〈NO MUSIC, NO LIFE.〉という標語を掲げる場に所属しておきながら、〈でも、音楽なんて結局不要不急のものなのでは?〉という疑問が否が応でも頭をよぎる昨今。現に自分は2020年から現在までライブにほとんど行けなかった(行かなかった)し、配信ライブもあまり観なかった。音楽を聴く機会も大幅に減った。それでも普通に生きていけていた。

日食なつこは、まるで学生時代の厳しかった先生のように、いつも聴くだけで背筋がピシッと伸びるような音楽を奏でるシンガー・ソングライターだ。そんな彼女が、自分と同じようにこのコロナ禍を受けて〈音楽ってなんか役に立つのか?〉と疑問に思い、考えた末に出した答えが今作の表題曲“音楽のすゝめ”だという。

豪華な装丁の横書きを見れば〈An Encouragement of Music〉。〈すゝめ〉とはつまり、〈素晴らしいものだからそれを行いなさい〉という〈奨励〉の意味だ。そして歌詞にはそんな〈音楽を行う〉ためのルール……なんて堅苦しいものではなく、あくまで手引きとかコツのようなものが9か条、記されている。

それを歌い上げる日食先生の歌声は、やはり一見強くて厳しいが、その厳しさは誰かにルールを強要するようなものではなく、〈音楽って素晴らしい〉〈そしてその音楽を楽しめる僕らも素晴らしいんだぜ〉と胸を張って言う、何よりも温かい優しさが奥底にあるからこそのものだ。

続く“ダンツァーレ”は、辞書を引いても出てこないので造語かもしれないが、〈踊れ〉という意味に受け取れた。まるでフラメンコのような手拍子に硬いピアノの音、そして踊りたくなるようなスピード感と一緒に歌われるのは、グズグズしてる聴き手を鼓舞し、〈行けよ、飛べよ〉と背中を押すメッセージ。やはり力強い曲かと思いきや、曲は途中で転調し、かわいらしい一面も見せてくれるからたまらない。

そして最後は美麗で壮大なバラード“峰”。静かな、ゆったりとした流れの中で、薪が燃える音や鉛筆を走らせる音、水を注ぐ音や雨の音、様々な生活音たちがかすかに聴こえる。それはまるで、これまで奨励してきた音楽っていうものは、楽しいし美しいし踊れるものだけど、何よりいつも生活に寄り添っているものなんだよ、ということを体現しているかのようだ(まるで最初の標語のように)。

そしてそれらの生活音と優しいピアノの弾き語り、雨粒のようにポツポツと爪弾かれるベースのハーモニクス。それらを〈峰〉を中心とした壮大な大自然が包んでいる光景が目に浮かんでくる。

3曲を収録した盤面と歌詞カード、そして怒涛の2020年に起きた喜怒哀楽を記した小冊子(個人的に日食なつこは、もしかしたら山奥の仙人みたいな生活を送っている人なんじゃないかと気になっていたから、彼女の生活が垣間見えたのは面白かった。面白かったという感想が正解なのかはさておき)と、それらを包む豪華な玉紐付きの装丁は、うざきひろみによるデザインのすべてが美しく、まるで大切な人から大切な手紙が届いたかのような気分に浸れる。中身の音楽だけでなく、パッケージからも〈だからこそ、音楽を手に取る必要がある〉ということを実感させられるだろう。