連載

【現代ポップ独立派】第4回 改めて〈ロック〉バンドになったアイスエイジ(Iceage)

 今月リリースされたアイスエイジの5枚目のアルバム『Seek Shelter』でバンドは大きな変化を遂げた。いや、別にその変化は突然のものでなく、これまでの道筋で既にその種は撒かれていたのだが、ここまで吹っ切れてくるとは。いやはや。

ICEAGE 『Seek Shelter』 Mexican Summer/BIG NOTHING/ULTRA-VYBE(2021)

 デビュー当初は硬質で鋭利なポスト・パンク/ハードコアをサウンドの基調としていたアイスエイジは、そこをベースに着々とサウンドの幅を押し広げてきた。そんな〈あんまりロックっぽくないロック〉=ポスト・パンクから始まった彼らが、今作では正面を切って〈ロック〉と向き合っている。それは1曲目の“Shelter Song”からはっきりとしていて、アメリカ南部っぽいギターと女性コーラスが鳴り響くこのアンセムには、ローリング・ストーンズからの影響すら感じられる。

 実際、ヴォーカルのエリアスはミック・ジャガーへの愛着をインタヴューで語っていたこともあるので、ある意味彼らが好きなサウンドを無邪気に鳴らしているような趣もあるアルバムだ。もちろん十八番である冷たい鉄のような質感のサウンドも健在ではあるが、それよりもアーシーで情感あふれる質感が全編に渡って印象的なのだ。こんなふうに大胆な変貌を遂げながらも説得力のある作品を生み出せるのは本当に素晴らしい。

 もうひとアーティスト、大きな飛躍を遂げたのがジャパニーズ・ブレックファーストである。ミシェル・ザウナーによるドリーム・ポップなこのソロ・プロジェクトは、母親の病をきっかけに始められ、その後亡くなった母親との思い出は、最近出版され、アメリカでベストセラーとなった彼女の自伝で詳しく語られている。

JAPANESE BREAKFAST 『Jubilee』 Dead Oceans/BIG NOTHING/ULTRA-VYBE(2021)

 温かな筆致で二度と元には戻らない過去を描いた、この美しい自伝の雰囲気は、そのまま彼女の新作である『Jubilee』とも共通している。本作は何よりも前作までと比べて、ソングライティングからサウンドの造形に至る全てにおいて、飛躍的な進化を遂げているのだが、それを支えているのは自伝の執筆を経た、彼女自身の成長にあるのかもしれない。

 例えば“Posing In Bondage”では恋人の帰りを待つ人物の悲痛な想いが歌われているが、同時にそこでは親密な愛情も表現される。そして曲が進行するにつれ、サウンドにおいても徐々にそうした親密な空間が作り上げられていく。このような奥行きのある表現ができる人はそういないし、彼女は今後さらにその表現を深めていくだろう。

 ミュージシャンが成長していく時、それがあまり歓迎されないということはしばしばある。特にロック・バンドは初期衝動とか、ある種の荒削りさみたいなものがありがたがられたりするし、それは今においても根強く存在したりする。その気持ちもわからなくはない。でも人は好むと好まざるとにかかわらず成長というか変化していってしまうものであり、その変化が持つ素晴らしさのほうに心を開いていきたいし、今回の2作品は共にそんな素晴らしい変化を遂げた音楽家たちの作品で、そのような作品に出会えることはとても嬉しいものだ。

 


【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。

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