©Obidi Nzeribe

生まれ変わったクローカーが奏でる、壮大なストーリー

 多くのアーティストたちが、コロナ禍で隔離を強いられた2020年。シオ・クローカーは、前作『Star People Nation』がグラミー賞にノミネートされ、そのイヴェントに出席後、生まれ故郷フロリダの母の家に滞在中にコロナ・パンデミックが拡大し、全てのギグはキャンセルされた。

 「故郷の街は、ロックダウンはされなかったけれど、自らテレビ、電話、ソーシャル・メディア、人との交流などをシャット・アウトして、引き篭もった。トランペットも、音楽にも一切触れず、過去10年の自分を振り返り、ダークサイドに向かい合い、ネガティヴな部分を悔い改める。アーティスト/ミュージシャンである前に、人間としての自分、家族、友人、社会とのつながりについて、自らのルーツを深く探究した。そして私は生まれ変わる。自分と、自分の音楽、アイディアを信じて、何も恐れることはなくなった。それから制作にとりかかったのが、このアルバム『BLK2LIFE || A FUTURE PAST 』だ」。

THEO CROKER 『BLK2LIFE || A FUTURE PAST』 Masterworks/ソニー(2021)

 完成した本作は、レギュラー・グループを核に多彩なゲストを迎え、曼陀羅のように様々なサウンドとリズムのテクスチャーが混在するが、クローカーのブラックネスとソフトなトーンのトランペットが全てを統合し、壮大なストーリーを奏でる。2014年の『AfroPhysicist』でのアメリカ再デビュー以来、コンセプチュアルなアルバムをリリースし続けているクローカーのキャリアの中で、現在の最高到達点である。2017年に拠点をニューヨークから、ロサンジェルスに移した影響も、ジャズ・オリエンテッドな音楽から、さらなる普遍性を持つブラック・ミュージックへの進化に表れている。

 「このアルバムは、一編の映画のように聴いて欲しい。『スター・ウォーズ』に喩えると、ルーク・スカイウォーカーは私のトランペット。頼れる相棒のハン・ソロは、カッサ・オーバーオール。プリンセス・レイラは、アリ・レノックス、師匠のオビ=ワン・ケノービは、ワイクリフ・ジョン。老師ヨーダは、ゲイリー・バーツだ。主人公が人々に出逢い、触発されてストーリーが展開する」とクローカーは自信作を語る。アートワークにも、こだわった。自らのルーツであるアフリカの古代皇帝に扮したクローカーと、彼を囲む賢人たちはゲスト・アーティストたちが固め、遠い未来を見据えるイラストレーションを、青山トキオが描いた。

 「自主隔離期間中に浮かんだアイディアは、まだまだたくさんある。エピソード2は、ラヴ・ストーリーになるかな。期待して欲しい」。

 中世ヨーロッパでペスト禍の後に、ルネッサンスの芸術文化の大爆発が起きたように、シオ・クローカーの才能も、今大きく開花している。