Mikiki編集部員が最近トキめいた邦楽曲をレコメンドする毎週火曜日更新の週刊連載〈Mikikiの歌謡日!〉。今回は2021年最終回ということで、編集部員それぞれが〈今年の1曲〉を厳選し計4曲を掲載いたします。 *Mikiki編集部

★〈Mikikiの歌謡日!〉記事一覧

 


【天野龍太郎】

藤井 風 “旅路”

〈今年を代表するヒット曲〉ということでいうと、Mikikiのレビューのランキングで1位に輝いた“きらり”なのかもしれませんが、私が強く胸を打たれたのは“旅路”でした。自分のリスニングの傾向がますます洋楽偏重になっていっているなかで、繰り返し聴いた日本の曲、という点でもこの曲です。リリックが伝えるメッセージ、聴き手を優しく包みこむ歌とメロディー、Yaffleが手がけたプロダクション、フィルムの手触りを活かしたビデオと、どれを取っても素晴らしくて、聴くたびに心が動かされます。2020年も2021年も〈藤井 風イヤー〉だったわけですが、2022年もきっとそうなることでしょう! 配信リンクはこちら

 

【鈴木英之介】

Homecomings “Here”

タイトなスネアの響きとキラキラしたエレキギターの音色が絡み合い、どこか夜明けを彷彿させる印象的なイントロ。これを耳にしただけで、多くのインディーロック~ギターポップ好きは心を鷲づかみにされてしまうに違いない。自分もまた、そんな中の一人だった。一般にあるアーティストの曲が〈○○らしい曲〉と形容されるとき、それは新鮮さよりむしろ懐かしさの印象と密接に結びついているものだろう。しかしこの曲はどこを切っても〈ホムカミらしさ〉に溢れていると同時に、とびきり新鮮に響くのだ。

自分の持ち味を限界まで研ぎ澄ますことで、かえって脱皮することができる。それを教えてくれたという意味で、“Here”とそこから始まるアルバム『Moving Days』は、今年とりわけ心に残るものだった。メンバーの福富優樹とYOUR SONG IS GOOD サイトウ“JxJx”ジュンとの対談記事も、ぜひ一読を!

 

【田中亮太】

Yukio Nohara “DANCER”

2022年は、みずからダンスミュージックを作っている若者たちとその音楽について、もっと知りたいという思いから。CYKが〈RDC〉でプレイした瞬間の光景は感動的でした。

 

【酒井優考】

日食なつこ “音楽のすゝめ”

もしかしたら偉そうな物言いになってしまうかもしれませんが、誰のことを下げる意図もないことをまずご了承ください。

自分にとっての2021年の音楽業界は、とてもつまらないものでした。

昨年に大好きなバンドのリーダーでもあり、友人でもあった素晴らしいミュージシャンが亡くなり、今年にはそのバンドも解散。また、もう一人、自分の最も好きなアーティストの一人は過去のさまざまなあることないことを掘り起こされて炎上し、活動を休止。そうでなくとも、世界中がこんな苦しい状況だからこそ、それをバネにした素晴らしい音楽がたくさん出てくると思っていたのですが、そんなものはどこにもありませんでした。もちろん個々で見れば素晴らしい曲はいろいろとあったので、それらはその都度この連載やレビューで紹介したりインタビューしたりしていきましたが、自分が心に負った大きな傷を癒すような、癒しはしなくとも傷を忘れさせて熱中させてくれるような音楽ではありませんでした。

一方で、それと単純比較するわけではないのですが、音楽以外のカルチャーに感動することが増えました。大好きなマーベル映画は、次々と世代交代が行われたり新たなヒーローが続々登場したりしてはその都度ワクワクしたし、大好きな任天堂のゲームは、ゲーム業界のあらゆるキャラクターやゲームタイトルを巻き込んでは数か月に1度、お祭り騒ぎを起こしていました(これは今年に限った話ではないですが)。まさかゲームキャラの参戦ムービーでボロボロ泣く日が来るとは。そして、なかなか笑ったり興奮したりすることがない中で、お笑い芸人のみなさんにも非常に助けられました。音楽のライブは声も出しちゃいけなかったけど、お笑いのライブではみんなが笑い声を出していた。笑うって大事なことだなと思いました。本も漫画も面白い作品、ためになる作品にたくさん出会いました。

単に自分が音楽というものに疲れていたのかもしれませんが、例えコロナ禍であっても、他の業界が縦や横の繋がりをうまく使いながら感動を作っていたのに対して、音楽業界はただただ全員がダメージを追って、疲弊していくばかりのように見えました。

「お前が見てなかっただけだよ」と言われればそうなのかもしれません。「アーティストや業界のせいにしてないで、お前がやれよ」と言われればそうかもしれません。すみません。でも今年なんか印象に残ってる音楽ってあったっけな?って思います。老若男女みんなが思わず口ずさむような楽しい曲。辛い時に元気を出してくれるような曲。切なくて胸が苦しくなるような曲。受け手の感情がバカになってるからでしょうか? 自分にはありませんでした。紅白やレコ大の曲目を見ても、↑の3人の曲を聴いても全然ピンと来ません。

自分にとって2021年は、音楽が一度死んだ年だと思っています。いや、死んでたのは自分の方だったのかな。コロナがどうとか、会社がどうとか、業界がどうとか、社会がどうとか、そういう問題もあるけれど、この際そんなことはどうでもいいです。それより、また音楽に熱中できるような時間が来るといいな、と思っています。