashad feat. Duke Deuce “Lay Wit Ya”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はアイザイア・ラシャドがデューク・デュースをフィーチャーした“Lay Wit Ya”! 今週リリースが待望されていた一曲です」
田中「僕は、彼の名前も知りませんでした……」
天野「えっ、マジですか!? TDEことトップ・ドッグ・エンターテインメントに所属している、米テネシーのラッパーですよ! TDEは〈5月7日に何かリリースしますよ〉と煽っていて、〈ケンドリック・ラマーの新曲?〉と興奮して期待したファンもいたのですが、アイザイアの新曲でした。僕はアイザイアのことも好きなので、うれしいですね。亮太さんはとりあえず、彼のデビュー・アルバム『The Sun’s Tirade』(2016年)を履修してください(笑)」
田中「はい……。でもこの曲は、ハリウッド・コール(Hollywood Cole)による簡素でスカスカなビートがかっこいいと思いました」
天野「スリー・6・マフィアの“Ridin’ n’ Tha Chevy”(99年)をサンプリングしているそうです。客演のデューク・デュースは同じテネシー、メンフィス出身のラッパーなので、南部色が濃い一曲。トラップ一辺倒なラップ・シーンが停滞感を漂わせるなか、このダウナーでドープなダーティ・サウス路線には惹かれますね」
田中「The Faderの独占インタビューによると、アイザイアは待望のセカンド・アルバム『The House Is Burning』を6月にリリース予定。それまでに彼の過去作を予習しておきます!」
Empress Of “One Breath”
天野「2曲目は僕が推しているLAのアーティスト、エンプレス・オブの“One Breath”。エンプレス・オブは2020年に傑作『I’m Your Empress Of』をリリースして、その後アンバー・マークとの“You’ve Got To Feel”、TVシリーズ『ザ・ワイルズ 〜孤島に残された少女たち〜』のための“Broken”を発表。今回はそれに続く新曲です」
田中「“One Breath”は、国際キャンペーン〈Sound It Out〉のアルバムからのシングル・カット。〈Sound It Out〉は、メンタル・ヘルスに問題を抱える12~17歳の若者たちとのコミュニケーションを周囲の大人や両親に促すもの、だそうですね。この曲でエンプレス・オブは、〈マリアンヌという14歳の子の感情をフィーチャーした〉と語っています。そんなテーマを包み込む、ソフトで優しい質感のビートも心を落ち着けてくれる感じで、素晴らしいです」
天野「シンセサイザーやキックの音、それに英語とスペイン語を行き来するヴォーカルの響きが柔らかいですよね。さりげなく、UKベースっぽいフィルインが差し込まれているのもいい。今後、〈Sound It Out〉にどんなアーティストが協力していくのかも気になるところ」