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小野家で過ごした6か月

同時にチャーべくんは、マニピュレーター及びその他僕にできないこと全てのサポートとして、当時既にSwing Setとして活躍していた橋下竜樹くんにも相談。至れり尽くせりの状態を用意してくれ、竜樹くんが小野くんの実家に居候していた、という京都らしい?状況もあり、生まれて初めてのリミックス作業は、小野家を通した謎のムードを帯びながらスタートすることとなります。

小野家があるのは、丸太町通り京大側のマンションの高層階。夏には住居者だけに屋上が開放され、五山の送り火も四つ(惜しい!)一望できる好立地で、お母さんの単身赴任などで空いていた一室が僕たちの宅録スタジオに。京大生の吹くトランペットが日常的にリピートされ、ノックを返せないほど間取りの広いトイレで用を足し、孫の好みをメモ(ジャワカレー辛い、など)で管理するおばあちゃんとコミュニケーションをとりながら、リミックス・バージン喪失にはなんと!延べ6か月もかかりました。

 

ニュースクール × ブラジル歌謡 × ファンカデリックな初リミックス

当時の構想としては、自分のいるクラブ・シーンで主流となっていた、HCFDM、ビッグ・ビート~フィルター・ハウス、BPM120以上のロックなんかに飽きてきたタイミングでもあり、その辺りとBPM100前後のヒップホップの架け橋になるようなものを自曲のカラーとしたい。ネイティヴ・タン的なセンスだがラップでは無い、ブラック・ミュージック・マナーというよりはイージー・リスニングっぽいネタ感で、A&Mとかマリアッチのような軽妙なサンプリング・ソースとドラム・ブレイク?みたいな漠然としたイメージをDJの選盤の延長で考えていました。

アグリー・ダックリング(Ugly Duckling)の2001年作『Journey To Anywhere』収録曲“Little Samba”
彼らを中心に90’Sニュースクールのムードが(僕のなかで)急激に高まっており、HIP HOP不人気のフロアで何とか機能させたいとマッサージ的にかけてました。彼らは白人的解釈のカジュアルなネタ使いながらドラムは骨太、というスタイルでこの曲が収録されたセカンドがベストだと思います。Spotifyのプレイリストには別曲を
 

そして、当時ムタンチス(Os Mutantes)なんかを筆頭に、70年代のトロピカリズモ~MPB、ボサノヴァ周辺のレア盤を無許可で再発する粗悪なシリーズを楽しみにしていた僕は、サンバでもファンクでもない歌謡曲のような陽気なブラジリアン賛歌をファースト・サンプリングに選び、竜樹くん所有のKORGのTRITON(後にHARVARDのヤックに引き継ぐ)に取り込んでもらいました。ドラムやベースなど全て鳴りながらテンポも揺れまくるサンプルをループしてもらい、ヒップホップのメガミックスを作るような感覚でCUBISMO GRAFICOのオリジナル曲”Moon Is Yours”をコラージュしていきます。

ある時は京大生御用達のハンバーグ・レストラン「ジェイムス・キッチン」の波型ポテトに黄昏を感じながら、ある時は小野くん部屋での仮眠の際に流される、微音量のムーンライダーズを脳内にメディテートさせながら、ファンカデリックのドラム・フィルという刻印を入れ、竜樹くんとのヴァイブスの調整がラストを迎えました。

ジャケット・デザインの関係で明日までに決めろ!と急かされたユニット名は、小野くんディレクションの元、小学生時代のあだ名の〈ハーフ〉と、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(Crosby, Stills, Nash & Young)のクロスビーを消去法にて合体させた〈ハーフビー/HALFBY〉に決定。こうして〈俺はまだ本気出してないから、俺はまだ音楽作ってないから〉と逃げていた、もしかすると音楽作ったらセンスあるかも貯金を崩していくことになる訳です。

エール(Air)の2001年作『10 000 Hz Legend』収録曲“How Does It Make You Feel?”
ユニット名の考案と苦戦しつつ店(ZEST)で流れていたのは、70’Sアーシーなあの世界観が最高に早過ぎた「ヴァージン・スーサイズ」以前の名曲。めちゃくちゃ取ったのにめちゃくちゃ売れなかった