〈ピアノと歌〉でできることを最大限に活かしたファースト『逆光で見えない』(2015年)と、〈ピアノと歌〉を軸にはしつつも様々な楽器や音を取り入れてその進化ぶりを見せたセカンド『永久凍土』(2019年)。その流れを受けてのサード・アルバムは、ヨルシカのn_bunaや武部聡志、ガリバー鈴木といったアレンジャーや、香港のBlood Wine Or Honey(パーカッション、サックス他)、台湾のRuby Fatale(プログラミング)といったゲスト・アーティストの起用からも、前作での進化をさらに推し進めたようにも感じるが、それ以上に何倍も〈ピアノと歌〉という自身の軸をぶっとく強固なものにしたような印象を受ける。つまり、進化もしているし原点回帰もしているのだ。

まるで『永久凍土』の奥底で見付けた感情が融けて流れ出す様を雪崩に喩えたような“なだれ”や、美しい真夏の巨大な雲を恐竜に見立てた“真夏のダイナソー”、酸いも甘いも噛み分けた〈称えられることのない〉人生をただ称える人生賛歌“perennial”など、あまりに美しい景色と強い感情を描いた13曲が立ち並ぶ。特に、音楽を愛する気持ちを深く刻んだラストの“音楽のすゝめ”の美しさと強さは〈圧巻〉の一言に尽きる。