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Deafheaven “Great Mass Of Color”

天野「3曲目は、サンフランシスコのブラック・メタル・バンド、デフヘヴンの“Great Mass Of Color”です。この曲には驚きましたね。もう、ブラック・メタルでもなんでもない(笑)」

田中「デフヘヴンはもともと、シューゲイズやポスト・ロックの要素を取り入れていたバンドで、ブラック・メタルの枠組みからは大きくはみ出したバンドでした。〈ブラックゲイズ〉や〈ポスト・ブラック・メタル〉と呼ばれていた音楽性で知られていましたが、ここまで変化するとは……。“Great Mass Of Color”ではメタリックな要素が消え去っていて、純粋なシューゲイズ・ナンバーですね」

天野「ブラック・メタルの特徴であるトレモロ・リフや、ジョージ・クラーク(George Clarke)のグロウル/スクリーミング・ヴォーカルがなくなったのが大きいですね。作品ごとに進化してきたデフヘヴンが、ここにきて新たな一歩を踏み出しました。それでも、長大でドラマティックな構成は彼ららしいもので、後半は少しブラック・メタルの要素も感じられます。個人的には、ちょっと彼らのよさが削がれたような気もしますが……。でも、アルバムを楽しみにしたいですね」

田中「“Great Mass Of Color”が収録される新作『Infinite Granite』は8月20日(金)にリリース。ヴォーカルが変化してシンセサイザーとギターを組み合わせたサウンドが特徴、とのこと。気になりますね」

 

W. H. Lung “Pearl In The Palm”

天野「英マンチェスターのロック・バンド、W. H.・ラングのニュー・シングル“Pearl In The Palm”。W. H.・ラングは、2017年のシングル“Inspiration!”Nothing Is”や“Want”が話題になって、2019年にデビュー・アルバム『Incidental Music』をメロディック(Melodic)からリリースしました」

田中「ニュー・オーダーの後輩らしい、ドリーミーでエレクトロニックなダンス・ロック/ポスト・パンク・サウンドと、どこかユーモラスな愛嬌が魅力的なバンドですよね。ノイ!を思わせるリニアなビートも特徴で、ブライトンのスクイッドやロンドンのPVA、ウェスト・ヨークシャーのワーキング・メンズ・クラブなんかと比べたくなります」

天野「そんなW. H.・ラングの2年ぶりの新曲は、イントロから楽曲を引っ張っていく太いシンセサイザーのシーケンスがまずかっこいいですね。モヤモヤしていたサウンドはすっきりと洗練されて、よりエレクトロニックになった印象で、バンドの進化を思わせます。ライターの天井潤之介さんが〈Factory Floorの沈黙を埋めるミニマルの美学、70年代のベルリンへの郷愁が滲み出たアートロックが魅力だった〉と書いていて、そういった特色をより深化させていますね。ファクトリー・フロアにより近づいた、とも言えそうですが(笑)」

田中「ニュー・アルバム『Vanities』は、9月3日(金)にリリース。下半期の注目作になりそうですね」

 

illuminati hotties “Pool Hopping”

田中「イルミナティ・ホティーズは、カリフォルニア出身のサラ・タディン(Sarah Tudzin)によるインディー・ロック・ユニット。彼女はこのプロジェクトを〈テンダー・パンク〉と呼んでいるようですね。その名の通り、人肌の温かさを持つパンク・ロックを詰め込んだ2018年のファースト・アルバム『Kiss Yr Frenemies』は、大変好評を博しました。一時期、僕の知っているインディーやパンクのミュージシャンは、みんなこの作品の話をしていましたよ」

天野「それはそれですごい界隈ですね(笑)。いや、あのアルバムは愛せずにはいられないチャーミングな作品でした。その後彼女は、同作をリリースしたレーベルのタイニー・エンジンズ(Tiny Engines)と所属アーティストたちとの金銭トラブルに巻き込まれた結果、契約履行のためにミックステープ『FREE I.H.: This Is Not The One You’ve Been Waiting For』(2020年)を発表。すごいタイトルだな~(笑)」

田中「そういうユーモラスなパンク精神が、彼女が支持される理由なんでしょうね。この新曲“Pool Hopping”を収録したセカンド・アルバム『Let Me Do One Moreは、エモの名門レーベルであるホープレスの傘下に彼女が立ち上げたスナック・シャック・トラックス(Snack Shack Tracks)からリリースされるそうです。なんだか一安心ですね。それにしても、4月に出たシングル“MMMOOOAAAAAYAYA”も最高でしたが、この曲もまためっちゃいい! 力強く弾むビートと疾走感にあふれたギター・サウンド、甘酸っぱいシンガロング・コーラスの三拍子が揃ったパンク・ソングです。アルバムにも超期待!」