Composer、Classic、Contemporary、自由な発想でクロスする、神奈川県民ホール小ホールの新シリーズ〈C×C(シー・バイ・シー)〉

 「おふたりは個人的な感覚からいっても、日本の作曲家の中堅のなかで、いま最も刺激的で最も面白い存在。そして批評家として少し踏み込んだ言葉になるかもしれませんけど、何よりこのふたりの特徴だと思うのは、狭い狭い現代音楽の意味ありげな世界とはちょっと違う作品の提出の仕方をされているってことだと思います。業界の中じゃなくて、外に放射していく力をすごく感じるんです」

 こう語ったのは、神奈川県民ホールで芸術参与を務める音楽学者の沼野雄司。このホールの新企画〈C×C 作曲家が作曲家を訪ねる旅〉で公演の監修を務める2人の作曲家――川上統(79年生)と山本裕之(67年生)を紹介した言葉だ。企画名からも想像できるように、彼らによる書き下ろしの新作を含む自作品と、それぞれ指定された過去の作曲家による作品を絡めたコンサートなのだが、どちらも非常に面白いプログラムとなっている。

 2021年11月6日の〈山本裕之×武満徹(没後25年)〉では、この十数年ほど「一つの線に様々なリズムやずれたピッチが施されることにより、焦点が曖昧になっていく手法」を追求してきた山本が、自分とは遠い存在だという武満作品のなかに敢えて共通する要素を見出し、それらを併置していくことで両者の違いを楽しむプログラムになっている。新作として書き下ろされるのは“横浜舞曲”――基本的に楽器を想定せず音を書き進め、後から強引に5つの楽器に割り振っていくことで、新たな発想が生まれるというユニークな作品だ。これを武満の“雨の呪文”におけるハープの特殊調弦を取り入れて、作曲するという。

 2022年1月8日の〈川上統×サン=サーンス(没後100年)〉では、スクエアプッシャーとナンカロウとフォーレを敬愛(!?)し、現代音楽らしからぬ躍動的なリズムと色彩感豊かなハーモニーをもった独自の音楽を生み出している川上が、“白鳥”等で知られるサン=サーンスの組曲“動物の謝肉祭”に対し、1曲ずつ対応した組曲“ビオタの箱庭”――ビオタとは生物相のこと――を書き下ろす。例えば“獅子王の行進”には“サスライアリの行進”を、“雌鳥と雄鶏”には“ジュゴンとマナティ”を、“水族館”に対しては“ウォードの箱”を、“ピアニスト”に対しては“コンドロクラディア・リラ”(その名の通り、リラの弦のような形をした深海生物)……といったように。

 たったこれだけの説明でも如何に刺激的かつ、とてつもなく独創的な公演になるかが伝わるだろう。しかも、こうした曲目を演奏するのが、今をときめく若手プレーヤーたちだというのも更に期待値を高める。例えば山本の公演では、今年のコンポージアムで恐怖に身が震えるほどの恐るべき演奏を聴かせたヴァイオリニスト石上真由子やチェリスト山澤慧らが出演。そこにベテラン勢である、ピアニスト中村和枝やエレクトロニクスの有馬純寿が絡むというのも興味深い。

 一方、川上の公演では、日本を代表するヴァイオリニスト諏訪内晶子と共に今年2月、川上作品を素晴らしく聴かせたばかりのピアニスト阪田知樹が、川上自身の熱烈なオファーにより出演。他にも近年、様々な映像作品やJ-Popで先鋭的なサウンドを聴かせてくれているEnsemble FOVEに所属するメンバーも、個人で出演。川上の新作だけでなく、この豪華な演奏家陣で披露される“動物の謝肉祭”も非常に楽しみだ。

 音楽が抽象的すぎて、何を聴けばいいのか分からない……なんてことは絶対にない。必ずや誰にとっても面白さに気付ける〈C×C〉は必聴である。

 


LIVE INFORMATION
C×C 作曲家が作曲家を訪ねる旅

山本裕之×武満徹(没後25年)
2021年11月6日(土)神奈川・横浜 神奈川県民ホール 小ホール
開演:15:00

■プログラム
武満徹:“雨の呪文”スタンザII”サクリファイス”カトレーンII”
山本裕之:”輪郭主義II・IV””紐育舞曲””横浜舞曲”(新作初演)

■出演者
石上 真由子(ヴァイオリン)
山澤 慧(チェロ)
丁 仁愛(フルート)
岩瀬 龍太(クラリネット)
佐藤 秀徳(フリューゲルホルン)
高野 麗音(ハープ)
大場 章裕(打楽器)
土橋 庸人(リュート&ギター)
中村 和枝(ピアノ)
大瀧 拓哉(ピアノ)
有馬 純寿(エレクトロニクス)

川上統×サン=サーンス(没後100年)
2022年1月8日(土)神奈川・横浜 神奈川県民ホール 小ホール
開演:15:00

■プログラム
サン=サーンス:組曲“動物の謝肉祭”
川上統:組曲“ビオタの箱庭”(神奈川県民ホール委嘱作品・初演)

■出演者
阪田知樹(ピアノ)
中野翔太(ピアノ)
尾池亜美(ヴァイオリン)
戸原直(ヴァイオリン)
安達真理(ヴィオラ)
荒井結(チェロ)
内山和重(コントラバス)
多久潤一朗(フルート)
芳賀史徳(クラリネット)
西久保友広(打楽器)
藤井里佳(打楽器)

■チケット
一般:4,000円
学生(24歳以下・枚数限定):2,000円
セット券(11月6日&1月8日):7,000円
※全席指定
チケットかながわ:0570-015-415(10:00~18:00)
https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc

会場:神奈川県民ホール 小ホール
​アクセス:みなとみらい線 日本大通り駅下車 山下公園前

主催:神奈川県民ホール
神奈川芸術文化財団 芸術総監督:一柳慧
県民ホール・音楽堂 芸術参与:沼野雄司
※就学前のお子様はご入場いただけません
※やむを得ない事情により、出演者、曲目等が変更になる場合があります
https://www.kanagawa-kenminhall.com/cby2021/