新装版“PRIDE”が教えてくれたこと

 7月に発表されたシングル“笑って歩こうよ”でASKAが語りかけていたもの。それは、ウェルメイドなメロディが何よりも正義だった時代を少し思い出してみようよ、ってことだった気がする。あの曲を受け取ってから彼の楽曲が備えるスタンダード性について考えを巡らせていたのだが、そこへCHAGE and ASKA時代の名曲“PRIDE”のASKAヴァージョンをニュー・シングルとして発表する報せが届く。彼の代表曲のひとつに数えられるこのスタンダード・ソングはたしかシングル化されておらず、月日を重ね、多くの人に手渡されながら味わいを深め、存在感を高めてきた経緯がある。そんな“PRIDE”をいまよみがえらせる彼の心境とはいったい? 質問すると「でも歌い直すだなんて、考えてもみなかったけどね」とASKAが答えた。

 「たいていの曲は演奏も熟成していない状態でレコーディングしなければならないし、ヴォーカリストも慎重に歌わざるを得ない。作品として何とか形にできるけど、アートに昇華されたものにはどうしたってなれない。32年間、この曲をどれだけ歌ってきたかわからないけど、時間を経てすごく深みが出てきたなって思う。歌詞にしても人生経験を積みながら発見していった真意をうまく表現できたんじゃないかと」

ASKA 『PRIDE』 DADA label(2021)

 セルフ・カヴァーに至った理由は、親交のある亀田興毅が自身の番組テーマ曲に“PRIDE”を使いたいと懇願したことがきっかけだった。作るには時間が足りないし、途中からのオンエアになってしまうけどいいの?と訊くと、かまいません!と即答した亀田の熱意に打たれ、これでやらなきゃ男が廃る!とオファーを承諾するに至ったという。

 「“PRIDE”を書いた頃、沢山曲を作っていたけど、誰々のどの曲に影響を受けて、というふうにバックボーンを示せるものがひとつもなくて。そんななか目の前にデヴィッド・フォスターが作る音楽が現れた。あのとき、それまでの音楽作りを根底から覆されたような衝撃があった。彼が作る曲にはどれもドラマが仕込まれていて、効果的な仕掛けがふんだんに散りばめられている。以降僕の曲作り方法はガラリと変わり、作為的な転調を使い出していくんです」

 イントロからAメロに移行するときの鮮やかな転調に触れるといまだにトキメキで胸が痛くなるほどだが、このリメイク版は生ピアノの響きが基調であるからか、だいぶ趣が異なる。また、高い汎用性を備えたサウンドの効果で普遍性が向上した印象すら与えるのだが、その変化は歌詞の響き方にも影響を及ぼし、混迷の状況下で真実を掴み取ろうとガムシャラに奮闘する歌詞の主人公の様は、前よりも迫真力を持って浮かび上がってくる。

 「まったく世界全体、何が真実かわからないことばかり。でも先に向かうため、僕らは賭けをしなければいけない。夢に乗り込んで傷ついて知ることばかりだけど、かといって挑戦をやめるわけにはいかない。僕らはいま時代に試されているのかもしれないね。つねに冒険に向かってしまう姿勢? それは若い頃からずっと同じ。生まれついての宿命なのか、それとも剣道をやり始めてから身に付けたことなのかわかりませんが、いまだに〈なんでそれをやるの?〉って言われることばかりですよ。でもそうしないと進めないから仕方ない。たぶん冒険に興味がなくなったときは、きっと音楽をやめるときだろうな。それから歌詞が普遍性を持ち得ていることに関しては、僕がずっと現代詩を読み続けてきた影響かも。現代詩の作家たちが言葉の選び方などでつねに重要視していたのはテーマ性だった。僕の詩作もそれを意識している」

 エヴァーグリーンとはちょっとやそっとの風で揺らいだりしないものに付けられる保証シールのようなものだと、新装版“PRIDE”は教えてくれる。何よりもASKAの創作意欲がここにきていっそう高まっている事実を伝えることこそ、最大の聴きどころかもしれない。このヴァージョンもまた時間をかけて磨き上げられ、揺るぎない強さが備わっていくのだろう。

 


PROFILE: ASKA
1979年CHAGE and ASKA として“ひとり咲き”でデビュー。“SAY YES”“YAH YAH YAH”“めぐり逢い”など、数々のミリオンヒット曲を世に送り出す。音楽家として楽曲提供も行う傍ら、ソロ活動も並行し、1991年にリリースされた“はじまりはいつも雨”が、ミリオン・セールスを記録。同年のアルバム『SCENE II』がベストセラーとなり、1999年には、ベスト・アルバム『ASKA the BEST』をリリース。また、アジアのミュージシャンとしては初となる「MTV Unplugged」へも出演するなど、国内外からも多くの支持を得る。2019年6月には、ソロとしては約10年振りとなる台湾、香港での海外公演を開催。

 


INFORMATION

MV「PRIDE」公開中。
ASKAオフィシャルサイトHP
https://www.fellows.tokyo/

アンコール公演オフィシャルサイト
http://www.classics-festival.com/rc/aska-premium-concert-tour-higher-ground-2021/