アイリッシュ・パンク好きを唸らせるUKのお祭り集団、スキニー・リスターがニュー・アルバム『Down On Deptford Broadway』を引っ提げて帰ってきた! 昨年に〈フジロック〉出演という形で初来日を実現させ、苗場で大暴れした彼らの存在をすでにご存知の方も多いはず。前夜祭を含め、4日間で合計8回も演奏したこの6人組が観客の気持ちを掴んだことは、同年の〈フジ〉の会場でもっとも多いCDセールスを記録した事実からも窺えよう。
ロンドン在住の彼らは、2009年、パブでのセッションを契機に活動をスタートさせた。その後、知名度が上がるに従い、〈グラストンベリー〉〈SXSW〉〈ワープト・ツアー〉〈コーチェラ〉〈ボナルー〉といった名立たるフェスを荒らし回るようになり、その一方でフロッギング・モリーやドロップキック・マーフィーズら大物たちともクラブ・サーキットを敢行。いつしか〈UKでもっとも忙しいバンド〉と囁かれるようになったのだが、そもそもは酒の席を盛り上げ、そのお礼としてタダ酒にあずかれればラッキーこのうえないと考えていた連中だ。タダで旨い酒が飲めるなら……と思えば自然と演奏にも熱が入るし、ステージを重ねるうちに酔っ払いを盛り上げるコツもどんどん掴んでいった。
そのようにして、世界に名を轟かすライヴ・アクトへとメキメキ成長。(曲によってはエレキも使うし、現在のラインナップにはドラマーも加わっているが……)アコースティック・ギター、ダブル・ベース、アコーディオン、マンドリン、そして歌いながら足で踏み鳴らすストンプ・ボックスを用いた小回りの効く編成は、演奏場所が限定されないという意味でバンドの大きな武器になったはずだ。実際、サイド・ワン・ダミーが彼らとUSでのライセンス契約を結んだきっかけも、路上ライヴだったとか。
メンバーそれぞれにパンクからエレクトロまで幅広い音楽を聴いているようだが、バンドにとっていちばんのインスピレーションになったのは、マックスウェル&ローナ・トーマス兄妹の父親、パーティ・ジョージの存在だ。彼はパブでブリティッシュ及びアイリッシュ・トラッド・フォークやシーシャンティ(水夫の間で広まった労働歌)を歌う流しのシンガー。マックスウェル自身も「小さい時は毎晩パブで酒を飲んで歌っている父が大嫌いだった。でも、酒が飲める年齢になって父の職場に行ったら、とても楽しくてね。こんなパーティー親父は他にいない!と思ったよ。いまでは父を誇りに思ってるね(笑)」と語っている。
本国に先駆け、日本先行でリリースされた『Down On Deptford Broadway』はそんなスキニー・リスターの2枚目にあたるアルバム。彼らの奏でる音楽に大きな変化はないものの、誰もが踊り出さずにいられないアンセミックなフォーク・パンク・ナンバーの数々は、何を聴かせたいかがぞれぞれパキッと明確になり、前作『Forge & Flagon』以上にバンドの魅力をダイナミックに描き出している。ダニエル・ヘプティンストールとローナの掛け合いヴォーカルが威勢良く繰り広げられるアップから、じっくり聴かせる哀愁たっぷりのバラードまでをラインナップ。〈パラッパッパラーラー〉というコーラスがキャッチーな“Trouble On Oxford Street”や、シンガロング必至な“Ten Thousand Voices”といった新境地を印象付けるモダンなナンバーも加わって、全体的にメリハリが出ているように思う。
そして、10月には待望のジャパン・ツアーも決定。〈フジ〉を沸かせたあの乱痴気パフォーマンスを、今度は東名阪で繰り広げてくれることだろう。そんな期待を抱きながら本作を聴いていると、大勢のオーディエンスがバンドと共に新作収録曲を大合唱する光景が、早くも目の前に浮かぶのだった。
スキニー・リスター
ローナ・トーマス(ヴォーカル)、ダニエル・ヘプティンストール(ギター/ストンプ・ボックス)、マックスウェル・トーマス(アコーディオン)、スリム・ブラック(マンドリン)、マイケル・カミーノ(ベース)、トム・ミルズ(ドラムス)から成る6人組。2009年にロンドンで結成し、翌年に『Grand Union EP』と『Homemade Tour EP』を発表。2012年3月の〈SXSW〉出演で話題を呼び、USの大型フェスにも参加するようになる。同年6月にはファースト・アルバム『Forge & Flagon』をリリース。2013年にその日本盤を発表し、〈フジロック〉で初来日。このたびセカンド・アルバム『Down On Deptford Broadway』(Skinny Lister/UNCLEOWEN)をリリースしたばかり。