少年の頃にときめいた音楽を背景に編んだ“笑って歩こうよ”
〈higher ground〉のタイトルのもとにポップス、ロック、クラシックのシーンで活躍する精鋭プレイヤーたちを集め、バンド・サウンドと弦楽アンサンブルを融合──〈ASKA premium ensemble concert -higher ground- 2019-2020〉は、デビューから40年の時を経たASKAが、表現者としてより〈高み〉を目指すべく幕を開けたコンサート・ツアーだった。コロナ禍によって昨年3月以降の公演は中止となってしまったが、それでも手応えは大きかった。
「こういうライヴをやったのは、過去ELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)ぐらいなんじゃないかなあと思っているのですが、他のアーティストでも行っていたかもしれません。15人のストリングスを連れてツアーするなんていうのはね、まあなかなかできないことですよ。しかし、想像を超えるライヴとなるかもしれない。やる価値はあると思い、あのライヴに挑みました。あれは癖になりますね(笑)クラシック畑の奏者全員が弦楽器にピックアップマイクを装着してくれた。これで、バンド・サウンドにかき消される心配は消えました。僕、ASKAバンド、ストリングス・チームの三位一体が形になりました」
コロナ禍で公演の中止や活動の制限を余儀なくされたミュージシャンは彼に限らずだが、その期間はどのような思いで過ごしていたのだろうか。
「もともと部屋にいるのが好きなので、あまり外には出ないんですけど、コロナのせいって言ってもしょうがなくて、時代の現象としてとらえなくてはいけない。使い古された言葉ですけど〈やがて朝は来る〉、そう思っていかなきゃと。やはりね、元気でお仕事されてる方、ハツラツと見える方も、やはりみんな心のどこかが弱ってるはずなんです。表面的にそう見せないとか、意識せずにそれを表面に出さない人もいますけどね。そういったなかで〈これが僕自身の役割です〉とまでは言わないですけど、ちゃんと自分の本業である音楽を、新曲を作っていくっていうことは僕のアイデンディティーとして保ち続けました。そもそも、キャリアのあるミュージシャンってだんだん曲を作らなくなるじゃないですか。それは、僕自身その立場になって気がついたことがありました。作れなくなるわけじゃない。何十年も前から応援してくれてるリスナーがいて、その方たちが喜びを感じるのは、自分の生活のなかにいちばん入り込んできた楽曲を生で体験すること。新曲を出せば、もちろん喜んでもらえるでしょう。しかし、聴きたいのは……ってリスナーの気持ちになると、求めるのは新曲ではないんですね。それはしょうがないですよね。僕はそういう長年のリスナーの気持ちも受け止めながら、自分のアイデンティティーや自分自身を崩さないように新曲を作り続けるっていうスタンスは失わないようにしようと思っています。オーディエンスはオーディエンスの声として、それを根こそぎひっくり返すようなステージをやればいいわけだから。そういう気持ちで向かっていますね」