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ウォン・カーウァイ映画に出会えたことは財産

――2019年にクランベリーズの“Dreams”(93年)をカヴァーしていましたが、あれは香港映画「恋する惑星」(94年)で主演のフェイ・ウォンが歌っていたヴァージョンを意識していたのでは?

「そうそう。ちなみに、あの映画に登場する“California Dreaming”(ママス&パパス)も前にカヴァーしてるんだよ。『恋する惑星』も大好きだし! ウォン・カーウァイも大好きな監督の1人で、ミュージック・ビデオを作る上でも影響を受けてる。フェイ・ウォンも大好きだし、あのカヴァーも本当に好きで……。自分があの曲をカヴァーしようと思ったのも、間違いなく『恋する惑星』からの影響。もちろん、子供の頃からクランベリーズを聴いてきたのもあるけどね。自分の好きなものが全部詰まってるから、カヴァーだけどものすごく大切で思い入れのある1曲なんだ」

2018年のシングル『Spotify Sigles』収録曲“Dreams”。クランベリーズのカヴァー

――新作『Jubilee』からのファースト・シングル“Be Sweet”のビデオは、「X-ファイル」(93~2002年)のパロディーになっていましたよね。「恋する惑星」も「X-ファイル」も90年代の作品ですが、89年生まれのあなたにとっては思い入れがあるのでしょうか?

「もちろん、大学ではウォン・カーウァイ作品を研究してたくらいだし、今また若い子達の間で人気が出てるみたいだよね。独特のスタイルというか美学が貫かれてて、映像もスタイリッシュで、独自のヴィジュアル・センスが光ってて……。ウォン・カーウァイ映画って、すごく詩的で魅力的で、あの独特のタッチが本当に好きなんだよね。大学で映画を勉強するようになって初めて知ったアジア人監督の1人ってこともあって、余計に感情移入しちゃう。アメリカで育ったこともあって、アジア人が主人公の映画なんてそれまでほとんど観たことがなかったし。完全に夢中になったし、自分と重ね合わせてたんだよね。大学生のときにウォン・カーウァイ映画に出会えたことは、本当に自分の財産。

『Jubilee』収録曲“Be Sweet”のミュージック・ビデオ

『X-ファイル』は、子供の頃は観てなかったんだけど、大人になってから、まわりの友達が懐かしのドラマにハマって、それで自分も観るようになって。もともとSF好きなのもあるし。

それと、スパイク・ジョーンズが監督したビースティ・ボーイズの“Sabotage”(94年)が好きで、ああいうおちゃらけたMVを作りたいなって思ったんだよね。お遊びみたいなノリで、シリアス感ゼロみたいな。警察官がドアをバーンっと蹴破って現場に突入するとか、地べたを転げ廻って移動する超ベタな感じとか(笑)。ただ、今のアメリカで警官をネタにするってセンシティヴな問題も絡んでくるから、特殊捜査班に設定を変更して、科学的に解明できない謎を解き明かす秘密部隊という設定で、架空の『X-ファイル』のエピソードを作ってみたってわけ」

――ガールプールのハーモニー・ティヴィダッドが出演した“Posing In Bondage”のビデオには、”Be Sweet”のビデオに続いてカップヌードルが登場しますが、繋がりがあるのでしょうか?

「スラッカー・カルチャー的なだらしない生活の象徴としてカップヌードルを登場させてるの。以前、“Road Head”(2017年)のMVでも、〈Road Head〉ってプリントされたステッカーを貼って登場させてるんだよね。

『Jubilee』収録曲“Posing In Bondage”のミュージック・ビデオ

それと自分は役者じゃないから、カメラの前に立って演技するのはやっぱり緊張する。自分で監督もしてるんだけど、カメラの前で行動してたほうが――食べるでも荷物を運ぶでも何でもいいんだけど、何かしらアクションしてたほうがやりやすくて。セクシーなポーズを取って歌うとかよりはよっぽどマシだし(笑)。動きがついてたほうが、そっちに集中する分緊張しないで済むからさ。映像を作るときも、もっと自然に演技するためにはどうしたらいいんだろう?って常に考えてるんだけど、無理して演技するくらいなら、〈食べてるシーンにしちゃえ〉ってしたほうがラクなんだよね。

“Be Sweet”のMVでは、ハーモニーのキャラクターはエイリアンが実在すると思い込んで危機感を感じてて、私にもそれを信じさせようと必死なの。対して私のキャラはぐうたらで、真剣に取り合ってないっていう設定で、どうやったらそのダメな感じを出せるだろうと思って、〈そうだ、ずっと食べてればいいや〉と思って。それで今回も〈Jubilee〉印のカップ・ラーメンを作ってさ。そうやって毎回、小ネタを仕込んでおくのが好きなんだよね。だから、スーパーマーケットのシーンでもちょいちょい〈Jubilee〉のロゴ入り商品が出てくる。ジミー・ファーロンの番組に出たときに使った小道具のビールも〈Jubilee〉印なんだよ」